【コラム】ダボスの宴、残ったのはU2ボノの歌唱力-M・ギルバート

「ダボスのムードはいつも、現実と は逆の状況を示す指標だ」-。米ハーバード大学の歴史学者、ニーア ル・ファーガソン教授はこう喝破する。「信用してはいけないというの が共通認識だ。そこに現状を肯定する空気があればあるほど私は憂慮 する」。

先日閉幕した世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会 議)の5日間の討議で、われわれは何を学んだのだろうか。中国とイ ンドが最重要国という認識は、誰もが一致している。しかし、経済的 なパワーが東にシフトする中で、それを歓迎するのか、その現実に落 胆するのか、参加者の中でその判断材料を持っているように見えた人 は1人もいなかった。

投資銀行家は、われわれに、信用収縮などもともと起こらなかっ たかのように振る舞うことを求める。以前のように多額のボーナスを 手に入れるためだ。そして将来を案じる賢明な人たちは、食糧と水の 安全保障に関する先行きを懸念し、夜も眠れない。

しかし率直に言って、われわれは以前から、そうしたことを全て 知っている。数千人もの各界首脳やその取り巻きがダボスに飛ぶこと で地球温暖化の脅威が一段と深刻になる前からだ。(ただ、今回新たに 学んだことがある。この小さなスキーリゾート地、ダボスでは会議期 間中、高級車アウディに乗るタクシー運転手が1分ごとに2ドル(約 163円)以上の料金を請求する。会場での貧しい食事から逃れようとレ ストランなどに入れば、法外な値段を請求される)。

銀行CEOへの反論

より注目されたのは、水面下に隠れた葛藤が明らかになった瞬間 だ。米JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任 者(CEO)や英バークレイズのロバート・ダイアモンドCEOらが 中心になって金融危機の幕引きを図ろうとしたことが裏目に出た。ダ イモンCEOが「悪い政策」のリスクを警告したことに対し、「倫理観」 を説くフランスのサルコジ大統領の逆襲に遭った。

そして、ダイアモンドCEOが政府による銀行業界救済に「心か らの感謝」を示すと、ラガルド仏財務相は「感謝を表す最良の方法は 融資の開始、合理的な報酬水準の維持、資本水準の改善だ」と切り返 した。(その前日、米ゴールドマン・サックス・グループは、ロイド・ ブランクファインCEOに対し、2010年分のボーナスとして株式1260 万ドル相当を支給し、今年の基本給を前年の60万ドルから200万ドル に引き上げたと発表した)。

米エール大学のロバート・シラー教授(経済学)は、「世間の怒り はすさまじい」と指摘。「善良な人間が後回しにされるという感じがあ る。仕事を持ち、家を買った人が今や職を失い、住宅を差し押さえら れている。人々のアニマルスピリット(野心的意欲)がなえているの はこのためだ」と指摘する。

楽観論

ダボスでのプライベートな昼食会やオフレコの記者向け説明が発 する雰囲気からすると、欧州のソブリン債危機は最終段階に差し掛か っている。スペインとギリシャは、膨れ上がった財政赤字の削減に遅 ればせながら取り組んでいることで称賛を受けている。デフォルト(債 務不履行)は回避できるとの新たな楽観論を示すものとして、ギリシ ャ国債のドイツ国債に対する利回りの上乗せ幅(スプレッド)は約3 カ月ぶりの低水準となった。

ビル・クリントン元米大統領(64)が話題をさらった。妻のヒラ リー・クリントン米国務長官は大統領になるよりも孫を欲しがってい ると明かし、会場を沸かせた。

私が個人的に最大のイベントと位置付けたのは、ロックバンドU 2のボーカル、ボノとミュージシャンのピーター・ガブリエル、音楽 配信サービス「スポティファイ」の共同創業者ダニエル・エク 氏による討論会だった。そこでは、ミュージシャンが自身の楽曲のデ ジタル配信で適正な金額の支払いを受けることの是非が話し合われた。

ワン・ショット・オブ・サッド

パーティーに出席するため山の中腹まで登ったのは価値あること だった。そこでボノはわれわれのリクエストに応え、楽曲「ツー・シ ョッツ・オブ・ハッピー、ワン・ショット・オブ・サッド」をわれわ れのためだけに間近で歌ってくれた。ボノが、歌手フランク・ シナトラのために、U2のギタリスト、ジ・エッジと共に書き上げた 曲だ。そして、その曲はダボス会議の現状を的確に言い当てているよ うに思えた。 (マーク・ギルバート)

(ギルバート氏は、ブルームバーグ・ニュースのロンドン支局 長でコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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