【コラム】FRB議長殿、「正気」のさたではありません-ギルバート

「正気」でないことを、物理学者 アインシュタインはこう定義する。異なる結果を予測して同じことを 何度も繰り返すこと。バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議 長を中心とする連邦公開市場委員会(FOMC)のメンバーたちは、 債券の世界を乱す「相場操作」を繰り返そうかと検討する際、アイン シュタインの言葉を心に留めておくべきだ。

いわゆる「量的緩和(QE)」は、まだ十分に新しい概念なので中 央銀行当局者はどんな意味にでも解釈できる。問題は、その成果を数 量的に測ることができないことだ。さらに、中銀による一段の債券購 入が必要だという認識そのものが、投資家を不安にするという問題も ある。

バーナンキ議長は15日の講演で、債券「購入の適切な量とペース」 を決めること、さらにこの政策について市場に「伝えること」が難し いと語った。さらに、「非伝統的政策措置」には代価と限界があり、そ のような政策を「採用するべきかどうか、採用する場合どの程度積極 的であるべきかを決める」際にはその点を考慮することが必要だと指 摘した。

これでは、外科医が患者に対して、手術でどんな大きさのメスを 使うか決めていないし手術の結果についても分からないと言っている ようではないか。あるいは建築家が今回採用した新種の資材の強度計 算や耐久性に自信がないと認めるようなものだ。

「危険な賭け」

ノムラ・インターナショナル(ロンドン)のストラテジスト、フ レッド・グッドウィン氏は「QEを理解している者は一人もいない」 と言う。「本当のところはどの程度のインフレ要因になるのか分からな い。QEという筋肉増強剤を使ってしまった人々はパーティーを続け たいだけで、誰の言うことも気にしない。ともかく、中銀が何を心配 しているかを気にするより、意図せざる結果のことを心配した方がい い」と話した。

量的緩和に対する懐疑派のホーニグ・カンザスシティー連銀総裁 は今週のスピーチでQEを「危険な賭け」と呼んだ。「4-5年後に次 の危機を招くリスクがある」と指摘した。債券ファンド大手、米パシ フィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)のモハメ ド・エラリアン最高経営責任者(CEO)はFRBの債券購入プログ ラムには「代価があり、意図せざる結果をもたらすだろう」と述べた。

FRBが「最後の貸し手」ならぬ「最初の買い手」になったこと で、国債市場は完全にゆがんでしまった。米紙ウォールストリート・ ジャーナルは27日、特に害もない記事で、FRBは2兆ドル(約162 兆円)規模のQE第1弾で使った「衝撃と畏怖」の戦術を取らず、第 2弾は「数千億ドル」に購入額をとどめるのではないかと指摘した。 それだけで10年物米国債の利回りは10ベーシスポイント(bp、1 bp=0.01%)上昇し5週間ぶり高水準の2.7%に達した。

政治の怠慢

バーナンキ議長と欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁、イン グランド銀行(英中銀)のキング総裁の3人は、それぞれの前任者の 誰よりも強大だ。政治が経済のかじ取りでこれほど中銀総裁を頼りに した時代はない。しかし、国の運命を、選挙で選ばれたのではない中 銀総裁に委ねる行為は、政治の怠慢のようにわたしには思えてならな い。

オズボーン英財務相は21日、財政赤字を2015年までに国内総生 産(GDP)の2%に引き下げる政策が景気回復を妨げる場合に当て にできる計画があるかと聞かれ、こう答えた。

「もちろん、イングランド銀には金融政策ツールを駆使する自由 がある」。責任をどこか別のところに転嫁する人ごとのような答えだ。

中銀総裁には学者が多い。そして、現実世界の問題を解決する学 者の能力は、せいぜい高く見積もっても限られていると言えるだろう。 バーナンキ議長を有名にし、「ヘリコプター・ベン」の異名を取らせた 2002年11月(当時はFRB理事)の講演での理論は、厳しい現実と いう壁にぶつかっている。

芸のない集団

元イングランド銀金融政策委員でブルームバーグ・ニュースのコ ラムを執筆するデービッド・ブランチフラワー氏はQEを、「この町で 唯一のショー」と評価する。中銀による債券購入というこのショーが なかったら、見通しは今わたしたちが抱いているよりも悪くなってい たかもしれない。確かに、患者を何度も集中治療室に担ぎこんで心臓 マッサージをしたことで、昏睡状態の患者が目を覚ましはしなくても、 死ぬことは食い止めたかもしれない。

逆に、世界の中銀が1つしか芸のない集団になってしまい、何の 新しいアイデアもなくただ景気の春の訪れを占いながら待っていると いう見方もできる。中銀当局者が原理原則を曲げることは、せっかく 勝ち取った独立性を脅かすばかりではなく、本物の回復をもたらすか もしれない構造改革という大変な仕事を政治家に怠らせることになる。 構造改革の代わりに、われわれは中銀による人工的な流動性の輸血に 頼っている。

世界経済の守護者たちはまだ、大き過ぎる借金問題への解決がさ らなる借り入れだと考えているようだ。しかし、今から5年前に、金 融システムに数兆ドルを注入することのインフレ高進効果について中 銀当局者に尋ねたらどんな答えが返ってきたか、想像してみよう。

ショーの結末

ノムラのグッドウィン氏は、米国のインフレ率が2015年までに 6%(現在は1.1%)まで急上昇することがあり得ないと考える根拠 はないと言う。2015年9月償還の米国債(表面利率1.25%)を、現 在の約1.3%の利回りで買って米政府に金を貸すのは、債券運用者と してあまり賢明な行動ではないかもしれない。

「意図せざる結果の法則」が働き始めたときの好ましからざる驚 きは、ほぼ必然的に予想や予測が不可能なものだ。このショーがひど い結末を迎えないと考えることは、わたしには難しい。(マーク・ギル バート)

(ギルバート氏は、ブルームバーグ・ニュースのロンドン支局長 でコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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