【コラム】八百長疑惑の向こうに新たな曙光が見える-W・ペセック

エジプトの反政府抗議運動を見て世 界のジャーナリストは問い掛ける。こうした事態はあの都市でも起き るのか-。

ここ東京では答えは「ノー」だ。火炎瓶を投げ、菅首相の退陣を 要求するといった1968年のような学生運動は二度と起こらないだろう。 今時の若者の考えは、渋谷の街に集まる者たちに代表されるようにな り、日本で集団的な抗議運動が起こることはごくごくまれなケースだ。

ただ、1億2600万の日本国民が変化を切望する新たな兆候がある。 日本人がチュニジア人やエジプト人のように革命的な道を歩むことは ないだろうが、長きにわたり社会を抑圧してきた3つの要素に対する 反発的な動きがかすかな希望の兆しを与える:その要素とはヤクザ、 政治、相撲だ。

生活水準が低下する一方、特権階級はいつもと変わりない生活を 続ける中、水面下の日本では歴史的なアイデンティティーの危機が進 行している。日本の軌道修正につながる可能性がある変化、そしてよ り明確な説明責任に対する欲求が高まっている。これは一段の経済成 長に加え、デフレと債務の縮小を意味するだろう。

日本の上流階級には強い特権意識が長く根付いている。政治家は 自分たちを法律を超越した存在であると考え、質問にも答えない。暴 力団は人目をはばからず活動し、名刺を渡し、銀行業のような合法的 な事業に手を伸ばした。日本の国技である相撲は八百長疑惑でたたか れている。

日本が成長局面にあり、市場は活発に動き、明るい将来が待って いるのならそれでも良かった。この困難な時代においては、力を持つ 金満族、有名人、不正を働く人々を受け入れられなくなりつつある。

銃を持ったゴールドマン

忍耐が薄れつつある1つの兆候は、日本の犯罪組織ヤクザの取り 締まりだ。警察当局が風俗や麻薬、ギャンブルの取り締まりを強化す る中、ヤクザは不動産や建設、株式へとその収入源を広げた。ジェイ ク・アデルスタイン氏は著書「トーキョー・バイス」で、ヤクザを「銃 を持ったゴールドマン・サックス」と表現している。8万人と推定さ れる暴力団に対する闘争の広がりは、日本の暗部に対する国民の不満 を反映している。

2つ目は、民主党の小沢一郎元代表(68)に対する風向きが変わ りつつあることだ。貧富の差の拡大、日本の国際的な地位低下は政治 家一人の責任ではない。それでも、多くの国民は小沢氏には責任があ ると考えるだろう。

シルバー民主主義

小沢氏は舞台裏から操る「闇将軍」として知られる。同氏は先月、 政治資金規正法違反で強制起訴されたが、過去最大の予算の議会通過 や膨張する債務をめぐる懸念を和らげる日本の対応力に暗い影を投げ かけた。米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が日本国債の 格付けを中国と同じ水準に引き下げたことは、時代が変わりつつある 兆候に違いない。同氏の強制起訴は、日本の硬直化した政治と高齢者 の意見が反映されやすい「シルバー民主主義」をめぐって高まる幻滅 感の表れだ。

日本のリーダーシップは人口と共に高齢化しつつある。予算を管 理し、選挙区を大事にするのが長老たちであり、20代の若者が明るさ を失うのも不思議ではない。本当のゴールドマン・サックス・グルー プで職を得るには程遠く、多くは低賃金の「フリーター」として職を 転々とする。

菅首相は、税と社会保障の一体改革を議論する「社会保障改革に 関する集中検討会議」を設置し、副議長には消費税倍増を主張する与 謝野馨経済財政相(72)を、有識者メンバーに元金融担当相の柳沢伯 夫氏(75)をそれぞれ起用した。これを言い換えるならば、日本の平 均退職年齢をはるかに上回る両氏は、65歳以上の高齢者を支えるため 若者にもっと消費するよう望んでいるのだ。

この国の縮図

いつも私に奇妙に思えるのは、日本の高齢者のやり方を遠慮なく 批判した堀江貴文氏と村上世彰氏が刑務所に入れられたのに、小沢氏 は自由に歩き回っていることだ。インターネット起業家の堀江氏がイ ンサイダー取引の罪に問われたのは30代前半で、物言う株主の村上氏 は40代半ばだった。何という驚くべき偶然か。

3つの目の変化の兆しは相撲だ。アデルスタイン氏や「やばい経 済学(フリーコノミクス)」の著者を含む多くの人が長年うすうす感じ ていたように、力士の携帯電話から八百長相撲への関与が疑われるメ ールが警察当局によって確認された。

相撲は私を魅了する。完全な男社会であり、手本としては既に崩 壊しており、外国人には溶け込みにくく、ファン層が急速に高齢化し ているなどの点で、相撲はこの国の経済の縮図だからだ。興味深いの は、今回はこの問題が角界だけにとどまる状況にはないことだ。有力 なメディア各社が現状に飽き飽きした人々に情報提供することで、問 題が広がりを見せている。

日本の新たな夜明けを予想するのは愚かなゲームだ。ただ、いつ もおとなしい集団がいら立ち、遠慮なく声を上げつつある。この国で は革命ということにはならないが、変化を嫌うこの国に心強い兆候が 表れている。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコ ラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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