【経済コラム】中国の金融御三家こそが「今年の人」-W・ペセック

内部告発サイト「ウィキリークス」 創設者のジュリアン・アサンジ氏は恐らく、「トンビに油揚げをさらわ れた」気分でいるだろう。

米誌タイムは2010年の「今年の人」にソーシャル・ネットワーキ ング・サービス(SNS)の米フェースブックの創業者、マーク・ザ ッカーバーグ氏を選んだ。タイム誌は無難な選択をした。世間に波風 を起こすためではなく人々を結び付けるためにインターネットを活用 した著名人を選んだわけだ。アサンジ氏はアフガニスタンのカルザイ 大統領やサラ・ペイリン前米アラスカ州知事と共に次点に甘んじた。

それにしても、2010年の顔としてアジアには他にも何人も候補が いたと思われる。タイム誌がアジアから「今年の人」を選んだのは、 1996年の台湾出身の科学者、デービッド・ホー氏が最後で、その前は その10年前のコラソン・アキノ・フィリピン大統領(当時)だった。 今年のアジアでザッカーバーグ氏をしのぐと思われる候補を4組挙げ てみよう。

金正恩(キム・ジョンウン)氏:北朝鮮の金正日(キム・ジョン イル)総書記の後継に指名されているこの20代の若者についてはあま り知られていないが、この後継劇は世界的な大事件だ。北朝鮮による 韓国への砲撃もこれと無関係ではない。金王朝は自己保全モードに入 っている。

正恩氏が引き継ぐのは核兵器を持つ貧窮した全体主義国家。軍を 牛耳る反動的な高齢の将軍たちはスイスで教育を受けマイケル・ジョ ーダン(元米プロバスケットボール選手)を愛する若者を信用しない かもしれない。

次の10年の人

この後継劇がどう進むかは、アジア市場と格付け、中国の近隣諸 国との関係を含む地域の協力体制に大きく影響する。正恩氏は今年ば かりか次の10年間の人になるかもしれない。

劉暁波氏:ノーベル平和賞受賞者の中国反体制活動家、劉暁波氏 ほど、中国政府が話題にされて嫌がる人物はちょっと思いつかない。 同氏の受賞に対する中国政府の度を超えた反応は同国の本性を示すば かりか非現実的ですらあった。

中国の躍進は目覚しい。債務危機に悩む欧州、高失業率の米国、 国民の生活水準が低下する日本を尻目に、7-9月期は9.6%の高成 長を遂げた。貧困の撲滅に向けた取り組みも新興国の中でインドなど をはるかにしのぎ成果を上げている。一方、政治的には後れを取って いる。劉氏のノーベル賞受賞はかつてないほどこれを浮き彫りにした。

残念な事実

ノーベル賞問題は中国の力も見せつけた。20近い国が中国に配慮 してオスロでの授賞式に出席を見合わせたのは恥ずべきことだ。どち らにしても、中国の対応は人権問題で同国の前進が望みにくいことを 示唆した。この残念な事実を明らかにした功績によって、劉氏は「今 年の人」に値する。

アウン・サン・スー・チー氏:遠慮なく物を言うことで知られる シンガポールのリー・クアンユー元首相(現顧問相)は、ミャンマー 情勢に関して米国の外交当局者と語った際、特に率直だったようだ。 ウィキリークスが漏えいした機密文書によると、リー元首相はミャン マー軍事政権の指導部について「愚か」だと述べ、同指導部との対話 は「死人としゃべっているようなもの」と語ったという。

とはいえ、7年余り自宅軟禁下に置かれてきた民主化運動指導者、 スー・チー氏の解放は、ミャンマーの政治改革に向け新たな希望の光 をともした。スー・チー氏は解放後のスピーチで、軍事政権指導部と 民主化運動支持者双方との協力に前向きの姿勢を示した。

ミャンマーが突然、もろ手を挙げて経済統合を受け入れるとは誰 も思わないが、同国の存在によって現実味がゼロだった東南アジア諸 国連合(ASEAN)10カ国の市場統合は、スー・チー氏の解放によ って進展の可能性が生じた。

本命

謝旭人、周小川、朱長虹3氏:謝氏は中国の財政相、周氏は中国 人民銀行(中央銀行)総裁、朱氏は中国の2兆7000億ドル(約226 兆円)の外貨準備の最高投資責任者(CIO)だ。世界経済がぐらつ いている今、この3人への注目は高まるばかりだろう。

先週はポルトガル当局者らが中国の支援表明に喜びを隠し切れな かった。ポルトガル紙ジョルナル・デ・ネゴシオスが、中国は来年1 -3月(第1四半期)にポルトガル国債に40億-50億ユーロ(約4400 億-5500億円)を投資する意向があると報じたからだ。中国の支援は 欧州市場にとって恵みの雨だ。

潤沢な資金を持つ中国に関して、この種のニュースが今後も出て くるだろう。かつては、救済は国際通貨基金(IMF)の仕事だった が、新興国と先進国の両方を対象に救済を提供する役割を中国が担う のは確実のようだ。米国が減税や景気刺激策を実施するとき、そのた びに中国から借金をしている事実を忘れてはならない。

つまり、謝、周、朱3氏は世界の市場に対し、信じられないほど の力を持っているということだ。次のリーマン・ブラザーズ・ホール ディングスが現れたときには、破たんにひんした金融機関の幹部は中 国政府に助けを求めるだろう。欧州で次に倒れる国についても同じだ。

中国の温家宝首相も今年の人の資格十分だという議論もあるだろ う。温首相は繰り返し、米欧の当局の上手を行く手腕を見せた。再生 可能エネルギーでもレアアース(希土類)でも為替でも世界経済の不 均衡問題でもそうだ。しかし、中国の金融御三家の台頭は著しい。

2011年の合言葉は「人民元を少し恵んで」になるかもしれない。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラム ニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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