【コラム】格下げは日本の「スプートニク」になり得るか-Wペセック

【コラムニスト:William Pesek】

1月28日(ブルームバーグ):これは日本にとっての「スプートニ クの時」だ。旧ソ連の1957年の人工衛星打ち上げが米国にとっていか にショックだったかを想起させるこの言葉は、オバマ米大統領の今週 の一般教書演説で使われ、再び流行している。大統領はこのフレーズ を通じて、インドや中国の台頭が米国の競争力向上を促すことは自明 の理だと指摘した。

そうしたショックを必要とする国があるとすれば、それは日本だ。 国内総生産(GDP)で中国に追い越され、世界3位に後退したとい う昨年のニュースは大したことではなかった。しかし、豊かな日本の 信用力が、まだ比較的貧しい中国と同じレベルに後退したことはどう だろうか。

米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の27 日の日本国債格下げは、大きな出来事であり、菅直人首相にとっては 喜べないものだ。2002年の前回の格下げ以降、眠ったようなままの状 態にあった政府を覚醒させるものでもある。ただ、日本がそれで目覚 め、1000兆円に向かっている公的債務残高を抑制するようになるだろ うか。それほど楽観的にはなれない。

緊縮財政の発動は期待できそうにない。それには政治的意思が必 要であり、問題はその意思があまりにも弱いことだ。

皮肉なことに菅首相は「ミスター債務削減」であり、日本の ルービン元米財務長官にほかならない。首相就任前に財務相を務めて いた菅首相は、ギリシャ型の日本の債務危機については決して語ろう とせずに、1990年代にクリントン政権のメンバーだったルービン氏と 同じように債務削減に向けた増税を打ち出している。S&Pは大胆な 行動が必要だと指摘している。

歓迎すべき検査

スタンダードチャータード銀行の世界為替調査責任者、カラム・ ヘンダーソン氏(シンガポール在勤)は日本国債格下げについて「構 造的債務と財政赤字は引き続き対処すべき課題であることを再確認さ せる歓迎すべき検査にほかならない」とみている。

やっかいなのは、菅首相が支持率20%台半ばと政治的に傷を負っ ていることだ。首相の座を維持することに躍起となっている首相には、 世界最悪の水準にある債務削減に向け議員をまとめるどころではない。 支持率を上げようとすれば、欧州のような危機を阻止するための消費 税引き上げを訴えるのは、難しくなるだろう。

日本に残された時間は少ない。高齢化が急速に進み出生率も低下 傾向にある。すでに日本の人口の23%が65歳以上で、15歳未満は12% にすぎない。労働力人口が減り、債務返済額が急増する一方で、課税 対象は縮小する。

危険な道

だから「AA」から「AA-(ダブルAマイナス)」への今回の 格下げは少し遅すぎたと考えている。日本は危険な道をたどっている。 危機を回避できているのは、家計貯蓄が高水準で、公的債務の約95% が国内で保有されているためだ。アイルランドやポルトガルが影響を 受けやすい資本逃避のリスクはほとんどない。

日本のバランスシートはますます身動きが取れなくなっている。 資産家ジョージ・ソロス氏の手法で投機家からの攻撃を受け始めるの は時間の問題だ。S&Pの行動やそれに続く動きは、ヘッジファンド が運だめしをするきっかけになるだろう。

それでも10年債利回りは約1.2%と、非合理なほど低水準だ。利 回りがじわじわと上昇し始めれば、政府の借り入れコストは急激に上 昇し、銀行、年金基金、ファンド、保険会社、さらに家計、つまり基 本的に全員が多額の投資損失を被ることになる。

市場関係者にとって、この20年の大きな疑問は日本が1989年の バブル崩壊からいつ完全に立ち直るかということだった。それは決し て起こりそうにない。デフレ下にある日本は1930年代の米国ほど落ち 込んではいないが、どちらも1%を超える成長が長い間実現していな い。

日銀は動けず

米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げの検討を始めても日本 銀行はなお動けないだろう。今後5年、あるいは10年でも日銀の大幅 な利上げを真剣に予想するエコノミストはいない。

実際、日銀の白川方明総裁に対して、銀行システムへの流動性供 給拡大や国債の大量購入を求める圧力は増すだろう。しかしそれも役 立たない。この10年余りの金融政策は成長拡大にほとんど寄与してい ない。

それでも政治家が中銀に措置拡大への要求をやめないだろう。そ れが肝心な点だ。議員は日本の有権者に緊縮財政を訴えたくないし、 大胆な改革実行に縛られたくもない。

私は自分の予想が当たらず、この「スプートニクの時」が日本の 背中を押して行動につながることを願っている。日本はあと数年間、 どうにかやっていけるだろうが、それは重大な過ちとなろう。

日本が過去の実績をふりかざして、最終的に行き着く先から投資 家の注意をそらすことはもはや不可能だ。格付け会社はもう、それに はだまされない。ヘッジファンドも同様だ。(ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラ ムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE