債務危機てこにIMFを復権させた男、次に目指すのはエリゼ宮か

昨年5月のある夜、スイスのバ ーゼルで、晩さん会を終えた国際通貨基金(IMF)のストロスカー ン専務理事ら賓客たちは、デザートの代わりに難しい仕事に取り掛か った。欧州共通通貨ユーロを絶滅から救うという作業だ。

国際決済銀行(BIS)本部での定例会合には、欧州中央銀行 (ECB)のトリシェ総裁、金融安定化理事会(FSB)議長のドラ ギ・イタリア中銀総裁を含む各国中銀総裁が集まっていた。総裁らは 欧州連合(EU)の財務相らがユーロへの信頼回復を目指して緊急救 済プログラムの取りまとめを急いでいるブリュッセルからの知らせを 待った。ブルームバーグ・マーケッツ誌3月号が報じた。

30分ごとに、フランスのラガルド財務相がブリュッセルからバー ゼルに電話を掛け、ギリシャのソブリン債危機がユーロ圏全体に波及 するのを防ぐ取り組みの進展ぶりを伝えてくる。

ユーロ圏の当局者らは域内の弱いメンバーへの金融支援を協議し ていた。「テーブルを囲んで待っていた。真夜か午前1時、2時だっ ただろう。待つことが延々と続いた」とストロスカーン専務理事は振 り返った。

同専務理事は夜を徹して、緊急支援措置でのIMFの役割につい て交渉を続けた。「表現について意見が交わされ私はその内容をワシ ントンに連絡した。午前2時か3時ごろにやっと、案がまとまった」 という。

夜明け

夜明けとともに、EU財務相理事会が7500億ユーロ(約84兆 6000億円)規模の救済パッケージを発表した。IMFはその3分の1 を拠出することを約束、ECBは国債を購入すると表明した。発表を 受けて世界の株・債券相場は上昇した。

2007年11月以来IMFを率いるストロスカーン専務理事(61) にとって、バーゼルの夜はIMFと自身が世界経済の主要プレーヤー として復帰するための一歩だった。

ストロスカーン専務理事が加わった時にIMFは、比較的穏やか な経済環境の中で重要性が薄れ官僚主義に縛られた機関だった。02年 に664億ドル(約5兆4700億円)だったIMFの緊急融資は06年に は5870万ドルに減っていた。06年の借り手はパラグアイとアルバニ アだけだった。

同氏の専務理事就任から1年もたたない08年9月、米リーマ ン・ブラザーズ・ホールディングスの破綻が第2次世界大戦以来で最 悪のリセッション(景気後退)の引き金を引いた。混乱の中で、IM Fの重要性は再び高まった。IMF緊急融資は07年の11億ドルから 10年には過去最高の917億ドルに達した。

絶好の機会

05-06年にかけてIMFの金融調査部門の責任者を務めたエスワ ール・プラサド氏(米ブルッキングズ研究所・上級研究員)は「危機 はIMFにとって絶好の機会だった」と言う。「ストロスカーン氏は、 難しい時期に大きな構想を描いて見せることで、その機会を生かした」 と続けた。

ソブリン債危機がポルトガルを飲み込もうとし、さらにスペイン までも脅かしている今、ストロスカーン氏はIMFを離れ、新たに得 た力を生かして前回の挑戦でつかみ損ねた栄光を手にすることができ るかもしれない。それはフランス大統領の座だ。

社会党に所属し、1997-99年に財務相を務めたストロスカーン 氏は、今選挙があれば中道右派、国民運動連合(UMP)のサルコジ 現大統領を簡単に破るだろうという結果が、世論調査で示された。

世論調査

世論調査会社CSAが1月に実施した調査では、決選投票となっ た場合、64%の有権者がストロスカーン氏に投票するという結果が出 た。現職のサルコジ氏は36%。07年の大統領選の際にストロスカー ン氏に競り勝って社会党候補となったロワイヤル氏とサルコジ氏の決 戦ならば50%ずつの引き分けと見込まれる。

ワシントンのIMF本部の12階にあるオフィスに陣取ったスト ロスカーン氏は自身の政治的去就については語らなかった。「その問 題について、私として言えることはもうすべて言った」と述べ、両腕 を交差させて同話題は打ち切るしぐさを見せた。

任期満了の12年10月より前に専務理事の座を去ったとしても、 同氏がIMFの改革を成し遂げたことに変わりはない。1945年の創設 当時の使命は戦争で傷んだ各国経済の立て直しを支援することと、新 たな国際通貨システムの構築を監督することだった。

今日、IMFには187カ国が加盟し、経済規模に基づいて資金を 拠出し、それに沿った理事会での議決権を持っている。10年は最大拠 出国である米国の議決権割合が16.7%、日本が6%、ドイツが5.9% だった。IMF加盟国は昨年、中国に3番目に大きい議決権を与える ように規則変更に合意した。

抵抗

ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド・グループ(RBS) の欧州担当チーフエコノミスト、ジャック・カイユ氏によると、10年 春にギリシャの財政危機がユーロ圏を飲み込もうとした時、ストロス カーン氏はEUの指導者たちにIMFを救済プログラムに関与させる よう働き掛けた。

「欧州には、IMFがやってきて米国的な政策を押し付けること への激しい抵抗があった。IMFは米国を後ろ盾とした機関だと考え られているためだ」と同氏は説明する。

昨年11月にアイルランド向けの850億ユーロの救済でIMFが 225億ユーロを拠出した時、ストロスカーン氏は最終合意にIMFを 参加させることが容易になったことを感じた。

「アイルランド人は最初、IMFの関与を望まないと言ったが、 それは2週間だけだった。ギリシャの場合は4カ月続いた」と同氏は 語った。(リチャード・トムリンソン、サンドリン・ラステロ)

(トムリンソン氏はブルームバーグ・マーケッツ誌のシニアライター です。ラステロ氏はブルームバーグ・ニュースの世界経済担当者です)

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE