【特別寄稿】人民元上昇は米中双方にプラス-シンガポール首相

世界は金融危機から驚くほど急速に 回復したが、経済は今2つの軌道を歩んでいる。先進国が依然として 財政と金融、それに構造問題の対応に苦しむ一方で、新興市場、特に アジアは強固な成長を続けている。その結果生じた世界の不均衡が国 際的な緊張を生み出している。

20カ国・地域(G20)はこうした問題に取り組む枠組みとして 急速に台頭した。危機の際には特に威力を発揮したが、この枠組みは 8カ国(G8)に比べ一層包括的なので、引き続き有益である。

今日の世界では米中関係が最も重要な2国間関係だ。両国間には 特に為替レートをめぐり大きな摩擦がある。人民元は政治的に難しい 問題だ。米国は不公正な競争手段として人民元が過小評価されている と見なしている一方で、中国は急激な元高が国内経済を混乱させ、失 業と社会不安を引き起こすことを恐れている。

だが経済的見地から見れば、これは必ずしも勝つか負けるかとい った戦いではない。漸進的な元高は中国の輸出業界の再編と向上を促 し、輸出を越えたより幅広い成長からの利益分配につながるほか、中 国で問題化しつつあるインフレ抑制するだろう。同時に米国内の政治 的圧力を和らげ、両国関係の緊張緩和に寄与する。

米中両国は、イランの核問題や北朝鮮を含む多数の困難な国際問 題で協力するため、相互信頼関係を構築する必要がある。そうでなけ れば、特に南シナ海での領有権争いのような問題が生じたとき、互い の真意に対する疑念が頭をもたげてくることになる。

超大国

国際社会は影響力と経済力の相対的なバランスが徐々にシフトし ているのを目撃している。米国は今後数十年にわたり卓越した超大国 であり続けるだろう。だが、アジア各国は中国の影響力拡大を目の当 たりにし、肌で感じ取っており、中国の成長の恩恵にあずかると同時 に、対中関係を強固なものにするため、中国に対する自らの立ち位置 を調整中だ。それでも、ほぼすべてのアジア諸国は米国がアジアに関 与し続けることを望んでいる。米中両国の友人となりたいのであり、 一方に肩入れせざるを得ない状況を望んでいない。

中国国民は、自国の力が大きくなるにつれ自己主張を強めている との外国の認識を承知している。中国指導者はこれまで平和的発展に 取り組んでおり、攻撃的な意図はないと強調してきた。中国は国内に 数多くの問題を抱えており、しかもそれらは、極めて困難なものばか りだ。中国政府はいまだ貧困にあえぐ数億人の生活を向上させ、国民 のための社会的セーフティーネットを整備しなければならない。また、 富と発展の大きな格差を和らげ、前進し続けるため社会的・政治的安 定を維持する必要がある。

自由貿易

世界経済が回復する中で、国際的分業を深化させ、すべての国に とって長期的な繁栄を育むためには、各国政府は世界貿易の促進を継 続しなければならない。もっと短期的には、貿易自由化の進展に伴う 双方にとってプラスとなる関係は、必要とされている需要と成長の拡 大をもたらすだろう。危機時には保護主義が真の懸念だった。幸いに も、多くの人々が恐れていたほど各国政府は保護主義的、報復的な行 動を取らなかった。だが貿易面での前向きな動きも極めて少なかった。

指導者らは失業を懸念し、将来を不安視する有権者に対し、自由 貿易が長期的な恩恵であることを納得させる必要がある。グローバル 化は各国に大きな挑戦を迫る。競争は激しく、変化が続く。繁栄の果 実の配分は均一ではない。だが競争を締め出し、現状を凍結しようと する試みは失敗終わるだろうし、通貨再調整も本物の持続可能な繁栄 を生み出すことはないだろう。

技能への投資

国民の生活を向上させる唯一の信頼に足る戦略は、人々の技能と 経済の可能性を高めることだ。すなわち、収益力強化のための教育や 全体的な生産性引き上げに向けたテクノロジーとインフラへの投資、 衰退産業に代わる新たな産業の育成、変化する世界に関与し続けるた めの恒常的適応が必要になる。

成長促進に加え、各国政府は自由市場と経済統合に向けた政治的 支援を形成すべきである。成長は一握りの人々だけでなく、多くの人々 に恩恵をもたらす必要がある。国家は生活に苦しんでいる人々の味方 にならなければならない。だがそれは成功と前進に向けた人間の意欲 を損ねず持続可能なやり方で進めなければならず、それこそが、国民 の生活を向上させ、国家として前に進むためシンガポールが取り組ん でいることだ。(リー・シェンロン)

(リー・シェンロン氏はシンガポールの首相です。このコラムの 内容は同氏自身の見解です)

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