【クレジット市場】ダイキンの大型買収、3年ぶり低利回り格差追い風

エアコン世界首位を目指し、米空調 大手グッドマン・グローバル(非上場、テキサス州)買収に向けた協議 に入ったダイキン工業。買収規模は3000億円超とみられるが、円高に 加え、企業の資金調達コストも3年ぶりの水準に低下しており、市場環 境からみれば、いまは絶好のタイミングとの声が出ている。

事情に詳しい関係者によると、ダイキンは買収に向けて11月末か ら同社を保有する米ファンドと協議を再開した。ダイキンの井上礼之会 長兼最高経営責任者(CEO)は14日、大阪市内の本社での会見で買 収について「話はきている。検討しているのは事実」と認めた。

井上氏は、「まだぜんぜん交渉はしていないし、あわてる必要は全 然ない」と述べ、選択肢として「提携や連携を深める方が当社のファイ ナンスにとってはプラス」という考え方もできるとしているが、クレジ ット市場のデータは海外企業買収を考える日本企業にとって買い場が 訪れていることを示している。

野村総合研究所のデータによると、14日の国内の一般事業会社債と 国債利回りの平均スプレッドは+28べーシスポイント(1bp=0.01%)。 企業の資金調達にかかるコストを示す同数値は、リーマンショック後の 信用不安で09年2月に84bp まで急上昇したあと下落に転じ、直近は 07年11月以来の低水準となっている。

昨年1年間でドルに対して13%上昇し、11月には15年ぶりの高値 (80円22銭)をつけた円の強さのほか、日銀のゼロ金利や資産買い取 りなど包括的な金融緩和策で、企業の資金調達環境が改善されているこ とも買収の追い風になりそうだ。

資金調達環境の改善で、ダイキン以外の企業も海外企業の買収に意 欲を示す。アサヒビールの泉谷直木社長は6日の会見で「今年は新たな M&A、提携を積極的に模索していく」と述べた。日東電工の柳楽幸雄 社長は昨年のインタビューで、環境やエネルギー分野に集中投資し、03 年以来手がけてこなかったM&Aを「考えている」と話した。

朝日ライフアセットマネジメントの中谷吉宏シニアファンドマネ ジャーは、足元の社債の状況について「市場が求めるスプレッド、信用 クレジットコストが大分小さくなり、投資家は低いリターンでも満足す るようになっている」と指摘。ダイキンが仮に買収の資金調達で新たに 社債を発行しても「投資機会が少ないので、かなりタイトな水準でも買 う人がいるのではないか」と指摘する。

財務体質悪化を懸念

「悲しいかなお金がない」。井上会長が昨年9月28日に大阪市内で の懇親会で話したように、ダイキンはいわゆるキャッシュリッチ企業で はない。ブルームバーグ・データによると、ダイキンの有利子負債はマ レーシアのOYLインダストリーズを買収した07年3月期に前期比約

2.6倍の4561億円に急増。その後、若干減少し、10年3月期は3993億 円だった。同期の現金及び現金同等物は1594億円。

総資産に対する有利子負債依存度は、井上氏によると「製造業の平 均は23%ぐらい」。ダイキンは35%を超える。井上氏は円高と低金利で 海外企業買収には「絶好のチャンス」と認識しながらも「これ以上、借 入金を増やしたら財務体質が悪化し、格付けが下げられて株価が下がる 可能性がある」との懸念が決断の足かせになっていると話していた。

ダイキンの時価総額が8500億円弱なのに対して、グッドマンの09 年の売上高は約18億5000万ドル(約1530億円)、営業利益約2億8000 万ドル、最終利益は約1億ドルだった。JPモルガンの速水雅史アナリ ストは12月のリポートで、「買収金額が報道の通りなら財務体質悪化や エクイティファイナンスによる希薄化等、バランスシートへの影響」は 避けられないと指摘する。

スプレッドは変わらず

ダイキンの17日の株価終値は、前日比1円(0.03%)高の2892円。 昨年12月7日にグッドマン買収に関する報道が出た前日の株価終値と 比較すると、7%の下落。同期間に日経平均は3.3%上昇している。そ れに対し、同社が09年に発行した国内無担保普通社債(10年物)の12 月30日の利回りは1.10パーセントで、月初めから3べーシスポイント (bp、1bp=0.01%)低下(債券価格は上昇)しただけで、国債との利 回りスプレッドは17でほぼ変わらなかった。国内の一般事業会社債と 国債利回りの平均スプレッドも同期間で変動していない。

BNPパリバ証券の中空麻奈クレジット調査部長は、英語での電話 取材に対し、今回のような買収案件に関する報道は、通常は社債にとっ てはネガティブな影響を与えると前置きしたうえで、「今は日銀がシン グルA以上の格付けの社債を買い取っているので、格付けが下がらない 限り、誰も気にしていない」と話した。

ムーディーズ・インベスターズ・サービスのダイキンの無担保長期 債務格付けは「A3」、見通しは「安定的」。格付投資情報センターも 昨年11 月に同社の格付け「A+」、見通し「安定的」を据え置き、両社 とも買収報道以降に同社の格付けや見通しを変更していない。

買収リスクは高くない

新生証券の松本康宏シニアアナリストは、信用市場が買収報道に反 応していないことについて、ダイキンのメーンビジネスである空調事業 の買収であり、北米という成熟市場で安定した収益が見込めることもあ り総合的にみて買収リスクはそれほど高くないと判断されたのではな いかと指摘する。

松本氏は、「ダイキンには買収による財務への影響をできるだけ最 小限にとどめようとする姿勢がうかがえる」とし、資金の多くを借入金 でまかない、デットエクイティレシオが極端に悪化するようなことはし ないだろうとみている。

井上氏は9月の懇親会の場で「発行済み株式数はまだ増やせる」と 発言、海外での巨額買収を行う場合を仮定したうえで、その資金調達方 法について「たとえば3000億、4000億円必要なら、3分の1は増資、 3分の1は社債発行、3分の1は長期借入、こうしたらいい」と述べて いた。

BNPパリバの中空氏は、円高や低金利で海外事業買収をねらう日 本企業にとって「強い追い風が吹いている」と述べたうえで、「資金力 や意欲がある日本企業は買収を決断するべきだ。今を逃せば二度とこん なチャンスは訪れないだろう」と話した。

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE