反対押し切りゼロ金利解除に「当然責任生じる」-日銀00年下期議事録

日本銀行は27日午前、2000年7 -12月の金融政策決定会合の議事録を公表した。日銀は同年8月の会 合で政府の反対を押し切り、1999年2月から続けてきたゼロ金利政策 を解除した。山口泰副総裁(肩書はいずれも当時)は「とった政策に は当然責任が生じる」と述べたが、その後景気は失速。日銀は翌01 年 3月、それまで消極的だった量的緩和政策に追い込まれた。

日銀は7月17日会合で、企業短期経済観測調査(短観)の好結果 などを受けて、景気は「緩やかに回復している」として、約3年ぶり に「回復」という表現を復活させた。消費者物価指数はなお下落を続 けていたが、山口副総裁は「今のところ収益の増加と両立しているの で、デフレ的とみなすにはあたらないのではないか」と述べた。

田谷禎三審議委員が「デフレ懸念の払しょくが展望できる情勢に なりつつある」と述べるなど、経済情勢はゼロ金利解除の条件をほぼ 満たしたとの声が委員の間から相次いだ。しかし、この会合でのゼロ 金解除を阻んだのが、7月12日に飛び込んできた百貨店大手そごうの 事実上の破たんと民事再生法申請のニュースだった。

山下泉金融市場局長は会合の冒頭、執行部からの報告として「12 日夕刻に公表されたそごうの民事再生法適用申請を受けて市場の雰囲 気は一変し、先週末の段階では、17日の政策決定会合でゼロ金利政策 が解除される確率はそれまでの7、8割から、5割程度に低下したと いった見方が多くなったようにうかがわれる」と述べた。

そごう問題でいったんは断念

速水優総裁は「そごうの問題は金額が1兆8000億円と借入額が大 きいことと、取引先が1万件以上あることから、先行きにどのような 影響を及ぼすのか直ちには分からない」と指摘。「流通、ゼネコン、不 動産等における過剰債務問題が経済に今後及ぼしていく実体的な影響 について、今回の問題を機に市場心理が影響を受けるかどうか、もう 少し見極めたい」と述べ、ゼロ金利解除をいったん断念する。

そして、8月11日会合。7月末にかけて株価が大幅に下落したこ ともあり、ゼロ金利解除観測は後退したが、それを引き戻したのが8 月7日の速水総裁の国会答弁だ。「あなた自身の考えを聞きたい」とい う久保亘議員(民主)の質問に対し、「デフレ懸念の払しょくが展望で きたとみている」と明言。再びゼロ金利解除の思惑が高まった。

会合はそごう問題中心に議論が進んだ。山口副総裁が「幸い金融 システム不安的なメンタリティにはならずに済んでいると思うし、そ の点は銀行株がそごう問題勃発直前の水準までほぼ戻していることに よって確認できる」と言明。「とりあえずの落ちつきどころは見えてき たのではないか」と述べるなど、大勢はゼロ金利解除に賛同した。

賛成してくださいというだけでは

しかし、中原伸之審議委員は「循環的な景気回復がピークに達し て恐らく7-9月辺りがピークになる可能性があり、その後の景気の 持続性が非常に問題である」として反対を表明。植田和男審議委員は 「若干のリスクがあり、もう少し動向をみたいというのが正直な気持 ち」としながらも、「皆さんに説得されれば、変わることはやぶさかで はない」と柔軟姿勢を示した。

これに対して、藤原作弥副総裁は「私には何も態度を変えてもら う資格もなければ、権限もないし、理論的な裏付けもないが、もしお 考えを少し微調整していただけるなら、非常にありがたい」と発言。 植田委員から「是非賛成してくださいというだけでは変えられない」 と突き放される場面もあった。

ゼロ金利の解除に対し、政府は日銀法第19条2項に基づき、議決 を次回会合まで延期するよう求めたが、山口副総裁は「法律が定める ところに従い、情勢判断の差がどうしても埋まらない場合は日銀の判 断に基づき政策決定を行うことがあり得るし、しかしそのとった政策 については当然責任が生じる」と発言。議決延期は否決され、中原、 植田両委員を除く7人の賛成多数でゼロ金利解除が決まった。

マスコミ報道も過熱

ゼロ金利解除に際し、マスコミ報道の過熱も問題になった。速水 総裁は「決定会合の模様は本当にここにいる人しか分からないわけで あるが、この模様を報道したものについて若干報告したい」と発言。 一部通信社がゼロ金利解除の提案や議決延期請求の行使を実況中継さ ながらに報道したことを挙げ、「極めて遺憾な事態」と強調した。

速水総裁が「新法の下で歴史を作っていくのは非常な決断が必要 だ」と述べたゼロ金利解除。1カ月後の9月14日会合では、篠塚英子 審議委員が「今のところ大きな混乱がないということでほっとしてい る」と述べるなど、日銀には安堵(あんど)感が漂った。しかし、I T(情報技術)バブル崩壊という暗雲はすぐそこに近づいていた。

10月13日会合で雰囲気は一変した。山下局長が「ニューヨーク・ ダウが379ドルの急落と今年2番目の下げ幅を記録し、NASDAQ も年初来安値を更新するなど世界的な株安につながる気配となって、 ややパニッキーな状況となってきている」と報告。11月17日会合で、 中原委員は「量的な緩和にただちに踏み切るべきだ」と訴えた。

景気をゴルフに例える余裕が

12月15日会合では、武富将審議委員が「大きくスライスフック するというよりも、基本はストレートラインで読んでよいのではない か」と景気をゴルフに例えるなど、委員らにはなお余裕がみられたが、 米国が年明け1月3日に緊急会合を開いて約2年ぶりの利下げを実施。 日銀の尻にも火が付いた。2月9日会合、2月28日会合の連続利下げ に続き、3月19日会合でついに量的緩和政策に突入した。

当時、企画局幹部としてゼロ金利解除に関与した白川方明現総裁 は25日の会見で、その是非については発言を控えたが、「経済の先行 きは不確実性に満ちている」と指摘。「その時点時点で最大限努力し、 適切な政策決定を行うことが大切だ」とした上で、「客観情勢が変わっ てきたと判断したら、過去行った決定にこだわりを持たず、迅速に新 しい感覚の下で正しいと考える政策を追求していく」と述べた。

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