【クレジット市場】資金調達は株式選好、財務意識-株価回復後押し

日本企業の間で、社債よりも株式 による資金調達を優先させる傾向が見え始めている。財務リスクに敏 感な企業が社債の発行を抑制する半面、世界経済は回復に向かい、日 経平均株価が約8カ月ぶりに1万500円台を回復する中、増資など株 式による調達環境が改善してきたからだ。

ブルームバーグ・データによると、2010年に日本の上場企業は、 エクイティファイナンス(新株発行、新規上場や株式売り出しを含む) で5兆1230億円を調達した。前年比では7.3%減ったが、リーマン・ ショックがあった08年と比べると5.4倍。10年は、普通社債による 資金調達が9兆5590億円で、株式と社債双方を合わせた調達額に占め る株の割合は35%と、06年(50%)以来の高水準となった。

10年に事業会社で最大のエクイティファイナンス案件となった 国際石油開発帝石(株式発行額5412億円)の村山昌博取締役は、今後 豪州などで複数の投資案件を控え、その際はレバレッジを効かせる必 要があり、「将来デッドを調達するためには財務バランスを良くしてお かなければならないということで、先行して増資を行った」と話した。

新生証券の松本康宏シニアアナリストによると、景気はまだ不安 定なので、企業は「財務の悪化につながる負債を増やすことに抵抗が ある」一方、株式相場が回復してきたことで、「増資による調達の選択 肢を使うようになっている」という。

日経平均は、10年9月1日の昨年来安値(8796円)を底に回復基 調だ。日米金融当局による追加の量的緩和で過剰流動性相場への期待 などが膨らみ、年明け1月6日には約8カ月ぶりに1万500円台を回 復した。TOPIXも昨年11月2日(799.64ポイント)を安値に反 発し、11日終値は926.94ポイント。

株高、業績回復局面重なる

ゴールドマン・サックス証券では今月6日、米国と世界の経済見 通しを上方修正したことに伴い、従来以上に日本企業の大幅な収益回 復が期待できるとして、TOPIXの今後12カ月目標を1000から 1050ポイントへ引き上げた。同証による米国の成長率予測は、11年が

3.4%、12年が3.8%。チーフ日本株ストラテジストのキャシー・松井 氏は、最近の相場上昇にもかかわらず、日本株の株価収益率(PER) や株価純資産倍率(PBR)は魅力的と指摘している。

大和総研の土屋貴裕シニアストラテジストは、「エクイティファイ ナンスは株高局面をとらえて実施するべき」と強調する。増資は、既 存株主にとって株式価値の希薄化を免れないが、「株価が上昇している 時は通常、業績が上向いており、事業の拡大のために資金が必要とい うことで受け入れられやすい」ためだ。

直近では、JVC・ケンウッド・ホールディングス(VCKWH) が今月5日、最大で発行済み株式総数の28%に相当する新株を発行す ると発表したが、VCKWH株は発表後の3営業日で5割以上急騰し た。同社は調達資金を、主力のカーエレクトロニクス事業の設備投資 や研究開発、医療ヘルスケアや教育など新規事業の立ち上げ、さらに は戦略的事業提携などに充てる方針だ。

大和証券キャピタルマーケッツのまとめでは、東証1部上場主要 300社(金融除く)の10年度経常利益は前年度比57%増、11年度は 15%増、12年度は12%増となる見込み。一方、VCKWHでは今期(11 年3月期)の経常損益は45億円の黒字と、前期の148億円の赤字から の急改善を予想している。

「日本では、社債より株式への投資に魅力を感じている」と話す のは、三菱UFJ投信戦略運用部の関口研二部長だ。配当利回りや益 利回り(1株利益を株価で除した数値、PERの逆数)といった「イ ールド面で、社債より優位にあるから」と言う。

投資家はイールド面で株を選好

東証1部上場企業の予想平均配当利回りは11日時点で1.95%と、 10年物国債利回り1.2%を上回る。一方、米国ではS&P500種株価 指数の予想配当利回りが1.96%と、東証1部平均と同水準であるのに 対し、10年国債利回りは3.3%で債券利回りの方が高い。

また日本では、日本銀行が昨年10月に社債の買い取りをトリプル B格まで広げたこともあって、社債全般の金利が低下し、「全般的に社 債の妙味はなくなってきている」と、三菱U投信の関口氏は話す。ト リプルB格5年社債と同年限の国債利回りスプレッドは0.569%と、 07年5月以来の低水準にある。

TOPIXの予想株式益利回りから日本の10年物国債の利回り を差し引いたイールドスプレッドは、足元ではプラス5%超と、過去 5年間の平均3.2%を上回る。同スプレッドは、数値が大きくなるほ ど株価の割安性を示すものだ。

新興国や米国経済が回復してきており、「日本の企業は外需を取り 込む観点から、特に海外企業に対しての合併・買収(M&A)に前向 きになってくる」と見るのは新生証の松本氏。企業全般にキャッシュ は積み上がっているが、「M&Aとなると、手持ち資金で対応できない 場合も多い。事業リスクを吸収するためには、借金や社債よりエクイ ティファイナンスの方が向いている」と同氏は言う。

増勢M&Aに活用も

また、MFグローバルFXAセキュリティーズ(東京)の株式調 査ディレクター、ニコラス・スミス氏は「日本企業にとっては為替の 円高を利用して、海外でのM&Aを積極化する動きも出てきそう」と 予想。負債での調達コストがかさむ低格付け銘柄を中心に、M&Aに 伴う増資による新たな資金調達のニーズはある、とみている。

M&A情報会社のレコフの調べによると、日本企業による外国企 業へのM&A件数は、10年1-10月期に299件と前年同期の241件か ら24%増加。総件数に占める割合は、国内企業同士のM&Aが低調の 中、21.3%と09年年間の15.3%から6ポイント上昇した。金額も2 兆7529億円と、前年同期比23%増えている。

--取材協力:岡田雄至、稲島剛史 Editor:Shintaro Inkyo、Kenzo Taniai、Fukashi Maruta

参考画面: 記事についての記者への問い合わせ先: 東京 河野敏 Satoshi Kawano +81-3-3201-2483 skawano1@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先: 東京 大久保義人 Yoshito Okubo +81-3-3201-3651 okubo1@bloomberg.net 香港 Nick Gentle +852-2977-6545 ngentle2@bloomberg.net

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE