【書評】バートン・ビッグス氏のフィクション、「ヘッジファンド物語」

ミッキー・コーエンは2007年1月、 ヘッジファンド界のヒーローだった。自家用ジェット「ガルフストリ ーム5」とニューヨークのペントハウスを持ち、離婚歴2回で、25歳 のガールフレンドがいた。オールドマスター(18世紀以前の欧州の優 れた画家と作品)にも手を出し始めた。

「私はバロック時代の人間なのだと思う」とある日宣言する。「バ ロック時代の人は美しい女性と家、美術品、ワインなどを収集してい た」と言う。

バートン・ビッグス氏の新著「ア・ヘッジファンド・テール・オ ブ・リーチ・アンド・グラスプ(仮訳:あるヘッジファンドの物語)」 の登場人物だ。物語の教訓は、投資のプロとして成功し生き残るため には技能と粘り強さだけではだめだというものだ。プロは自身の思い 上がりや、有頂天から絶望の底へと急変する感情をコントロールしな ければいけないとビッグス氏は教える。

78歳のビッグス氏はよく知っている。若きアナリストとして同氏 はヘッジファンド界の伝説、アルフレッド・ウィンスロー・ジョーン ズ氏の下でモデルポートフォリオを運用していた。その後、米モルガ ン・スタンレーの世界チーフストラテジストとなり、さらにヘッジフ ァンド、トラクシス・パートナーズの共同創業者となった。ヘッジフ ァンド業界の中心地であるコネティカット州グリニッチに住んでいる。

アルゴリズム

本書ではヘッジファンドのゴールドラッシュとその衰退をフィク ションの形で描く。主人公のジョー・ヒルはバージニア州出身の若者。 黒人の父と白人の母の間に生まれ、フットボールと数学が得意な青年 は結局、プロのフットボール選手ではなくウォール街を目指す。株式 銘柄の選択ですぐに上司を驚かすようになる。

いろいろあった末に、ジョーはマンハッタンのヘッジファンド、 ブリッジストーンでバリュー株投資家のミッキー・コーエンと出会う。 2人のファンドは、実在の「ハイブリッジ・ロングショート・エクイ ティ・ファンド」に似ている。

著名ヘッジファンド運用者のポール・チューダー・ジョーンズ、 スティーブ・コーエン両氏を思わせる人物も登場する。しかし、ブリ ッジストーンとハイブリッジは同じではない。ブルームバーグのデー タによるとハイブリッジは07年に40%のリターンを上げたが、ジョ ーとミッキーのブリッジストーンは31%を失う。

彼らのファンドはやがて、米サブプライム(信用力の低い個人向 け)住宅ローン危機の渦に巻き込まれ、償還請求に見舞われる。恐怖 と不安と疑念の中でレバレッジ解消を進める。ジョーはファンドの残 骸を眺めながら、「われわれのモデル、アルゴリズムは永久に機能する と思っていたのに」と嘆く。

金融の世界について平易な言葉で説明するのに優れたビッグス氏 だが、残念ながら小説家ではないようだ。教訓的な記述はメロドラマ と陳腐さの間を行き来する。それでも、もしかしたらハリウッドで映 画化されるかもしれない。(ジェームズ・プレスリー)

(プレスリー氏はブルームバーグ・ニュースの書評家です。この 書評の内容は同氏自身の見解です)

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