【コラム】欧州には出来の悪いトレーダーだけが残される-M・リン

フェラーリの新車にもう一度、憧 れのまなざしを向け、メイフェア(ロンドンの高級住宅街)のタウン ハウスか南仏プロバンスのシャトーのパンフレットをもう一回眺めよ う。欧州のバンカーはこのボーナスシーズンを楽しんだ方がいい。最 後になるかもしれないのだから。

欧州銀行監督者委員会(CEBS)のボーナス規制策が先週、決 定された。バンカーが受け取る現金は制限され、ボーナスのかなりの 部分が株式で支払われることになる。後で大損が出ればボーナスの返 還も求められる。

金融業界で働くことが手っ取り早く楽に金持ちになる道だった時 代は、ついに終わるのかもしれない。

問題は、このためにバークレイズやドイツ銀行などの欧州大手銀 行が傷付く恐れがあることだ。CEBSの規則は世界の他の地域で採 用されそうなどの規則よりもはるかに厳しい。

CEBSは、業務内容が昔と同じではない銀行を細かく規制する ことよりも、むしろシステム全体を改革すべきだった。

ボーナス文化の幾分の是正が必要なことには誰も異論はない。金 融業界の報酬は市民に対する陰謀であり、変えなければならないもの になっていた。

トレーダーらは他人の金で大きな賭けをする。勝てば大金が懐に 入るし、負ければ別の職場でまた賭けをするだけだ。一部の業界リー ダーでさえ、これはあまりにも不公平だと気付いた。

リスクは非対称

米モルガン・スタンレーのジェームズ・ゴーマン最高経営責任者 (CEO)は先月の業界会議で、「大きな取引をしてうまくいけば利益 はいただいてしまうし、うまくいかなくても解雇されるだけで弁済を 求められるわけではない」とし、「従って、リスクは対称でない。はか りの一方がゼロでもう一方がプラスだ。これではつり合わない」と語 った。

これが自然に変わることはない。信用危機後も銀行業界がやり方 を変えたという証拠はほとんど見られない。米国で行われたある調査 は事態がむしろ悪化していることを示した。米機関投資家評議会(C II)が委託した調査で、バンカーの報酬と長期的業績との関連は今 までよりさらに弱くなっていることが分かった。

現在すべての大手銀を支えている納税者は、そろそろ愛想を尽か そうとしている。何かが変わらなければならない。

CEBSの案がこのシステムを変えるためのかなり良い試みであ ることは認めよう。新規則ではボーナスのうち即時現金で受け取れる のは約25%だけだ。残りは最低3年間、支払いが繰り延べられるか株 式で保有しなければならない。

うまく機能しない

報酬の中の固定給部分とボーナス部分の比率も規定されるし、後 に過度のリスクテークが問題を引き起こしたと判明すれば上級管理職 はボーナス返還を求められる。欧州連合(EU)加盟各国の規制当局 はこの新規則の実践を迫られる。

これは状況を変えるだろう。銀行システム内の無謀で危険な取引 の多くは、年末の巨額現金賞与を理由に行われてきた。ボーナスが株 式で支給されるようになれば、バンカーは長期的な展望をもっと気に かけるようになり、一件の大きな賭けによって将来を損なうリスクを 冒そうとはしなくなるだろう。

しかし、2つの理由からこの規則はうまく機能しない。第一に、 欧州の銀行が世界の他の地域の銀行と競争するのが難しくなる。アジ アと米国の銀行には欧州と同じ規制が課されないので、最も優秀なト レーダーが欧州から流出する公算が大きい。欧州には出来の悪いトレ ーダーしか残らなくなる。これがEUの望んでいることではあるまい。

改善すべきは

第二に、細かい規制というのは順守させるのが難しい。幹部にボ ーナスを返還させるとして、幹部が取ったリスクが銀行の日常的な取 引と外れた過剰なものだったとどうやって正確に証明できるのか。現 実の世界では、得をするのは弁護士だけで、取り戻せるボーナスの金 額はわずかだろう。

規制当局は銀行の報酬という一点をいじくり回すのではなく、銀 行システムの構造を改善すべきだった。

ボーナス問題の唯一の解決法は、銀行をリテール(小口金融)銀 行と投資銀行に分割し、投資銀行の方はパートナーシップ(共同出資 会社)として運営させることだ。

リテール銀行は顧客から預金を受け入れ、決済システムを運営し、 担保を取って個人と企業に融資する。このような銀行は破たんしない よう、税金によって保護されてもよい。その代わり、銀行は安全に経 営される。

自分の金

投資銀行は自らの資金や投資家から集めた資金を、好きなように 投資すればよい。そうすれば、トレーダーが賭けるのは投資銀行自身 と、進んで資金を出した人の金ということになる。破たんした場合、 ほかの誰にも迷惑はかからない。投資銀がどうなろうと誰にも迷惑は かからないので、規制する必要もない。

そうすれば、創意工夫に富んだ銀行業界が生まれると同時に、業 界が実体経済への脅威となることもない。

これ以外の方法はどれも、瑕疵(かし)のあるシステムを小手先 でいじることにすぎない。(マシュー・リン)

(リン氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。こ のコラムの内容は同氏自身の見解です)

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE