10月28日の昼すぎ。インド南部 のモンドライ村の自宅の庭でくつろいでいたタンダ・スリニバスさん は、助けを求める叫び声を聞いた。妻のショバさんが全身を火に包ま れてドアから飛び出してきたのだ。

2人の息子の母でもあるショバさん(30)は、2リットルの灯油 をかぶって焼身自殺を図った。救急車を呼んだ医師によると、夫婦は 多重債務の返済をめぐって前日に激しく口論。債務には村人に小口融 資をしてきたマイクロファイナンス業者からの借金も含まれていたと いう。

ショバさんは女性債務者の複数のグループのまとめ役で、自身の ローン1万2000ルピー(約2万2000円)の利払いを迫られていたほ か、2週間前に導入された州のマイクロファイナンス活動規制にもか かわらず、他の女性の借金の肩代わりも要求されていたという。「ブル ームバーグ・マーケッツ」誌2月号が報じた。

スリニバスさん(35)は毛布で火を消そうとしたが自分のポリエ ステルの衣服に火が燃え移り、3日以内に夫妻は2人の息子を残して 死亡した。10歳と13歳の息子は今、70歳で病気の祖父と目の不自由 な祖母に農村で育てられている。村の男性の多くはアルコール飲料用 のヤシのエキス集めで生計を立てており、2人の孫を終日世話できる 親族は誰もいないと60歳の祖母は号泣した。

マイクロファイナンスの中心地

ワランガル市から80キロメートル離れたモンドライ村の悲劇は、 アンドラプラデシュ州内で数多く繰り返されている。インドの9月末 時点のマイクロファイナンス残高53億ドル(約4400億円)の約3分 の1は同州で実行された。

警察の報告や報道を基にマイクロファイナンス関連の死亡データ を集計している政府機関によると、同州では3月1日から11月19日 までに借金などを苦に70人余りが自殺を図った。こうした状況を受け て同州政府は10月15日、マイクロファイナンスの債権回収業者が返 済に苦しむ借り手の自宅を訪問して取り立てることを禁止するなどの 規制に乗り出した。

インド政府が貧困から抜け出せないでいる人々に十分な教育や医 療、仕事を提供できていない中で、貧困層の生計を助けるはずの小口 融資を提供するマイクロファイナンスが皮肉な展開を見せている。

皮肉な展開

マイクロファイナンスで融資するのは「麻薬販売に似ている」と 話すのはインドの格付け会社マイクロ・クレジット・レーティングス・ インターナショナルのマルコム・ハーパー会長(75)だ。マイクロフ ァイナンスなどのテーマで20余りの著作のある同会長は「アンドラプ ラデシュ州の読み書きのできない女性たちに融資する業者はもっと責 任を持つべきだ」と言う。

業者が女性たちをどう説得して借金させたかを調査しているカカ ティア大学のK.ベンカト・ナラヤナ教授(経済学)は、「マイクロフ ァイナンスは女性の力を高めるはずだったが、業者が社会や経済の進 展を逆行させ、融資を受けた女性を結局奴隷のようにしてしまった」 と指摘する。

インドで急拡大するマイクロファイナンス・ビジネスは世界的な 現象の一部にすぎない。慈善事業として元来始まったマイクロファイ ナンスはここにきて成長や高リターンを求める民間資本を引き付けて いる。

メキシコの元非営利団体(NPO)で現在は貧しい労働者向け融 資で最大の銀行であるコンパルタモス銀行は2007年に約4億6700万 ドル規模の新規株式公開(IPO)を実施した。今年8月にはインド のマイクロファインナンス最大手SKSマイクロファイナンスが163 億ルピー規模のIPOを行っており、著名投資家ジョージ・ソロス氏 のファンドもSKSに出資するなど、同業界への関心は高まっている。

誤った方向

アンドラプラデシュ州の事態はマイクロファイナンス事業の先駆 者で06年にノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行創業者のムハマ ド・ユヌス氏(70)のビジョンとはかけ離れている。

元経済学教授のユヌス氏はバングラデシュで銀行融資を受けられ ない貧しい人々に小口の事業資金を貸し付ける事業を1976年に開始。 それ以来、98億7000万ドルを融資して87億6000万ドルを回収した。 833万人の借り手のうち女性は97%を占めるという。

ユヌス氏はマイクロファイナンスで利益を上げることに反対しな いとしながらも、貧困層の支援という本来の目的からそれて大もうけ を狙う業者を厳しく非難している。バングラデシュの首都ダッカから 電話インタビューに応じたユヌス氏は「商業化は誤った道だ」と述べ、 融資金利の目安は資金調達コストに10%上乗せした水準だろうと語 った。

曲解

インドのマイクロファイナンス業者は銀行から平均で13%以上 の金利で資金を調達し、貧困層に貸し付けているが、業界団体マイク ロファイナンス・インスティテューションズ・ネットワークのアロク・ プラサドCEOによると、融資金利は36%まで上がることもあるとい う。

一方、ユヌス氏によると、バングラデシュのグラミン銀行の金利 は教育ローンで5%、住宅ローンで8%。物乞いには無利子で貸し付 けており、主な融資金利は20%が上限だという。

ユヌス氏は「マイクロファイナンスが乱用され曲解されている」 と述べ、「これは私が作り出したマイクロクレジットとは違う」と嘆い た。

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