【クレジット市場】株式優位示すイールドスプレッド、日銀も後押し

日本の株式と債券の相対的な投資 魅力を測るイールドスプレッドは、世界が未曽有の金融危機に見舞わ れた2008年以来の株優位のシグナルを発している。日本銀行によるリ スク資産の買い取り開始、円高進行の一服といった支援要因も重なり、 債券から株式へマネーが移動する環境が整い始めた。

TOPIXの予想株式益利回り(1株利益を株価で除した数値、 PERの逆数)から日本の10年物国債の利回りを差し引いたイールド スプレッドは、09年3月のマイナス1.1%を底に上昇し、先月には6% とリーマン・ショック最中の08年10月以来、約2年ぶりの高水準を 付けた。直近はプラス5%超で推移、過去5年間の平均3.2%をなお 上回る。同スプレッドは、数値が大きくなるほど株価の割安性を示す。

世界的な金融危機に直面した投資家らはリスク資産縮小の動きを 強め、2008年秋から09年春にかけて株安・債券高(金利低下)が加 速。その後政策効果で景気や企業業績が回復し、株価は反転したが、 円高が加速したことし6月以降、株安・金利低下が再燃した。こうし た中で日銀は10月、長・短期国債に加え、社債、コマーシャルペーパ ー、指数連動型上場投資信託(ETF)、不動産投信(J-REIT) などリスク性資産も含めて購入する5兆円の基金創設など、包括的な 金融緩和策を発表した。

独立系調査会社の武者リサーチの武者陵司代表は、「債券との比較 において株が極端に割安であることは明らか」と指摘した上で、日銀 の行動について「ある意味で、リスクテークとリスク回避の2つの陣 営の行司役ではなく、リスクテークの陣営に肩入れしたことを示す」 との見解を示した。国債から株への資金のシフトが起こり始めている が、11年はそれが壮大なスケールで起こると予測している。

ETF買い入れ始まる

日銀は今月15日、ETFの初回の買い入れを実施し、買入額は 142 億円だった。市場の動向を見ながら購入を続け、11年末までに 4500億円程度を買い入れる計画だ。アイエヌジー投信の王子田賢史イ ンベストメント・マネジャーは、「日銀の包括緩和アナウンスのあった 10月に日本株に対し強気転換した」と言う。さらに、11月に米国が量 的緩和第2弾(QE2)を打ち出し、「日本株が世界のほかの株式相場 にアウトパフォームしやすい地合いが決定的になった」と見ている。

日本証券業協会の国債投資家別売買高データによると、直近公表 分の10月分で売付額が買付額を3兆6831億円上回った。一方、東証 発表の日本株の投資部門別売買動向によれば、10月は個人や証券自己 の売りを海外投資家が吸収し、差し引き131億円の買い越し。さらに 11月は233億円と、買越額がわずかながら拡大した。

長期金利の指標である10年物国債利回りは15日、7カ月ぶり高 水準の1.295%まで上昇。03年7月以来となる0.8%台前半まで低下 したことし10月初めから反転している。足元でTOPIXが半年ぶり に900 ポイントを回復、自信を取り戻しつつある株式市場関係者とは 対照的に、債券市場関係者の間では弱気の声が出始めた。

日興コーディアル証券の野村真司チーフ債券ストラテジストは、 日銀による国債買い取りについて、「いまこの厳しい財政運営の中でや ったら逆効果になる」と指摘。財政規律の乱れや、財政悪化懸念を反 映した「悪い金利上昇」が意識されると話す。まさに財政ファイナン スで、米国でQE2後に、「バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB) 議長の思惑に反して金利が上昇したのと同じようなイメージを、日本 に対しても持っている」と同氏は言う。

長期金利は日米ともに上昇しているが、米国の方が上げ幅は大き く、両国の長期金利格差は拡大傾向だ。これを受けた外国為替市場の ドル・円相場は、足元で1ドル=84円前半と11月1日に付けた15年 ぶり円高水準の80円22銭から円安方向で推移。日本株の押し上げに は「債券安と円安が必要」と見る世界的著名投資家のマーク・ファー バー氏は、日本ではこれから「現金や確定利付債から株式に向けた大 量の資金配分が起こる」と、12月1日付のリポートで述べている。

信用リスク指標も許容度拡大示す

各種の信用リスク指標も、投資家のリスク許容度の高まりを映し 始めた。世界の投資家の悲観度を映すシカゴ・オプション取引所(C BOE)のボラティリティ指数(VIX指数)は、欧州財政問題の再 燃を背景に、11月30日に2カ月ぶり高水準まで上げたが、12月に入 り下落し、9日には17.25と4月以来の低水準を記録した。

個別企業の信用リスクを売買するCDS(クレジット・デフォル ト・スワップ)の保証料率を見ても、日本企業の主要50銘柄で構成す るマークイットiTraxx日本指数(5年物)は、ギリシャ・ショ ック時の5月に177まで上げた後に反落し、11月22日に92.6 と直近 の最低水準を付けた。欧州の財政問題などが懸念され、足元ではやや 上昇しているが、100前後と小幅な上げにとどまっている。

みずほ証券の松本成一郎クレジットアナリストは、来期の企業業 績はこれまでのコスト削減の累積効果に加え、トップラインが増加す ることで、2けた増益の見込みとなっている点に言及。「企業収益の増 加は債務償還能力の改善につながり、クレジット市場にとってもポジ ティブに評価できる」と言う。

企業の増益トレンド、低PBR

野村証券金融経済研究所では、金融を除く日本の主要上場369社 の今期(11年3月期)の経常利益を前期比56.2%増と予想。来期の経 常利益については今期予想比13.3%増と予想している。

アイエヌジーの王子田氏は、「企業収益力が戻ってきているにもか かわらず、PBR1倍割れ銘柄がざらにある現状は修正される」との 見方。TOPIXのPBRは16日時点で1.08倍と、会社解散価値の 1倍をかろうじて上回る水準にある。

--取材協力:近藤雅岐、野原良明Editor:Shintaro Inkyo、Kenzo Taniai

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