【クレジット市場】中国は円高で日本国債を売却、欧州債に乗り換えか

世界最大の外貨準備を保有する中 国は日本国債を昨年夏までに過去最速のペースで買い増した後、円高 と金利低下をとらえて売り抜けた。円高終息と低金利の予想が優勢な 日本国債には、中国マネーの再来は期待しにくい情勢だ。収益性と政 治的な影響力拡大の両面から、中国は欧州の重債務国への投資姿勢を 強めている。

財務省によると、中国は2010年初めから7月までに日本国債な どを2兆3159億円買い越した。通年で過去最大だった05年の約9倍 に上る額だ。野田佳彦財務相は7月15日には「国債保有者の多様化」 を目指す中で、中国の対日投資を肯定的に受け止めていた。ただ、7 月分のデータが明らかになった直後の9月9日には参院で、中国の 「本当の意図は分からない」「動向を注目している」などと説明に追 われた。

しかし、円・ドル相場が約15年ぶり高値に達した8月に、中国 は日本の証券を一気に2兆182億円売り越した。直近の11月までに は、年初来でも約2900億円の純減となった。昨年は、09年のマイナ ス802億円を超え、通年で最大の売り越しとなった公算がある。

大和総研の亀岡祐次チーフ為替ストラテジストは、中国は外貨準 備で保有するドルの一部を他通貨に分散する長期的な方針だけでな く、「為替の水準によって機動的に動かすポートフォリオも持ってい る」と指摘。「円が弱かった昨春以降に拡大した対日投資を、為替差 益を得られる円高局面で売り抜けた」と説明した。

中国の対日証券投資は短期債が大半を占め、中長期債は少ない。 日本銀行による金融緩和の長期化観測を背景に、短期債利回りはおお むね低水準(価格は高値)で安定。円の強弱による為替損益が、外貨 建てで測った資産価値を左右しやすい。

円、最高値に接近

実際、円・ドル相場は昨年5月に1ドル=94円99銭の年初来安 値をつけた後、欧州の債務危機や米金融緩和観測を背景に上昇。国債 利回りも低下に向かった。政府・日銀は9月15日に6年半ぶりとな る円売り介入に踏み切ったが、11月1日には一時80円22銭を記録。 1995年4月に記録した戦後最高値79円75銭まで50銭弱と迫った。

円高・株安や景気の悪化懸念を受け、日銀は8月30日と10月5 日に金融緩和を実施。国庫短期証券の3カ月物、6カ月物利回りは

0.105%程度に低下した。新発2年物国債利回りは0.105%、同5年 債も0.20%、長期金利の指標とされる同10年債は0.82%程度に低下。 09年末時点ではそれぞれ0.15%、0.47%、1.285%前後だった。

しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)が昨年11月3日、今年 6月にかけて6000億ドル、住宅ローン担保証券の償還元本の再投資分 も含めると総額8500億-9000億ドルの米国債購入を決めると、米イ ンフレ懸念などから内外の債券・為替相場は反転。日本銀行は追加金 融緩和を見送ったにもかかわらず、米金利や内外株価の上昇を受け、 円・ドル相場は12月15日に一時84円51銭に下落した。国庫短期証 券の3カ月物、6カ月物利回りは0.13-0.14%程度まで上昇する場面 があった。

今年は円安予想が優勢

バンク・オブ・アメリカ(BOA)メリルリンチの指数によると、 日本国債全体の投資収益は昨年2.4%にとどまり、米国債の5.9%や ドイツ国債の6.2%を下回った。

ブルームバーグの調査によると、市場関係者は今年末に円・ドル 相場が89円に下落し、日本国債2年物利回りは0.24%、同10年債 は1.24%に上昇(価格は下落)すると予想。米国については2年債 が1.24%、10年債は3.63%だ。日米ともに年内利上げは想定してい ないが、円・ドル相場と相関性が強いとされる日米2年債利回り格差 は、足元の0.4ポイント前後から1ポイントに拡大するとの予想だ。

野村証券の田中泰輔氏ら為替調査チームは11日、円・ドル相場 の今年末の予測値を85円から90円に引き下げた。

世界最大の外貨準備、欧州へ

中国にとって、為替差損が生じかねない円安に加え、金融緩和政 策の長期化により他国との金利面での劣位が強まる見通しの日本で、 短期的な国債投資を拡大する動機は多くない。

トヨタアセットマネジメント投資戦略部の浜崎優チーフストラ テジストは、米景気の回復持続で円安・ドル高が進むと予想。中国に とって「円債に投資妙味はない。利回りで稼げない上、為替リスクも 被る。今年は特段、円債を買ってこない」と読む。

中国はギリシャやポルトガル、スペインなど欧州の重債務国への 投資や経済協力を進める姿勢を強めている。温家宝首相は昨年10月 にギリシャ国会で、ユーロの安定を支持し、欧州諸国が発行する国債 の保有を減らさないと表明。同国の高虎城商務次官はマドリードで今 月5日、スペイン国債を発行市場と流通市場で購入する計画だと表明 した。

中国の外貨準備高は昨年末、前年比18.7%増の2兆8500億ドル で世界最大。2位の日本(1兆962億ドル)の2.6倍に達している。 中国国家外為管理局(SAFE)は7月、同国の外準ではドルとユー ロ、円が主要な準備通貨だと説明。構成比率を積極的に調整する方針 を示した。中国証券報は9月、外準の通貨別構成は世界的な平均に近 い、と報じた。世界的な平均はドルが65%、ユーロが26%、英ポン ドが5%、円が3%だという。

クレディ・アグリコル証券の加藤進チーフ・エコノミストは、中 国は財政再建に苦しむ一部の欧州諸国への投資を通じ「影響力を行使 する戦略的な投資」に動いていると指摘。日本は「そうした投資の対 象にはなっていない」という。

トヨタアセットマネジメントの浜崎氏は、ユーロ圏の国債につい て「市場が騒いでいる割に、ポルトガルやスペイン、イタリアの財政 状況は悪くない」と指摘する。ユーロ相場も欧州債務懸念を過度に反 映し、通貨として押し目買いの「妙味がある」水準だと分析。欧州国 債への投資は、為替差益と国債価格上昇(利回りは低下)を両方期待 できると見ている。

しかも、困難に直面しているユーロ加盟国の債券を買うことで 「恩を売る」「中国シンパを増やす」という政治的意図もあると読む。 恩を売りつつ、投資妙味のあるユーロ建て債券を買うのは「おいしい と思う。持てる者の強みだ」と語った。

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