軽量化路線をフォード快走-ガソリンがぶ飲み車のダイエット作戦成功

2006年に米航空機メーカー、ボ ーイングを退社し自動車メーカー、フォード・モーターの最高経営責 任者(CEO)に就任したアラン・ムラリー氏は、その半年後、かつ て米国で最も売れていたスポーツ型多目的車(SUV)「エクスプロ ーラー」の運命を左右する決断を迫られた。

06年通期は126億ドル(約1兆300億円)の赤字を計上。株主ら はムラリー氏に、エクスプローラーなどの「ガズラー(ガソリンがぶ 飲み車)」を顧客の好む低燃費車に代えるよう要求していた。

フォードがその少し前に230億ドルの担保付き融資を受けたこと から、ムラリー氏は早急に決断する必要があった。ボーイングのCE O時代、同氏は次世代中型旅客機「787」(ドリームライナー)の部品 軽量化により、競合他社の同型機よりも燃費が20%良くなるとの確信 を得ていた。そこではフォードの技術者らに、「エクスプローラーを 軽量化せよ、それが出来なければ廃止だ」との最後通告を突きつけた。

フォードの製品開発責任者、デリック・クザック氏はミシガン州 ディアボーンの設計スタジオのドーム型ショールームで当時を振り返 り、「アランはわれわれに、エクスプローラーを一から作り変える必 要があると指示した」と語った。

軽量化に成功

クザック氏(59)のチームが2年をかけてエクスプローラーの改 良を終え、09年初めに生産開始のための予算4億ドルの承認を受ける ためムラリー氏と会った時、クザック氏は利益やコストの話を切り出 さなかった。その代わり、エクスプローラーの車長と幅を広げオフロ ード性能を維持しながらも4450ポンド(約2トン)の車体重量を100 ポンド(約45キロ)減らし燃費効率を24%改善する方法を見つけたと 報告したのだった。

ディアボーンの本社の「サンダーバード」ルームで15人の幹部と ともに説明を受けたムラリー氏は、この報告を喜び、生産開始のため の予算を認めたという。

ムラリー氏(65)は、同社創設者の故ヘンリー・フォード氏がか つてT型フォードを生産した工場を見渡せる本社12階のオフィスでブ ルームバーグのインタビューに応じ、「重量が絶対的に重要だ」と語 った。

自動車各社が大恐慌以来最悪の金融危機から回復しつつあるなか、 ムラリー氏は自社モデルの軽量化が同業他社より優位に立つための鍵 だとみている。同氏は、社の利益の柱となっているピックアップトラ ックとSUVのモデルを維持しつつ、燃費や安全性の基準厳格化に対 応する計画の根幹に軽量車を位置付けている。

「BMWと肩を並べる」

世界の自動車メーカーにマグネシウム部品を供給する米メリディ アン・ライトウェート・テクノロジーズのエリック・ショーウォルタ ーCEOはフォードについて、軽量設計の分野では10年前は中堅プレ ーヤーだったが、現在はトップを走っていると指摘。「BMWと肩を 並べている」とした上で、「ホンダを除き日本勢は積極性を欠く」と 付け加えた。ドイツのBMWは、軽量化のため車体にアルミニウムと 炭素繊維を使用する電気自動車(EV)の開発を計画している。

フォードはいち早くリセッション(景気後退)の悪影響を脱し、 世界で最も収益性の高いメーカーとして復活した。10年1-9月期の 利益は63億7000万ドルと、エクスプローラーの全盛期だった1998年 以来の好業績となった。株価は今年2月4日に15.72ドルと、1年前 から42%上昇している。

米ホッジス・キャピタル・マネジメントのファンドマネジャー、 ゲーリー・ブラッドショー氏は、「フォードが燃費の良さを特長の一 つにすることができたら、顧客をショールームに呼び込めるだろう」 と述べ、「フォードは今後も良い投資対象になろう」と予想した。同 社は1月中旬時点で、フォードの普通株と優先株を各10万株保有して いる。

燃費と安全性の基準厳格化

世界の規制当局は、燃費と安全性の基準を引き上げている。オバ マ政権が打ち出した連邦規制により、自動車メーカーは16年までに燃 費基準をガロン(3.8リットル)当たり平均35.5マイル(57キロメー トル)と、42%引き上げるよう義務付けられた。さらに25年までに同 62マイルへの引き上げも検討されている。

安全性に関しては、米当局は今年、車の横転による死亡事故を防 止するため、新モデルの屋根の強度を2倍にするよう義務付けた。I HSグローバル・インサイトのアナリスト、忻天舒氏によれば、中国 政府は、燃費基準を現行の100キロメートル当たり平均8.13リットル から3-5年で同6.6リットルに厳格化する意向だ。

クザック氏は、軽量だからといって必ずしも安全性が劣るわけで はないと主張する。軽量車は、衝突時に衝撃が人に直接伝わらないよ うに設計することが可能だという。

新型エクスプローラーは後部座席のシートベルトにエアバッグが 内蔵されているほか、高速でカーブに入った場合に動力を停止する機 能も備えている。また、ハイブリッド車や燃料電池車でも、バッテリ ーやモーターのコストを節減できるなど軽量化のメリットがあるとい う。

「軽量化で先頭に立つ」

クザック氏は、10年前は新モデルの採用を決定する際、重量は議 論もされなかったと指摘する。同社はハイブリッド車とEVが販売全 体に占める割合は20年までに最大25%まで増加すると予想している。

グッゲンハイム・セキュリティーズのシニア・マネジングディレ クター、ジョン・カセサ氏は、「乗用車をどのように製造し利用する かという本質的な問題に関して、世界的にさまざまな挑戦が行われて いる」と分析する。

また「軽量化は不可欠となり、フォードはこの取り組みで先頭に 立とうとしている。エクスプローラーなどを通じて顧客はその成果を 目にし始めている」と説明した。グッゲンハイム・セキュリティーズ はグッゲンハイム・パートナーズの投資銀行・資本市場部門。

フォードは軽量設計によって、世界の全ての地域で大型ピックア ップやSUVも含めた現行モデルを維持できる公算だ。これは、株価 下落や顧客離れ、シェア低下に加え230億ドルの借り入れによって将 来に暗雲が立ち込めていた4年前には全く考えられなかったことだ。

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