【コラム】吉か凶か、今年の金融界左右する欧州最大の決断-M・リン

2011年に金融の舞台で欧州が下す 最大の決断は何か。答えは簡単。欧州中央銀行(ECB)の新総裁選 びだ。

10月に退任するトリシェECB総裁の後継候補として最有力な のは、ドイツ連邦銀行のウェーバー総裁とイタリア銀行のドラギ総裁 だ。

ただどちらも適任とはいえない。ウェーバー氏はユーロ周辺国に とって受け入れ難く、ドラギ氏ではドイツのユーロ離脱を招いてしま う恐れがある。

ユーロ圏の指導者らにとって、この問題を解決する方法は三つし かない。一つ目は、難しい決断を迫られた時の慣例に従って、オラン ダ国籍の無名の人物をECB総裁に就任させる措置だ。ドイセンベル ク初代総裁はこの方法で選ばれた。残る二つは、ユーロの緊急事態対 応でトリシェ総裁の任期を延長するか、意外な候補を選ぶことだ。

欧州の主要ポストの大半は、役職名は立派なものの権限がほとん ど与えられていない。実際に決断を下すのは、ドイツのメルケル首相 やフランスのサルコジ大統領、キャメロン英首相など各国の首脳だ。

権限のあるポスト

しかしECB総裁は違う。ユーロ参加17カ国の経済政策を担うキ ーパーソンだ。ユーロ圏では、各国の中銀に純粋な影響力を行使でき る余地はほとんど残されていない。真の権限を持つECB総裁は、米 連邦準備制度理事会(FRB)議長とともに世界で最も重要な金融当 局者だ。

そんなECB総裁の重要性が今年は一段と増す。ギリシャとアイ ルランドが財政危機に陥ったことで、ユーロは存亡の危機にさらされ ていると言っても過言ではないからだ。ユーロが生き残れるかどうか は、今後数年間に下される決断にかかる。ECB総裁の双肩にかかる 責任は重い。

問題は、2人の最有力候補が適任でないことだ。資質に問題があ るわけではない。ウェーバー氏とドラギ氏はともに聡明で有能な人物 だ。通常なら、良い仕事ができるだろう。しかし今年は事情が違う。 両氏の国籍に問題があるのだ。

ドラギ氏は、イタリア中銀総裁として市場に好印象を与えてきた。 しかしイタリア国籍のECB総裁の誕生が、ドイツの世論にもたらす 影響を想像してみてほしい。ドイツ国民が懸念する最悪の事態が一気 に現実味を帯びることになる。ドラギ氏は高債務国の代表と受け止め られ、ドイツ国民の間でユーロ不要論が高まり、同国の離脱を招く恐 れがある。そうなればオーストリアとオランダも追随するだろう。

緊縮財政

ウェーバー氏も、周辺国にとっては挑発的な候補にすぎない存在 だろう。緊縮財政を支持する候補と受け止められることになる。同氏 がECB総裁に就任すれば、ポルトガルやギリシャはユーロ離脱を強 いられる可能性がある。その次はスペインとイタリアだろう。3、4 カ国が離脱する事態になれば、欧州の金融政策の大実験ともいえる単 一通貨を存続させる理由はほとんどなくなる。

では解決策は何か。三つの選択肢がある。一つ目は、欧州連合(E U)が重要ポストの人選で合意できない時に取ることが多い方法。オ ランダ国籍の無名の人物を選任する措置だ。今回は目立たないユーロ 導入国から選ぶのが良い。候補としてはオーストリア中銀のノボトニ ー総裁のほか、フィンランド中銀のリイカネン総裁やベルギー中銀の クアデン総裁の名が挙げられる。知名度が低い3氏は、無難な選択肢 になる。ECB総裁に適した高レベルの実績があるかどうかは別問題 だ。

安全な選択肢

二つ目は、現在は再任が認められていないトリシェ総裁の任期(8 年)延長だ。まだ68歳であり、年齢が問題になることは決してないだ ろう。危機への対応も期待通りだった。危険な時期にユーロ運営を任 せられる安全な選択肢という位置付けが同総裁の売りだろう。唯一の 問題は、長期的な解決法でない点だ。

予想外の候補を選ぶという三つ目の選択肢はどうか。ユーロ圏内 の中銀総裁ではなく、フランスのラガルド財務相をECB総裁にして みたらどうだろうか。ギリシャとアイルランドの救済措置の取りまと めではすでに重要な役割を果たした。次期ECB総裁は今後数年にわ たり、おおむね政治的な任務に取り組むことになる。救済措置を売り 込み、妥協案を協議する任務であり、ラガルド財務相が得意とする分 野だ。

スペイン最大の銀行、サンタンデール銀行のエミリオ・ボティン 会長も適任かもしれない。恐らく欧州で最も成功したコマーシャルバ ンカーだろう。同行を世界有数の銀行に育て上げた人物で、信用危機 もおおむね無傷で乗り切った。高債務国からの選出にはなるが、銀行 の合併・買収(M&A)における国際的な経験は、ECBでも大いに 役立つことだろう。

これらの解決策には賛否両論があるだろうし、意外な候補を選ぶ 選択肢は真面目な考え方ではないかもしれない。しかし重要なのは、 EUはECB次期総裁の現時点での候補以外の選択肢を模索すべきだ という点だ。いずれの選択肢であれ、ユーロ圏の半分で著しく不人気 なECB総裁が誕生し、ほどなくユーロ解体の指揮を取る羽目になる 可能性が高まってしまうよりは間違いなく良いだろう。(マシュー・リ ン)

(マシュー・リン氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニス トです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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