【クレジット市場】国際帝石、日の丸エネルギー開発、調達環境は有利

世界第2位の経済大国の地位を中国 に奪われたことが確実な日本だが、企業の資金調達コストは中国よりも 有利な立場にある。中国などと国際的な資源確保競争が激化する中で、 国際石油開発帝石(INPEX)が取り組む西豪州のイクシス・プロジ ェクトも、こうした環境を生かせるかどうかが試金石の一つになりそう だ。

村山昌博取締役は19日のインタビューで、開発投資額が2兆円近 くに上るイクシス事業について、プロジェクトファイナンス(PF)方 式で資金を調達する方針を明らかにした。既にアドバイザーを選定、「 日本の金融機関以外からも資金調達したい」と述べた。S&Pからはシ ングルAの発行体格付け(見通しは「ネガティブ」)取得、ムーディー ズ・インベスターズ・サービスの格付け取得も検討している。

具体的な資金調達計画は決まっていないが、ブルームバーグ上のB OAメリルリンチのデータによると、国際帝石と同じシングルA各の企 業が社債を発行する際の日本国債に対する今年のスプレッドは10年債 で平均42ベーシス・ポイント(bp、1bp=0.01%)で、発行金利 は1.65%となる計算。

これに対し、国際帝石のライバルと目される中国海洋石油(CNO OC)が21日に発表した20億ドル(約1650億円)の起債計画による と、米国債に対する上乗せ金利(スプレッド)は10年債(15億ドル) が100bp、30年債(5億ドル)が120bpで、発行金利は10年債が

4.5%、30年債が5.75%となった。

権益確保で重要な意味

CNOOCはS&P格付けは「AAマイナス」と国際帝石より高い にもかかわらず、ドルと円の金利の差を反映して国際帝石が有利な条件 で資金を調達できる環境にある。日本は世界最大のLNG輸入国。政府 は昨年6月に発表したエネルギー基本計画で、国産を含む石油・天然ガ ス自主開発資源比率を現状の20%から2030年までに40%以上に引き上 げることを目標にしている。巨額な資金が必要なプロジェクトに低金利 の調達環境は利点になる。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の荻野零児アナリストは「イ クシス・プロジェクトは中国をはじめとする新興国が、世界の資源を取 り合っている中、単に燃料調達やビジネス上の利益というよりも、権益 確保ということで日本のエネルギー政策で重要な意味を持つ」と指摘。 「日本でこうした資源上流開発ができるのはINPEXをおいて他に はない。さらに資金調達にしてもJBICが手厚くサポートするのでは ないか」とみている。

「日の丸プロジェクト」

イクシス・プロジェクトはダーウィンの西方850キロメートルで年 間800万トン超のLNG(液化天然ガス)、160万トンの液化石油ガスを 生産する予定。日本企業が操業主体となる唯一の「日の丸」プロジェク トで、最終投資決定は今年10-12月(第4四半期)までに行われる予 定。

国際帝石の格付けを担当したS&Pの薩川千鶴子氏は「イクシス・ プロジェクトが成功した場合、国のエネルギー政策における国際石油帝 石の役割の重要性や政府との結び付きが一層強まる可能性がある。政府 の支援する優先順位が高まると思う」と語った。

国際帝石の大規模開発計画としてはイクシスのほか、インドネシア のアバディ、カスピ海のカシャガンがあり17年3月までに総計4兆円 の投資を計画している。

今回の資金調達としてプロジェクトファイナンスに決めたのは昨 年7月に増資を発表した翌日の株価が1株価値の希薄化や将来的な需 給悪化が警戒され急落したことが背景にある。村山氏は増資について、 イクシスなどの開発プロジェクトの中で「第2弾はない」と明確に否定 した。

自己資本比率

PFを選択したもう一つの理由が高い自己資本比率の確保だ。メキ シコ湾原油流出事故を起こした英BPが多額の補償金を支払っても経 営基盤が大きく揺るがなかったことから、大規模沖合油田開発に乗り出 すうえで高い自己資本比率が必要と判断した。

PFは特定のプロジェクトに対して行う融資。プロジェクト自体か ら生み出されるキャッシュ・フローが返済原資となり、親会社は返済義 務を負わずバランスシートから切り離すことができるため、自己資本比 率の低下を招かないで資金を調達できる。

村山氏は「石油開発企業としての固有リスクは非常に大きい」とし 自己資本比率を高水準に保つ重要性を指摘した。その例として、BPの メキシコ湾原油流失事故に触れ、「BPは10兆円ぐらい自己資産を持っ ていたので、2兆-3兆円補償金を払っても耐えられた」と指摘した。

ブルームバーグ・データによるとBPは原油流出事故前(2010年第 1四半期)の自己資本は1050億ドル(現在の相場で約8兆7000億円)、 自己資本比率は43.63%。英BPは事故の被害者を救済するため、200 億ドルの補償基金を設けた。事故後(同年第2四半期)の自己資本比率 は34.74%に低下している。

国際帝石の自己資本比率(10年第2四半期)は79.94%で、自己資 本は2兆220億円。

社債発行も否定せず

同社は昨年8月に、同プロジェクトの資金調達の一環として5410 億円の増資を実施した。手元資金を合わせると8000億円程度に達し、 残りの1兆数千億円を資金調達する必要がある。国際帝石は過去に社債 を発行したことがなく、村山氏は「現時点では予定がない」としながら も「資金調達手段として否定するものではない」と述べた。

新生証券のシニアアナリスト、松本康宏氏の試算によると、国際帝 石本体を発行体とした社債発行のコストは日本国債への上乗せ金利は 25bp、イクシスのプロジェクト・ボンドを発行した場合は50bp以上 になる。

信用リスクのンサルティング業務を行っているクレジット・プライ シング・コーポレーションのディレクター、佐々木剛氏は一般論として 「1兆円規模の資金調達を債券発行で賄うのは、マーケット吸収力を考 えると難しいと言わざるを得ない」として、「融資を主体とした資金調 達になるのではないか。コストについては予想し難い」と述べた。

長嶋・大野・常松法律事務所の樋口孝夫弁護士は、「プロジェクト ファイナンスにはある程度の格付けは必要だが、プロジェクトの遂行能 力のほうが重要だ。国外の大きなプロジェクトには日本の企業は外国の 企業と組む必要が出てくる」と指摘した。

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