【コラム】金持ちはますますリッチに、格差縮小の妄想を捨てよ-リン

信用危機は新しい謹厳実直な時代 をもたらすという議論を覚えているだろうか。金融業界は縮小し、貧 富の差は縮まり、高所得層は税率引き上げによってもっと社会に貢献 するようになる――はずだった。

ところが、そんなことは何も起こらなかった。実際には、リセッ ション(景気後退)は金持ちをもっと金持ちにした。英国のデータを 見ると、貧富の差はむしろ広がったようだ。貧富の差が勝手に縮まる などとの妄想は捨て去ろう。政府は通常、金持ちを助ける。高度な専 門技能を要する職の賃金は永久に上がり続ける。グローバル化のおか げで、金持ちは居住国の経済とは何ら無関係に豊かに暮らせる。

英銀HSBCホールディングスが先週発表したユーガブの調査に 基づくリポートによれば、英国の富裕層(年収10万ポンド=約1330 万円以上の世帯)は今年、支出を平均7.8%増やす計画だ。支出増額 分の一部は貯蓄を減らすことで捻出される。謹厳実直とは程遠い。

一方、普通の家計では過去3カ月の賃金上昇率が中央値で2.2% とインフレ率(3.7%)を下回っている。普通の人は実質ベースで減 俸となっているわけだ。

一方、高所得層の羽振りは良い。ロンドン・スクール・オブ・エ コノミクスのスペーシャル・エコノミクス・リサーチ・センターのデ ィレクター、ヘンリー・オーバーマン氏によれば、英国で群を抜いて 豊かな地域であるロンドンは、大した痛みもなくリセッションを乗り 切った。「中産階級にリセッションは起きなかった。中産階級という のはイングランド南東部に集中している層のことだ」と同氏は先月の 講義で指摘した。

高級住宅は値上がり

ロンドンでは、所得も雇用も英国の他の地域ほどは減らなかった。 住宅価格は上昇さえしている。不動産仲介業者サビルズによれば、ロ ンドンの一等地の不動産は過去1年に5%値上がり。一方、平均的な 住宅価格は下落した。

貧富の差はしばらく前から拡大している。英政府統計局(ONS) によれば、所得分配の不平等さの指数であるジニ係数(国民所得分配 係数)は1983年が28だったのに対し2008/9年には34になってい た。1は完全な平等、100はすべての富をただ1人の国民が得ている ことを示す。同係数は05年以降、比較的安定していたが、再び上がり 始めた。

英国で起こっていることは恐らく、先進諸国の大半でも起こって いるだろう。英経済に特別なところがあるわけでははい。米国ではブ ッシュ前大統領が導入した減税は金持ち優遇だし、ウォール街の報酬 はあっという間に回復した。どこの国でも同様の傾向が見られると考 えて間違いないだろう。

格差が縮小しない3つの理由

これでよいのだろうか。金持ちが他の人よりますます金持ちにな っていく理由を考えてみよう。

第1に、政府の救済は金持ちを助ける。政府はかつて製造業界を 補助してきたものだが、今では金持ちの大半が働いている銀行業界を 救済する。中央銀行は景気てこ入れのために量的緩和を実施するが、 その主な結果は資産と商品価格の上昇だ。量的緩和の恩恵は原油先物 を売買するヘッジファンドへの投資家が受けることになる。ガソリン の値上がりで家計が苦しくなる普通の人は負け組みに分類される。銀 行救済と量的緩和は事実上、主に金持ちへの支援策だ。

第2に、教育による付加価値への評価は高まり続ける。現代の経 済に共通する特徴は、高度な技能を持った人間を優遇することだ。金 持ちたちが競争社会でリードを広げているのはこのためだ。リセッシ ョンはこの傾向を増幅させたように思われる。厳しい時代には公的部 門と製造業、専門技能のいらないサービス業の職が最も削減される。 無くてはならないスキルを持っていれば、職を失わないで済む可能性 が高まる。

グローバル化の功罪

第3に、グローバル化は大金持ちたちが国家経済から切り離され て生活することを可能にした。ロンドンで働くバンカーや弁護士、コ ンサルタントは英経済に属するのと同時に、ブームに沸く新興市場の 一部にもなっている。ロシアの鉱山会社の新規株式公開(IPO)を アレンジし、ドバイの不動産会社の債務再編を手伝う。英国内で起こ っていることは、これらの人々にそれほど影響を与えない。主要なビ ジネスセンターで働いている大半の人も同様だ。

これらの流れの中にはわれわれがどうすることもできないものも ある。一方、何とかできるものもある。銀行は救済しなくてよい。資 産価値を押し上げることで景気を支えようとする必要もない。

信用危機が不平等を縮小させるというのは、耳ざわりの良い夢物 語だったが、現実にはならなかった。社会は自らに問い掛けなければ ならない。巨大な貧富の差を放置してよいのかと。格差が自然に縮ま ることはないのだから。(マシュー・リン)

(リン氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。こ のコラムの内容は同氏自身の見解です)

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