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【コラム】絶対絶命のヘッジファンド運用者が悟る現実とは-Jワイル

北朝鮮の韓国砲撃やアイルランド 危機など世界の資本市場を見舞ったショックだけでは不十分とでも言 うように、今度は米国のヘッジファンドに死球が飛んできた。しかも、 米当局は関係者の多くを刑務所に送り込みたいようだ。

米連邦捜査局(FBI)は今週、インサイダー取引捜査の一環と してヘッジファンド3社を家宅捜索した。SACキャピタル・アドバ イザーズなど複数のファンドも書類提出命令を受けた。

ヘッジファンド業界にとって今回の危機は何を意味するのだろう か。資産拡大を追求する自尊心の強い業界人なら、まずこう思ったに 違いない。「この情報をどう利用すれば、個人用ジェット機購入に十分 なもうけを得られるだろうか」と。答えはもちろん、インサイダー(内 部関係者)になることだ。

さらに興味深い質問が浮かんでくる。つまり、ヘッジファンドが 差し迫った自らの崩壊を材料に利益を上げることが可能かということ だ。彼らの役割を少しでも演じてみれば、それが可能であるどころか、 必ずそうなるように決まっていることが分かる。

あなたが運用資産数十億ドルのヘッジファンドの敏腕トレーダー だとしよう。FBI捜査官が家宅捜索のため会社に到着したばかりだ と知る。小心者ならプレッシャーに足がすくむだろうが、あなたには 究極の利点がある。つまり、この時点で起きていることに関する情報 を知っていることだ。勤務するファンド会社について最新ニュースを チェックし、何も報じられていなければ行動計画に着手することにな る。

クザミ局長に感謝

疑うことを知らない一般の人たちは間もなく、あなたの会社が家 宅捜索を受けているとのニュースで金融株が下落していることを知る。 あなたの強みはそれを事前に知っているということだ。唯一残る問題 は、ゴールドマン・サックスを空売りにするか、他の大手銀行も空売 りするかだ。さらに重要なのは、個人の勘定でポジションを取るか、 自ら運用するファンドの勘定にするかだ。

次はデュー・デリジェンスだ。素晴らしいことに、米証券取引委 員会(SEC)法執行局のロバート・クザミ局長が3月にこう発言し ていたのを思い出す。

「首謀者は足跡をほとんど残さない。詐欺を働くと同時に捜査へ の防衛策も講じていることが多い」と言明した局長は「簡単な例で言 うと、インサイダー情報で取引する人は一方で、不正に購入した銘柄 に関する調査リポートを大量に集め、捜査当局が来た時にそのファイ ルを見せるだろう」と指摘していた。

通知先

局長に感謝の手紙を送るかどうかを考えながら、あなたは印刷の ボタンを押す。大量に印刷された弱気のリポートは、数週間も前から 机の上にあったかのようにそこに置かれる準備が整う。そしてこう考 える。ただの考え過ぎだったのかもしれない。ことによると、この取 引は合法だ。

その時点であなたの関心は別のところに移る。FBIの捜索につ いてまず誰に知らせるかだ。自分の弁護士か配偶者、それとも恋人か。 いずれでもない。いわゆる専門家ネットワークだ。あなたが騒動に巻 き込まれる一因ではあったが、そこから助い出してくれることも間違 いなく可能だろう。

過去の経験から言うと、そこからの情報は常に2つの分類のどち らかに入る。価値がないか、あるいはまったくもって素晴らしいかだ。 あなたは後者であることを願う。クザミ局長を遠ざけることはできな くても、会社の電子メールを調べるFBI捜査官の悪いうわさをかき 集めることはできるかもしれない。そしてあなたは突然気付く。すべ ての電話が盗聴されているかもしれないと。やっぱり電話するのはや めておこう。

今度は根比べだ。法務関連で膨大な請求があるだろう。少なくと も雇い主に弁護士を選ばせるほどあなたは愚かではない。最終的に自 らの返り咲きは可能だと判断する。でも、勤務先の会社は終わりだ。

社会的地位

現実を突きつけられるのはこのころだ。あなたは、自身の社会的 地位が思っていたほどではなかったことに気付く。FBIはシティグ ループのように「大き過ぎてつぶせない銀行」を捜索するようなこと はしない。そもそも、もっともうかるだろうとヘッジファンドで働く ことを選んだのはあなた自身だ。そのファンドの破たんはあり得るし、 間もなくそれが現実となるのだろう。当局はあなたの転落の始まりな ど気にしない。

暇つぶしをしているあなたは、アイルランドのアライド・アイリ ッシュ銀行の株価を偶然見る。同行の救済は国全体を混乱に陥れたの に、株価はニューヨーク市場でまだ約1ドルで取引されている。「わた しは国を破滅させてはいない」とあなたは心の中で叫ぶが、同行の行 員より弱い立場にあるというのが現実だ。

ボーナス1000万ドル

思っていたほど自らが裕福でないことにも気付き始めるだろう。 昨年の税引き後のボーナスは1000万ドル(約8億4000万円)だった。 この混乱から抜け出すために必要な支払いに相当する不測の負債を記 載しておくべきだった。失敗を肥やしにしよう。

結局のところ、無駄ではなかったのだとあなたは思う。金融シス テム全体が崩壊していないのは幸運だ。少なくともうまくいっている 時には、可能な限りを手に入れた。ただ、それを全部しまっておける 安全な場所はどこかということが、依然として悩ましい。

答えが出るまで待つ必要がある。声が聞こえる。FBI捜査官だ。 あなたはパソコンのキーボードから手を離すよう指示される。

(ジョナサン・ワイル氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラム ニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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