【コラム】ドル崩壊の危機脱出カードは中国が差し出す-W・ペセック

中国の人民元がドルに取って代わ る日はいつか-。これは経済で最も興味をそそられる疑問だろう。

中国の胡錦濤国家主席は先ごろ、ドルが支配する世界は「過去の 産物」だと呼んで元の強気派を喜ばせた。しかし奇妙にも、来年任期 を終える胡主席が残していくものは、数十年とは言わないまでも今後 数年は、国際金融システムの中心におけるドルの立場を強化すること になるだろう。

表面的には、中国は元の国際化プロセスを加速させている。国際 貿易での元の利用を促進し、香港で発行される元建て債「点心債」を 導入し、元を使った海外企業買収を奨励している。しかし、ドルを打 破しようという中国の望みは、より大きな優先事項と矛盾する。一つ は中国のドルに対する欲求が高まり続けている点で、もう一つは、波 乱の一年になる可能性がある中で中国の金融機関にとって安定が何よ りも重要になっている点だ。これらが共に思わぬ形でドルの優位性を 維持することにつながるのではないか。

2010年の中国経済は10.3%成長と、ヘッジファンド運用者のジェ ームズ・チャノス氏といった弱気派を困惑させる伸びを見せた。不動 産バブルや所得格差に伴うリスクは高まりつつあり、11年にピークに 達するだろう。

中国の課題の多くは元の上昇で解決できるかもしれないが、元レ ートの管理に執着する同国の姿勢を考えれば、大きな動きは見込みに くい。より確かなのは、中国のドル買いが加速し、極めて重要な輸出 産業を後押しする展開だ。こうした支援策がドルの安定に最も期待さ れることだ。

中国の需要

米カリフォルニア大学バークリー校のバリー・アイケングリーン 教授(経済学)は最新の著書「Exorbitant Privilege(仮題:途方も ない特権)」の中で、「ドルの暴落シナリオとして唯一もっともらしい のは、米国自身がそれを引き起こすことだ」と述べている。確かに、 米国は巨額の借り入れと事実上のゼロ金利政策を通じてそうなる方向 に動いているように見える。けれども、中国のドル需要が米国に危機 脱出カードを与えているのだ。

実際のところ、数百万の米国民はアジアに大きな恩義があるのか もしれない。米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン副議長は2 回にわたる資産購入プログラムが2012年までに約300万人分の民間雇 用増加に貢献するとの見方を示した。FRBによる2兆3000億ドルの 資産購入とほぼ同規模の米国債を中国と日本、香港、台湾、タイ、シ ンガポール、韓国、インド、フィリピン、マレーシアが合計で保有し ており、イエレン副議長の理屈からすると、アジアはさらに300万人 分の雇用機会を提供していることになる。だとすればアジアの中央銀 行に感謝しなければならない。

単純ではない

もちろん、話はそれほど単純ではない。FRBは日本の資産購入 による雇用創出効果がいかに少なかったかを検討するという見方もあ るし、中国がパトロン役を務めているため、米経済に改革が必要な時 期に米政府が気を緩めてしまう恐れもある。ただこういう話からは、 ドルに取って代わるという口先だけの賛同にもかかわらず、アジアが ドルの大量保有をやめるのは不可能だということを思い出させてくれ る。

エコノミストが「出口戦略」を議論する場合、通常は中央銀行や 政府による景気刺激策の解除を意味する。アジアのドル崇拝が経済に どれほど大量の流動性を供給しているか、そして時間とともに経済が それにますます依存を強めているかといった点にはあまり留意されて いない。

世界を正常な状態に戻すための議論には、アジアの人々が海外に 置く多額の貯蓄を考慮しなければならない。アジアはそうした資産を 本国でもっとうまく活用すべきであり、輸出依存度を低下させて国内 主導型の成長にシフトするすべを学ぶべきだろう。本国への資金引き 揚げで短期的、中期的には動揺が生じるだろうが、米国はアジアから の支援なしで生きていかねばならない。

途方もない特権

アイケングリーン氏の書籍のタイトルである「Exorbitant Privilege」はそもそも、ジルカールデスタン元仏大統領が1960年代 の仏財務相時代に、米国が準備通貨を発行していることで多大な恩恵 を得ていることを表現して使った言葉だ。ただ当時よりも今の方がも っと当てはまっている。

ギリシャやアイルランド、ポルトガルは過剰債務を抱え、通貨を 切り下げることもできず苦境に立たされているが、米国は世界の基軸 通貨を発行しているため、格付け会社の機嫌を損なわずに借用証書を 大量に振り出せる。

中国もいつの日かその立場に上る可能性はあるが、まずは大きな 危機なくこの10年を乗り切らねばならない。08年に始まった米国の危 機の影響を回避した中国の有能な人々にとっても、それはかなりの大 仕事になる。

国家資本主義

日米欧の超低金利政策が投機資金を中国に向かわせており、景気 過熱リスクはあふれている。貿易摩擦も市場を不安にさせかねない。 政府が勝ち組を選んでそれに沿って銀行に融資を指示する国家資本主 義は今後、問題視されるだろう。

投資家は後者のリスクにもっと注意すべきだ。中国は2000年代半 ばに銀行システムの近代化の理想的な機会があったにもかかわらず、 遅々として動かなかったことを後悔するだろう。中国の経済的影響力 が増している今、中国の市場は投資家の実感よりも不均衡で効率性に 乏しい。

中国という難攻不落の城の表面に亀裂が広がれば、ドルに対する 需要は高まる。米財務省当局者は今後数年間、米国債を誰が買ってく れるのかと心配する必要はない。中国は胡主席が認めようとする以上 にドルにつながれている。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラ ムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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