わが社の朝礼が「ニイハオ」で始まる日-中国の対日投資が急増

急成長を背景に過去5年間で総額 1820億ドルに上る海外M&A(買収・合併)を仕掛けてきた中国企業。 これまでその視野にあまり入っていなかった日本企業の存在感が急速 に増している。日本株式のバリュエーション低下で日本企業のブラン ドや技術の魅力が一段と高まってきたからだ。

中国株式市場の時価総額は2005年以来約7倍の3兆8000億ドル に膨れ上がり、日本市場との格差をほぼ埋めつつある一方で、日経平 均株価は経済政策への信認低下などを映してここ5年間で30%以上 落ち込んでおり、対照的な推移となっている。

ドイツ証券の投資銀行アドバイザリー共同本部長のマークス・シ ュタイン氏は「中国企業は日本企業の持つテクノロジーを手に入れよ うと買収対象として旺盛な意欲を示している」と指摘。日本企業への 関心は今後も高まっていくとの見通しを示した。

ブルームバーグの集計データによると、中国と香港の企業が年初 以降発表した日本での買収は44件、総額は4億3770万ドル(約367 億円)に上る。2009年の33件(総額1億2180万ドル)から増加する とともに、件数ベースでは01年以降で最多となった。

時価総額で国内第2位の銀行持ち株会社三井住友フィナンシャル グループは上海に企業の合併・買収(M&A)アドバイザリー部門を 開設する予定で、日中間のM&A増加のチャンスを商機と判断してい る。

「Xデー」

「近い将来、朝礼をおはようございますではなく、『ニイハオ』で 始めなくてはならない日が来るだろう」。こう確信するのは東レ・ディ プロモードの織茂健司チーフパタンナー。「日本企業は今後、中国企業 にどんどん買収されるだろう」と語る同氏は、昨年6月に上海に出張 した直後から、来るべき「Xデー」に備えてラジオ中国語会話の学習 を開始した。

中国の繊維大手、山東如意科技集団は7月、創業108年の日本の 老舗アパレルメーカー、レナウンに対し40億円を出資し、約42%の 議決権を取得した。レナウン株は出資報道直前の5月21日までの2年 間に約60%下落していた。フィルムメーカーの東山フイルムと家電量 販店チェーンのラオックスも今年、中国や香港の企業による資産買収 の対象になった。中国の蘇寧電器は8月16日、ラオックスへの出資比 率を引き上げる計画を発表した。

アパレル・食品

日興コーディアル証券の企業情報共同本部長、大和田正也氏は、 中国企業が興味を持っているのは日本企業の「ブランド力」だと指摘、 そのため「来年は中国資本による日本企業買収は件数でも金額総数で も増加するだろう」と予測する。同氏によれば、「日本のアパレルメー カーのほか、食品メーカーがターゲットになる」可能性がある。日興 は山東のレナウン出資案件でレナウン側のアドバイザーを務めた。

ここにきて先行きの障害となりそうなのが、9月の尖閣諸島沖の 中国漁船衝突事件などで緊張が高まっている日中間の外交関係。日本 政府観光局(JNTO)によれば、これが原因で、それまで毎月過去 最高を更新していた中国からの訪日客数は、10月には一転して9カ月 ぶりに前年同月比で減少(1.8%)となった。中国内で反日デモも活発 化している。

もともと日本は中国の企業や投資家にとって最優先の標的ではな い。ブルームバーグ・データによれば、中国の企業や投資家が今年発 表した海外の買収は総額823億ドルに上り、前年比37%増加している。 ドイツ証券のシュタイン氏は「中国企業が日本企業を買収、または出 資するという活動は今後増えるだろうが、それがかなり大規模になる にはまだかなり時間がかかるだろう」と予測した。

ただ、日興コーディアルの大和田氏によると、日本企業経営者の 間では中国の傘下に入ることへの「心理的抵抗感」は弱まりつつある。 国内市場で成長の絵を描ききれなくなった経営者は、中国マーケット の成長性を認め、一定の信頼感を醸成してきたという。「中国企業を買 収して中国に出ていくことは不可能でも、買われて進出することはで きる」と話す。

トランプゲーム

「日本企業のM&Aの入り口の手伝いをするのが我々のミッショ ン」だと語るのはSMBC日興投資コンサルティング(上海)有限公 司の董事長、岸原豊明氏。上海に赴任した岸原氏は現在、1月4日の 開業に向け準備の真っ最中だ。

東レの織茂氏は来月から中国語会話のプライベートレッスンも始 める予定だ。上海の工場を視察するたびに、ミシンなどの設備が最新 のものになり、企業間の人材の引き抜き合戦が激しさを増す様子に、 中国企業の今後の台頭を予感している。

「その日が来たら、ただの兵隊ではなく、コミュニケーションス キルを磨いてマネジメントに参画したい」と織茂氏は意気込む。外交 というほぼオールマイティーのジョーカーが中国企業の対日M&Aの 動きを阻むのか、「メイド・イン・ジャパン」の技術・ブランド力とい う切り札が勝るのか-。日本企業を対象にしたトランプゲームの行方 が織茂氏の人生だけでなく、日本経済の将来を左右するかもしれない。

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