【コラム】ウォール街があけすけと語り始めた規制の抜け穴-Mルイス

単純な疑問がわいたのは数週間 前のことだ。自己勘定取引を禁止する米金融規制改革法(ドッド・フ ランク法)成立を少しでも遅らせようとあれだけロビー活動していた ウォール街(米金融業界)の投資銀行が今や、大した不満も漏らさず に自己勘定取引部門を解体しているのはなぜだろうと-。

しかもこの法律は、自己勘定取引禁止の実施方法決定までに約1 年3カ月の猶予期間を監督当局に与えている。それなのになぜウォー ル街は今、こうも簡単に屈しているのだろう。

ウォール街内部の人間から寄せられる多くの答えは、せんじ詰め ればこういうことになる。それは、金融機関に自己勘定取引をやめる 意図はないということだ。この取引に別の名称を与え、別の取引に見 せ掛けているだけだ。

例えば、JPモルガン・チェースの元行員は、自身が最近所属し ていた「最高投資オフィス」と呼ばれる部門がヘッジ活動部門として 紹介されていたものの、実際は自己勘定で大きな取引をしていたと指 摘している。同行にコメントを求めてみたが、返答はなかった。

詳細な説明は、リーマン・ブラザーズ・ホールディングスで社債を 担当していた経歴を持つロバート・ウォスニッツァー氏がしてくれる。 現在はニューヨーク大学で自己勘定取引の歴史について論文を執筆中 の同氏によると、同氏がインタビューしたウォール街の債券トレーダ ーらはドッド・フランク法の抜け穴を目ざとく利用する意図について、 驚くほどあけすけに語ってくれたという。

「主体として」

この抜け穴は正直者にはなかなか見つけられないかもしれない。 ドッド・フランク法は245ページ目で「銀行は自己勘定取引に従事し てはならない」とした上で、565ページ目で同取引の定義について、 ウォール街の大銀行が取引の「『主体(principal)』として証券や商 品、デリバティブ(金融派生商品)、ヘッジファンド、プライベートエ クイティ(PE、未公開株)投資会社、他の金融商品・事業体に投資 する行為」と明記、米政府監査院(GAO)の「院長が判断する」と ある。

ウォスニッツァー氏によれば、この「主体として」という文言が 抜け穴利用へといざなう大きな鍵だ。この文言の意味するところはG AOが決定するわけだが、現在のところ、その手掛かりはまだない。

まあ、それは気にしなくていい。ウォール街自らが定義付けに忙 しいからだ。

ウォスニッツァー氏は「わたしが話を聞いたあるトレーダーは、 これから自己勘定取引でポジションを取りたければ、顧客がポジショ ンを手放したがっていたのでその顧客からポジションを買い取って流 動性を提供した、と主張すればいいと話していた」と語る。そして、 「顧客のため、あるいは顧客の代理だと主張するさまざまな方法が 多々ある」と続けた。

いたちごっこ

このあいまいさが、金融規制改革法が成立した一つの理由である ことは明らかだ。自己勘定取引禁止を一番はっきり打ち出した部分で さえ、ウォール街が適用を逃れる文言で表現されている。だが、この いたちごっこからは、単純かつ素朴なある疑問がわく。ウォール街の 大手金融機関はなぜそれほどまでに株主資本で大きな賭けをしたいの かという疑問だ。

つまり、自己勘定取引禁止には国民を銀行から保護するのと同様、 銀行を銀行自体から守るというのがポイントだ。やり手に見えた債券 トレーダーがこうした取引で数百万ドルどころか数十億ドルもの大金 を本当にばかげた賭けを通じて失ってしまう時代をわれわれは経験し たばかりだ。

しかし危機前でも、ウォール街大手のトレーダーだから金融市場 の賭けで特別な能力を備えていると信じるに足る理由など存在しなか った。投資に才能ある人物なら、その才能をモルガン・スタンレーや バンク・オブ・アメリカ(BOA)で無駄にするようなことは恐らく ないだろう。むしろ自分自身ないしヘッジファンドで能力を発揮する。 その方がリターンの分け前も増えるからだ。

継続させたい理由

これが金融危機前の実態だとしたら、危機後の現在は、なおさら そうだ。ウォール街大手の中でのトレーディングがますます不愉快か つ政治に左右されやすくなるからだ。それでも大手金融機関はどうや ら、トレーダーに取引を継続させたいようだ。どうしてだろう。

ウォスニッツァー氏も指摘する一つの答えは、自己勘定取引こそ がウォール街のビジネスの今の主体だからだ。1980年代半ばから、 ウォール街の投資銀行は単に顧客向けサービスを手掛けても利益が減 るだけとみて顧客ニーズを中心とした事業展開をやめ、大規模かつ難 解な賭けを中心に据え始めた。

巨額の利益(あるいは損失)や個人向け報酬、トレーダーの移籍 能力、もはや不透明化した複雑な取引容認といった現代のウォール街 の特徴は、一部のトレーダーが株主資本で大きく賭けるのを良しとす る大手金融機関の姿勢を受けてのものだ。この新たなウォール街の体 質は、80年代早くにソロモン・ブラザーズがパートナーシップから上 場企業へ組織変更した直後に始まり、他社にもすぐ広がっていった。

単純明快な解釈

ウォスニッツァー氏は当時について、「金融に新しい文化が形作ら れた瞬間だった」と語るが、「この時から突然『わたしはこれだけのこ とをしたのだから、これだけの報酬をくれ。さもなければやめてやる』 という風に変わってしまった」と説明している。

GAOがドッド・フランク法の文言を解釈するのに単純明快な方 法が一つある。その方法に従えばウォール街を一撃で改革できるはず だ。大手銀のいかなるポジションも許さなければいい。簡単に言うと、 あなた方が投資家に販売している株式や債券を対象とする賭けはあな た方にはもう許されません、ということだ。

それでゴールドマン・サックス・グループがもはや社債のマーケ ットメーカーでなくなっても、それはそれでいいではないか。金融サ ービス提供のチャールズ・シュワブのように顧客に助言すればいいし、 シタデルのようにヘッジファンドとしてポジションを取ればいい。で も、シタデルは株主資本によらない、私募の投資パートナーシップだ。 自身の会社を吹き飛ばせば、自分の首が飛ぶことを覚悟しなければな らなくなる。

(マイケル・ルイス氏はブルームバーグ・ニュースのコラムニス トで、最新作の「The Big Short」はベストセラー。このコラムの 内容は同氏自身の見解です)

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