日本はバブル後の「出口」、財政再建には企業支出を-野村総・クー氏

野村総合研究所のリチャード・ク ー主席研究員によると、米欧で信用バブルの崩壊・資産価格の下落によ るバランスシート調整が長期化する中、日本は1990年から苦しんでき たバブル崩壊の後始末からの「出口問題」に直面している。菅直人第2 次改造内閣が取り組む財政再建には、まず企業部門の支出を促し、日本 経済を支える主体を政府から民間部門に移すことが必要だという。

クー氏(56)は18日午後、都内で講演し、今や「日本の問題は企 業部門だ」と述べた。80年代後半のバブル期に膨らませた借金を90 年から2005年にかけて返済し終えたのに、「人類史上」かつてない低 金利の下で「まだ相当の貯蓄をやっている」と指摘。「借金に対するト ラウマ」を抱える企業が「借り入れ意欲を高め、支出を促す政策が必要 だ」と主張した。

企業が借り入れによって家計部門の貯蓄を活用するようになれば 「景気も良くなるし、税収も増える」ため、単年度で約44兆3000億 円に及ぶ「財政赤字も相当落とすことができる」と主張。資金が退蔵さ れないため、国内総生産(GDP)が下押しされず、「増税もできる」 が、現状は「まだ全然そこまで行っていない」と語った。

財務省によると、国債・借入金・政府短期証券を合わせた国の債務 残高は昨年9月末に過去最大の908兆8617億円。3月末から25兆 9382億円増えた。公的債務残高の対GDP比は約1.9倍と主要国で最 悪。しかも、11年度の国債発行総額は169兆6000億円と3年連続、 うち機関投資家などに販売する市中消化額は144兆9000億円と2年連 続で、それぞれ過去最大となる計画だ。

長期金利の長期低下

にもかかわらず、長期金利の指標とされる新発10年物国債利回り は90年8月の8.685%から03年6月には0.43%まで低下(価格は上 昇)。世界的な金融危機後の円高・株安や日本銀行による金融緩和を背 景に、昨年10月にも0.82%と約7年3カ月ぶりの低水準をつけた。

クー氏は、歴代の自民党内閣による「景気が悪くなったら公共事業 、税収減でも支出」という政策は「非常に賢いお金の使い方だった」と 評価した。大恐慌下の米国では29-33年にGDPの45%を失ったが、 バブル崩壊後の日本では株式と不動産だけで約1500兆円もの国富を失 ったにもかかわらず、GDPはバブル期のピークを下回らなかったと指 摘。90-05年に財政赤字は約315兆円増えたが、政府支出で維持され たGDPは累積2000兆円を超えたとの試算を示した。

米欧のバランスシート調整は「昔聴いたテープレコーダーの再生」 のようで、循環的な不況とは「全く質の異なる不況だ」と強調。日本か ら学ぶべき教訓は「財政出動をしっかりやれば、資産価格の下落にもか かわらず、GDPを維持できる」ことと「民間部門がレバレッジ解消に 努めている間は、財政支出を長期にわたって続けなくてはならない」こ とだと語った。

欧州では債務懸念が根強いが、ギリシャ以外のアイルランドやポル トガル、スペイン、イタリアはいずれも、民間貯蓄増と借金返済額が財 政赤字の増加額を上回っていると指摘。欧州には「お金はある」のに 「財政健全化しか見ていない」と懐疑的な見方を示した。

クー氏は、米国の政策当局者は「バランスシート不況克服のメカニ ズムを理解している」と評価。ただ「民主主義国家では平時に財政出動 を維持するのは難しい」と述べた。

日本ではバランスシート調整の過程で、2度の「失政」があったと も指摘。97年の橋本龍太郎内閣と01年の小泉純一郎内閣が進めた早 すぎる財政再建は、景気の悪化による税収減をもたらし、財政赤字を 100兆円以上も増やしてしまったと推計した。

クー氏は54年、神戸市生まれ。米カリフォルニア大学バークレー 校を卒業後、ニューヨーク連邦準備銀行などを経て、84年に野村総研 に入社した。各種の政府委員を歴任し、98年から09年まで早稲田大 学客員教授を務めた。著書も多く、09年には「世界同時バランスシー ト不況」(共著、徳間書店)を出版した。

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