【米経済コラム】減税合意で米国は欧州に近づいた-S・ジョンソン

オバマ米大統領が先週の共和党と の減税延長合意で中心的役割を果たしたことに対して祝辞を受けてい る。

民主、共和両党とも、この合意で得るものがあったと考えている。 民主党はこの合意で2012年には失業率が8.5%を下回り、オバマ大統 領の再選につながると期待している。一方、遺産税などの措置に関す る長年の目標を達成した共和党は、既に進行している景気回復の大部 分の功績を認めてもらえると考えている。

しかし実際には、この合意で米国はユーロ圏が今まさに経験して いるような財政危機に近づいた。

米国でそのような危機が生じた場合にトップに立てるのは誰か。 予想するのはもっと難しい。現時点では共和党に分があるが、同党が 主張する連邦政府の大規模な歳出削減を喜ぶかさえ分からない。

両党の財政政策に関する公式見解の裏には、投資家がほぼ全ての 米国債を瞬きもせずに購入するだろうし、さもなければ米国債利回り は上昇するという慢心がある。これはジミー・スチュワート主演の映 画「素晴らしき哉、人生!」のように親しみやすく心温まるものだが、 われわれは世界が大きく変化し、今ではこんな考え方がいかに時代遅 れであるかを考えざるを得ないだろう。

夢と現実

米国は世界の経済・金融における優位性を間違いなく失いつつあ る。確かに米国が市場に供給する国債の量は最大だが、投資家には債 券でも他の資産でも世界中に多くの選択肢がある。米国債市場は中国 人民銀行(中央銀行)などの捕らわれの身の投資家たちに支えられる だろうという考えは古くさく、今の現実とは相反する。

米国が多額の経常赤字を計上していることを考えれば、われわれ のライフスタイルの維持に毎日新たな外国資本を取り込む必要がある。 ユーロ圏はここ数カ月困難な局面に見舞われており、早期の問題解決 は見込めない。来春にかけてユーロ圏の深刻なソブリン債問題が再び 浮上する可能性は高い。

債務の持続可能性の鍵は政府が国内総生産(GDP)などの経済 指標との比較でどれだけ歳入を得られるかではない。むしろその国が 金融市場からの圧力にさらされた時に、増税や歳出削減を行う政治的 意思が存在するかどうかだ。

これこそ2010年にギリシャとアイルランドに欠けていることが分 かった要素だ。11年にはポルトガル、スペイン、イタリア、ベルギー、 そしてフランスさえも動向が注目されるだろう。そしてその次は米国 の番だ。

米国の番

米国の問題は超党派で減税のコンセンサスが得られるかどうかと いうことではない。10年物米国債利回りが上昇して利払いが急増し、 期間が短めの国債の借り換えに懸念が生じた時の対応策で合意できる かどうかが肝心だ。

一つの対応策としては、米連邦準備制度理事会(FRB)がこの事 態を回避し、量的緩和の追加策や他のアイデアを使って長期金利を押 し下げることが考えられる。それはあり得るかもしれないが、10年債 利回りは過去1カ月ほどで急上昇し、FRBの目標と推定される住宅 ローン金利は最近の低水準から0.5ポイント余り上がっている。

これについては、今実施中の量的緩和策の成果の表れだという 人々もいるが、世界的なセンチメントが既に米国の財政政策に背を向 けている兆候だという見方もある。いずれにせよ、米国には超低金利 で膨らむ債務を賄う能力が限られていることを示唆している。

比較的弱い欧州の国とは異なり、米国には金利上昇と財政政策当 局の苦戦という悪循環を断ち切るために外部の機関を利用することは できない。約2兆6000億ドル(約216兆円)を保有するとみられる中 国でさえも影響を及ぼすほどの力はない。中国の保有資産の大部分は まさに米国債であるだけに、圧力がかかるだろう。

2つの選択肢

現時点ではわれわれには2つの選択肢しかないだろう。増税もし くは歳出削減だ。オバマ政権がこのシナリオに備えておらず、理にか なった税制改革案を持たないとすれば、大幅歳出削減を目指す共和党 議員にはチャンスだ。

しかしそこには問題がある。米政府の税収は多くはなく、先進国 と比べるとGDP比で少なくとも10ポイント低い。軍事と社会保障、 メディケア(高齢者医療保険制度)以外にはあまり支出しておらず、 それ以外の歳出を凍結または大幅削減しても大差は出ない。

結局それは米国の中高年が圧迫されていくことを意味している。 減税などのアイデアで両党のコンセンサスが形成されたからといって 意味をなすものとは限らない。今の減税主導者は、われわれが将来的 に財政危機に見舞われ、米国の国家安全保障に対する本当のダメージ を招きかねない状況を設定したのだ。 (サイモン・ジョンソン)

(サイモン・ジョンソン氏は米マサチューセッツ工科大学=MI T=スローン・スクール・オブ・マネジメントの教授で、「13バンカー ズ」の共同執筆者です。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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