超高級ワインの常識を覆すカリフォルニア-好景気にファンドも注目

暖かい10月のある午後。 米カリフォルニア州太平洋沿岸でサンフランシスコの北に位 置するソノマ郡の鉄筋コンクリートの倉庫は、収穫されたブ ドウでいっぱいになっていた。

この地でピノ・ノワールを栽培するコスタ・ブラウン・ ワイナリーは、今や投資銀行家やベンチャーキャピタリスト、 そしてワイン愛好家の間で最も注目を集めるワイナリーの1 つだ。ブルームバーグ・マーケッツ誌2月号が報じた。コス タ・ブラウンの共同創業者でワイン職人のマイケル・ブラウ ン氏(42)は、1房のブドウを手に取って何粒かを口に運ぶ。 ワインの香味が広がり、種も風味豊かで苦味がない。

エルビスばりのもみあげをはやした赤ら顔の同氏は「ブ ドウが口の中ではじける。いい出来栄えだ」と声を上げる。

テキサス州フォートワースのプライベートエクイティ (PE、未公開株)投資会社TPGキャピタルの共同創業者、 ウィリアム・プライス氏(54)がこれを聞いたら目を細める だろう。コスタ・ブラウンの株式の過半数を保有する「ビン クラフト・グループ」を経営する同氏は、カリフォルニアの 次世代カルトワイン・メーカーに賭ける投資家の1人だ。

カルトの草分け

こうした超プレミアムワイナリーのワインの販売は小売 業者を通さず、入手が困難なため、口コミでワイン好きを駆 り立てる。カルトワインの草分け的存在であるコルギン・セ ラーズ、ハーラン・エステート、スクリーミング・イーグル は、オークションでフランスのボルドーワイン並みの価格で 落札され、超高級ワイン市場の経済序列を塗り替えた。利益 を出すのに数十年かかることもあるワイン業界で、新興のワ イナリーがカルト的存在となりつつある。

ブラウン氏とパートナーのダン・コスタ氏は、独自のピ ノ・ノワールを開発するためにブドウを買い付け、近くのワ イナリーでスペースと機材を借りるため、毎年の収穫ごとに 資金をかき集めた。2人は日中はブドウの品種改良に専念。 夜になるとウェイターやバーテンダーをして資金を稼いだ。 不良酵母など醸造の失敗に見舞われると、2人とも気が狂う のではないかと思う時さえあったとブラウン氏は当時を振り 返る。

同氏は「ワインビジネスはドットコム・ビジネスからの ステップアップのようなものだ。とても不安定で、他のビジ ネスよりも利益を出すのにはるかに時間がかかる」と説明す る。

ロマンチックなブドウ園での生活は、映画監督のフラン シス・フォード・コッポラ氏や米プロフットボールNFLの セントルイス・ラムズのオーナーのスタン・クロンケ氏など、 著名人や資産家も引き付ける。クロンケ氏は2006年にスクリ ーミング・イーグルを買収した。

最高級ワイン

実社会が景気不安に覆われる中にあっても、最高級ワイ ンの希少銘柄の市場は活況に沸いている。

アジアや中南米諸国・地域のワインコレクターの需要が 高まるにつれ、世界で最も人気のあるワインの価格動向を反 映するLiv-exファインワイン100指数は昨年11月末ま での1年間で39%高騰。ブルームバーグが集計したデータに よれば、世界有数の競売会社が昨年実施したオークションで 落札された高級ワインの合計価格は12月中旬までに過去最 高の2億5200万ドル(約210億円)に達した。

ステラー・カリフォルニアの赤ワインが記録的な高値を 付けたほか、ハート・デービス・ハート・ワイン社がシカゴ で10月に開催したオークションでは、ナパバレーのハーラ ン・エステートの1997年物ビンテージの落札額が6本で7170 ドルと、予想最高額を30%上回った。

カリフォルニア州セントヘレナのワインマーケティング 会社、ウィルソン・ダニエルズの共同創業者、ジャック・ダ ニエルズ氏は「景気低迷にもかかわらず、価格は桁外れに高 い」と述べ、「ワインは芸術品のように人々の心を奪い、今度 はあらゆるビンテージを手に入れなければという気持ちにさ せる」と指摘した。

4倍のリターン

プライス氏の場合、それは自分のワイナリーを所有する ということだった。TPGは96年にナパバレーのベリンジャ ー・ビニヤーズをスイス食品大手のネスレから3億5000万ド ルで買収。その4年後にはオーストラリアの酒類メーカー、 フォスターズ・グループに15億ドルでベリンジャーを売却し、 4倍のリターンを得た。

同氏はソノマバレーの農園、ダレル・ビニヤードの129 エーカー(52ヘクタール)の土地にブドウを栽培し、20種類 以上のワインの原料として最高品質のブドウを提供。さらに ソノマを拠点に自身のワイナリー「スリー・スティックス」 を起こし、シャルドネやピノ・ノワールで有名なキスラー・ ビニヤーズ、カルト的人気を集めるナパバレーのカベルネワ イン「ブッチェラ」にも投資している。投資額は明らかでは ない。

ワイン愛好家であるプライス氏は「TPGグロース・フ ァンド」(運用資産25億ドル)のポートフォリオ運用会社の 一つとして、2008年にソノマを拠点とする「ビンクラフト」 を設立。ビンクラフトの希少な高級ワインを束ねて外部投資 家のために利益を上げることを目指している。同社はその翌 年、コスタ・ブラウンの経営権を取得し、4000万ドル相当の 取引を通じて債務再編を実行した。

プライス氏は供給をはるかに超える需要を生む芸術的な ワイン造りの技に磨きをかける職人らを応援しており、「情熱 があり、独特の個性的なブランドを持つ人々を探している」 と話す。06年には慈善活動やワインに集中するためにTPG の業務への関与を減らしており、「そのような人々は、どう考 えても素晴らしいワインを造らずにはいられないだろう」と 熱く語っている。

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