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アイルランドが第2のギリシャに-欧州経済スーパースターの面影失う

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」11月22日号掲載)

【記者:Suzy Hansen】

11月18日(ブルームバーグ):10月のある日曜の朝、ダブリンの モリソン・ホテルで朝食を取るために座っていたサイモン・ケリー 氏は、しゃべりたくてうずうずしていた。同氏(38)と父のパディ・ ケリー氏(66)はかつて、アイルランドで積極的な不動産開発を手掛 けた。好況時にはゴルフリゾート購入やホテル建設のためにアング ロ・アイリッシュ銀行から約7億ユーロ(約800億円)の融資を受け た。

しかし、ケリー親子は8億ユーロの負債を抱えているとブルーム バーグ・ビジネスウィーク(11月22日号)は報じている。アングロ・ アイリッシュは国有化された。サイモン・ケリー氏はモリソン・ホテ ルについて、「一部を所有していたが、今は違う。国家資産管理機関 (NAMA)のものだ」と何気なく話す。

不良債権処理機関であるNAMAは2009年に政府が設立した。ア イルランドを支払い不能の瀬戸際に追い詰めている国内銀行システム の危機を食い止めるのが狙いだ。NAMAは現在、数百件に上るホテ ルやオフィス、リゾート向け融資を管理下に置く。開発業者の残りの 個人資産を没収することになるかどうかはまだ分からない。

NAMAはその透明性が低いことで有名だ。NAMAが講じた措 置は、銀行危機の沈静化に成功していない。アイルランドはこの1週 間、緊急支援の可能性を協議するために派遣される欧州連合(EU) および国際通貨基金(IMF)当局者の受け入れに備えた。支援をま だ要請してはいないものの、同国がそれに抵抗するわがままを近隣国 が許さないだろう。

レニハン財務相は自国の安定性を強く主張しながらも、EUやI MFと協力すると約束。17日には記者団に対し、「財政政策は欧州の パートナーの間で全幅の信頼を得ている」と述べる一方、「銀行に ついては、これまでの措置に追加支援が必要だ。今実際に資金を移動 させることではなく、さらに困難が発生した際に資金をどれだけ利用 可能かを示すことが求められるだろう」と付け加えた。

甘く見た救済コスト

アイルランド政府は過去2年間、損失の深刻さを甘く見ていた。 9月時点では銀行救済コストを最大500億ユーロと予想していたが、 NAMAは銀行融資について730億ユーロを負担せざるを得ないと見 積もっている。

この数字は、米国の銀行システム救済の規模と比べれば小さく感 じられるが、世界銀行の統計によれば、アイルランドの人口は440万 人前後にすぎない。これまでの救済コストは国内総生産(GDP) 1580億ユーロの実に3割に相当する。EU当局者によると、アイルラ ンド向けの緊急支援は総額1360億ドルに達する可能性があり、これは 5月にギリシャに供与された額にほぼ等しい。

米経済はサブプライム(信用力の低い個人向け)住宅ローンの無 謀な証券化によって転落し、ギリシャは財政の実態を隠したことで崩 れ落ちた。一方、銀行が節度のない巨額の融資を行ったアイルランド は、より単純な崩壊の道をたどった。アイルランド経済はマイナス成 長が続いており、同国の中央銀行総裁は財政状況について、 「他の国でまず見られないほど悪い」と語った。

利回り上昇

アイルランドの10年物国債利回りは11月中旬に約9%に上昇し た。これはギリシャ国債の11%に迫る水準だ。

1995年から2007年にかけてアイルランドへの批判はほとんど聞 かれなかった。この間、GDP伸び率は平均5-10%に達し、同国 を世界の主要経済国の地位にまで押し上げた。

うまくいき過ぎていたことが分かった今、象徴的な瞬間が思い出 される。アイルランドの不動産開発業者デレク・キンラン氏がロンド ンのサボイ・ホテルを買収したのもこの時期だ。

家計にのしかかる負債

アイルランド中銀の元エコノミスト、デービッド・マクウィリア ムズ氏によれば、1世帯当たりの銀行向け負債は平均13万2000ユー ロ。同国の経済社会研究所(ESRI)の推計によると、住宅価格は 06年のピークから36%下落し、失業率は好況時の4%から14%に上 昇している。

多くの国民が一生のうちに債務を返済できない見込みで、ほぼす べての商業用不動産の開発業者は経営が行き詰った。米紙ニューヨー ク・タイムズのコラムニスト、トーマス・フリードマン氏はかつて、 アイルランドを欧州で2番目に豊かな国と評したが、欧州で最大級の 財政赤字を抱える国になってしまった。

もっと厳しいことには、同国は今後の財政に関する自主性を失う 恐れがある。トリニティ・カレッジのブライアン・ルーシー准教授(金 融)は政府が危機の深刻さを見誤っていたと話す。

「アイルランドの銀行が国を不安定にし、その国がユーロ圏全体 を不安定な状態に陥れている」と指摘。「銀行は事業の存続を欧州中央 銀行(ECB)に完全に依存する状態にある」とした上で、EUとI MFによる救済の可能性については、「受け入れる以外に選択肢はない だろう」と述べている。

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