【クレジット市場】銀行の「預貸ギャップ」拡大、国債投資を促す

日本の国債市場は今年も過去最高の 発行額が見込まれている。一方で、最大の買い手である銀行は景気低 迷による貸し出し減少に直面して預金の多くを国債投資に振り向けざ るを得ないため、長期金利の上昇は抑制されるとみられている。

国内銀行の預金残高から貸出残高を差し引いた、いわゆる「預貸 ギャップ」は昨年11月に151兆円と、日本銀行のデータでさかのぼれ る1991年以降の最高を記録した。これは2009年の名目国内総生産(名 目GDP)の約3分の1に相当する金額だ。

国際投信投資顧問の加藤章夫円債運用グループリーダーは、預貸 ギャップは横ばい、もしくは緩やかな拡大方向との見方を示した上で、 「銀行が引き受けた預金は基本的に国債に回さざるを得ない。企業も 個人も資金需要がなく、結果として政府がお金を借りている状況にな っている」と指摘する。

みずほ証券によると、国債・財投債の総発行残高に占める国内銀 行の保有比率は昨年3月末時点で38%と保険の20.3%を上回ってお り、国内最大の買い手。日銀のデータによると、保有残高は昨年9月 に143.2兆円と過去最高を記録。10月は142.2兆円だった。

08年のリーマンショック以降、先進国では民間企業が債務を圧縮 する一方、銀行は国債の保有を拡大。米商業銀行による米債・政府機 関債の保有額は昨年に1.66兆ドル(約135兆円)と、統計開始以来の 最高を記録した。イングランド銀行(BOE)は、記録的な低水準に ある世界の債券利回りについて、ソブリン債危機やインフレ加速の懸 念拡大で突然上昇する可能性があると警告している。

長期金利再び1%割れとの声

日本の長期金利は世界の最低水準にある。指標となる新発10年国 債利回りについて、ブルームバーグが昨年12月に東京在住の債券スト ラテジストら16人に聞いた今年の予想の平均は、上限が1.52%程度、 下限は0.93%程度だった。昨年の上限は1.405%、下限は0.82%で、 それぞれ10ベーシスポイント(bp)程度の上昇にとどまっている。

昨年の長期金利は8月に7年ぶりの1%割れを付け、10月には

0.82%まで低下したが、その後の2カ月間で1.295%まで急上昇した。 日本証券業協会の公社債投資家別売買動向(除く短期証券)によると、 都市銀行が10月の9927億円の買い越しから11月は2兆8905億円の 大幅な売り越しに転じており、都銀の売りが金利上昇に拍車をかけた ことを示している。

もっとも、昨年末の長期金利は1.11%まで戻している。三井住 友海上火災保険投資部の高野徳義グループ長は、「銀行は明らかに金余 りの状態で、国債を売っても再び国債を買うしかない」と指摘。今年 の長期金利は「1-3月中にも再び1%を割り込む場面があるだろう」 と予想する。

国内大手6行の10年4-9月決算では、純利益の合計1兆2840 億円の4割弱にあたる5052億円が国債等債券損益となっており、前年 同期比4.5倍に膨らんでいる。

公的部門と民間部門

2011年度の国債発行計画によると、国債の発行総額は前年度当初 予算比7兆2000億円増の169兆6000億円と3年連続で増額となり、 過去最大を記録する。このうち、市中発行額も144兆9000億円と2年 連続で過去最大を更新する。

一方、日銀によると、昨年11月の国内銀行の預金残高は前年同月 比2.7%増の543兆円と過去10年で140兆円増えたが、貸出残高は

2.1%減の392兆円と12カ月連続で減少した。金融経済月報では、企 業の資金需要を高める設備投資の動向について「過剰感が残り、改善 ペースは緩やか」との見通しが示された。

農林中金総合研究所の南武志主任研究員は、「日本経済の当面の姿 を考えても貸し出しが増えづらい一方、投資家は引き続きリスクを取 ることに慎重だ」と述べ、国債に対する底堅い需要が継続するとみて いる。

みずほ証券は昨年3月のレポートで、「国債を中心とした公的部門 の資金調達を国内民間部門の余剰資金が賄う状況にあり、資金需要が 低迷するなか、このような環境は長期化せざるを得ない」と指摘して いる。

財務省は昨年12月、販売が低迷している個人向け国債の商品性を 改善すると発表した。低金利局面で利回りが低くなり過ぎないように 金利設定方式を見直すほか、固定金利型5年債の中途換金禁止期間を 2年から1年に短縮し、他の個人向け国債と統一する。個人への販売 を促すことで金融機関に偏った国債の保有構造を改めるのが狙いで、 国内銀行に集中する金利リスクが問題視されている面もある。

金融緩和とプレミアム

日銀は昨年10月、新型の資金供給オペ30兆円に加え、国債や社 債、CPから上場投資信託まで買い入れる5兆円の基金を創設。量的 緩和と信用緩和を合わせた包括緩和に踏み切った。また、消費者物価 指数(除く生鮮食品、コアCPI)の前年比1%程度の上昇が見通せ るまで実質ゼロ金利を継続する「時間軸政策」も明確化し、市場金利 の低下とリスク・プレミアム(上乗せ金利)の縮小を促している。

昨年11月のコアCPIは前年同月比0.5%低下と、21カ月連続の マイナスだった。農中総研の南氏は、「賃金が上がっていかない限り、 CPIも持続的な上昇はない」とみており、物価が上昇しづらい状況 下で資産買い入れ基金の拡大など追加緩和を求める圧力が高まると予 想する。

今年のコアCPIは8月に基準年改定による下振れ要因も控える。 日銀の経済・物価情勢の展望(展望リポート)は、11年度のコアCP Iを前年度比0.1%上昇、12年度は0.6%上昇と予想しており、当面 はゼロ金利が続く時間軸効果が銀行の国債購入を後押ししている。

一方、三井住友海上の高野氏は、「企業の財務改善努力が社債スプ レッド(国債利回りに対する上乗せ幅)を縮小させる一方、ソブリン リスクは世界的に上昇している」と述べ、「大量の国債購入を続ける銀 行はリスクにさらされている」とも言う。

財務省によると、国債及び借入金などを合計した国の債務残高は 昨年9月末時点で約909兆円と過去最大に膨らんでいる。日本は公的 債務残高がGDPの約1.9倍と主要国で最悪。クレジット・デフォル ト・スワップ(CDS)市場では、日本ソブリンに対する保証コスト が昨年11月の50bp台に比べて70bp台まで上昇している。

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