【特別寄稿】ユーロ防衛、天王山は「スペインの戦い」-チェイニー

ユーロ存亡の運命を分ける戦いは スペインが戦場になる。ギリシャとアイルランド、そして近く戦われ るポルトガルでの戦闘は小競り合いにすぎない。スペインはスケール が違う。

欧州連合(EU)の当局者が正しい戦略を取れば、市場はスペイ ンでの決戦を終えた後、インフレなど他のリスクに目を向けるように なるだろう。一方、EUの作戦が失策に終われば、ユーロ圏債務をめ ぐる悲喜劇は際限ない波乱に陥り、金融リスクの大きさは全世界のシ ステムを飲む込むに十分な大混乱を起こすだろう。

金融市場はユーロに対して友好的でも敵対的でもない。しかし、 市場はひとたび重大な不整合を発見すると、それが解消されるまで圧 力をかけ続けてくるものだ。ユーロの不整合とは国家を持たない通貨 というその性質と、ガバナンス(統治)の不備だ。財政統合なし、救 済なし、制裁なし、という3つの「なし」がユーロを自壊させる。

スペインが基本的に支払い能力のある国であっても、ユーロの存 続が確信できなければ民間投資家はスペイン国債を買わないだろう。 理由は単純だ。ユーロが崩壊すれば、復活する新生ペセタは価値の薄 い通貨となり、スペイン政府は債権団との条件見直しが必要になる。

ギリシャやアイルランド、そして近くポルトガルにも供与される とみられる融資のような流動性の支えは、英国を含めた欧州の銀行シ ステムにおける連鎖的な破綻を防いできたが、各国の長期的な支払い 能力について疑念を払拭(ふっしょく)することはできないし、ガバ ナンスの問題を解決しない。

「見えない財政統合」

危機を解決する方法は、ガバナンスの仕組みを変更することによ ってユーロ存続の可能性を投資家に確信させることだ。恒久的な危機 対応メカニズムを2013年までに整備するとした昨年10月29日の合 意は、この点で重大な転機だった。域内の政治指導者らは初めて、国 家のデフォルト(債務不履行)があり得ること、秩序ある対応が必要 であることを認めた。

投資家は依然として懐疑的だ。まず、2013年は遠い先だ。第2に、 将来の危機解決システムの形はまだはっきりしない。さらに重要な第 3の点として、投資家はドイツなどユーロ圏の大国の政治的決意を、 超国家のユーロ共同債が発行されるまでは信じられない。難しいのは、 そのような債券は「見えない財政統合」を始動させかねないことだ。 欧州中央銀行(ECB)の元チーフエコノミスト、オトマー・イッシ ング氏が最近警告したこのような動きは、ユーロに対する国民の反発 を引き起こしかねない。

「恐れと畏怖」

イタリアのトレモンティ経済・財務相とルクセンブルクのユンケ ル首相が支持する共同債構想は、イッシング氏に言わせると不合格だ。 高品質と低品質の債券が統合されてしまうからだ。この問題を修正す る一つの方法は、共同債に参加する各国で徴収される税金を担保とし た債券を発行することだ。各国は約束した担保の額に沿った資金を得 るので、財政統合にはならない。それでも、財政をめぐる「権限委譲」 の側面があるため、現時点では政治的に受け入れられにくいだろう。

政策担当者らは予想よりもはるかに迅速(じんそく)に包括的な ガバナンス改革に向けて進んでいるものの、市場がスペインやイタリ アなど大規模国の借り換えを行き詰らせるペースは速く、政治的交渉 の時間枠では追いつかないかもしれないい。

「驚きと畏怖」の戦略が不可欠なのはこのためだ。当局者は2月 11日にブリュッセルで開かれるEU経済サミットより前に、そのよう な作戦を練り上げる必要がある。ポルトガルとスペインに合わせて 5000億ユーロ(約55兆3600億円)を融資すれば恐らく、2012年 末までの両国の資金需要を満たすことができる。ユーロのガバナンス 改革を完了する期限として妥当であると同時に、両国が苦境にある銀 行に資本を再注入する予備資金としても十分だと思われる。

バジョットの遺訓

これが19世紀の英思想家、ウォルター・バジョットが後世に残し た大原則の真髄だ。「良質の担保を取って高金利でたっぷり貸し出す」 のが最後の貸し手の仕事なのである。

スペインでの決戦で、ECBは強い姿勢を示し、ユーロ防衛の決 意を鮮明にしなければならない。ECBがスペインの支払い能力を信 じているならば、ファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)に照ら して割安な価格でスペイン国債を購入した結果としてバランスシート が劣化することを心配するはずがない。2、3年後にスペイン債を売 却したときのキャピタルゲインで、最終的には納税者に利益が出るか もしれない。

バジョット流の「驚きと畏怖」作戦は合理的かつ実践可能であり、 スペイン防衛の経済的・政治的価値を考えると実行される可能性は高 い。あれこれ迷って決定を遅らせれば、収拾不可能な事態になるだろ う。欧州当局者にとって、ユーロの安定回復のために計算されたリス クを取ることは、悪いことが起こらないことをただ祈っているよりは るかに賢明な選択肢だ。(エリック・チェイニー)

(チェイニー氏は、アクサ・グループのエコノミストです。この コラムの内容は同氏自身の見解です)

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