日銀は11年度マイナス回避も物価安定に至らず-ゼロ解除は展望不能

【記者:日高正裕】

10月25日(ブルームバーグ):日本銀行は28日公表する経済・物 価情勢の展望(展望リポート)で2012年度までの見通しを示す。注目 される11年度の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の前年 比は、包括緩和の効果を織り込んでマイナス見通しを回避する公算が 大きい。もっとも、同年夏のCPIの基準年改定によりマイナス転落 は必至で、実質ゼロ金利の解除時期は展望不能との声が出ている。

日銀は7月の中間評価で11年度の見通しをプラス0.1%に維持し たが、景気減速と円高の影響で有力日銀ウオッチャー15人全員がマイ ナス転落を予想している。ただ複数の日銀関係者によると、5日に決 定した包括的な金融緩和策の効果を強めに織り込むことでマイナス転 落を回避し、下方修正されてもゼロ%にとどまる見込み。マイナス転 落を予想している市場にとってはサプライズとなる可能性もある。

しかし、日銀が考える物価安定の中心値はCPI前年比1%。モ ルガン・スタンレーMUFG証券の佐藤健裕チーフエコノミストは12 年度の見通しも「1%に遠く及ばないだろう」とした上で、実質ゼロ 金利政策の解除時期は「展望不能なほど遠い将来」だと指摘する。

日銀は5日の金融政策決定会合で包括的な金融緩和政策を打ち出 し、政策金利を0-0.1%とするとともに、物価の安定が展望できる情 勢になるまで実質ゼロ金利政策を継続すると表明。国債、社債、指数 連動型上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J-REIT)など 金融資産を買い入れる5兆円規模の基金創設の検討も決定した。

日銀の論理

JPモルガン証券の菅野雅明調査部長は日銀が展望リポートで示 す見通しについて、7月時点で十分に織り込んでいなかった世界経済 の下振れと円高を背景に「7月時点の予測を経済成長・物価両面で下 方修正する可能性が高い」と指摘。12年度にかけての緩やかな景気回 復という見方は維持するものの、「デフレからの脱却は12年度に持ち 越される」とみる。こうした見方はほぼ市場のコンセンサスだ。

11年度のコアCPIマイナス転落予想が強まったのは、日銀が5 日の声明文で「わが国経済が物価安定の下での持続的成長経路に復す る時期は、後ずれする可能性が強まっている」と指摘したことも一因 だ。しかし、こうした情勢判断は5日の包括緩和を決定するに至った 現状認識であり、大胆な金融緩和策が決定された後の経済、物価見通 しはより強めに想定することができる、というのが日銀の論理だ。

複数の日銀関係者によると、包括緩和の成長率と物価の押し上げ 効果をこれまでの新型オペの拡充などよりも強めに織り込ませるほか、 原油相場が再び上昇傾向にあること、10月からのたばこ税率の引き上 げや高速道路無料化の遅れなど制度要因も物価の押し上げ要因に働く ことなどが、円高による物価の押し下げ効果を相殺するという。

政府のスタンスとの整合性も

11年度の物価見通しがマイナスに転じれば、日銀が昨年12月に 「ゼロ%以下のマイナスは許容しない」と宣言したことや、政府が11 年度のプラス転化を目標に掲げていることとの整合性を問われる可能 性もある。クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミストは日 銀の11年度コアCPI見通しを「ゼロ%」と予想している。

ただ、忘れてはならないのは、来夏に予定される5年に1度のC PIの基準年改定だ。日銀は06年4月の展望リポートで同年夏の基準 年改定の影響を織り込まず、「前年比上昇率が若干下方改訂される可能 性が高い」と注記するにとどめた。今回もそのやり方が踏襲されると みられるが、重要なのはあくまで実勢だ。前回の改定では、前年比0.5 ポイント程度と予想外に大幅な下方改定が行われた。

西村清彦副総裁は20日の講演で「前年比上昇率が若干下方改定さ れる可能性が高い」と指摘。さらに「後から振り返ってみると、消費 者物価指数の下落幅は、思っていたよりも大きかったというようなこ とが起こる可能性は考慮しておく必要がある」と述べた。

基準改定後はゼロないしマイナス

日銀が仮に11年度を小幅プラスないしゼロ%、12年度をゼロ% 台半ばという市場予想より高めの見通しを出したとしても、基準年改 定後に示される真の実力はもっと低かった、ということが起こり得る わけだ。BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「CP Iの2010年基準を考慮すると、実勢としてはゼロインフレ、あるいは 小幅な物価下落が見込まれていることになる」と指摘する。

日銀の「中長期的な物価安定の理解」はCPI前年比で2%以下 のプラスで、委員の大勢は1%程度を中心と考えている。HSBC証 券の白石誠司チーフエコノミストは、安定的にCPI前年比の1%を 展望できるような情勢が実質ゼロ金利解除の条件だとすると、その時 期は「展望不能に近い」としている。 ============================================================ ◎見通しは次の通り(対前年度比、%。は見通しの中央値)

                   【エコノミストの大勢見通し】
                   実質GDP           コアCPI
【2010年度】     +1.8~+2.5          -1.1~-0.5
                                  
7月時点の見通し  +2.5~+2.7           -0.5~-0.2
                                   
【2011年度】     +0.8~+1.6           -0.6~-0.1
                                  
7月時点の見通し  +1.8~+2.1            0.0~+0.2
                                   
【2012年度】     +1.4~+2.0           -0.4~+0.3
                                  
                   【エコノミストの全員の見通し】
                   実質GDP           コアCPI
【2010年度】     +1.6~+2.5          -1.6~-0.4
7月時点の見通し  +2.2~+2.7          -0.5~-0.2
【2011年度】     +0.7~+1.6          -1.0~-0.1
7月時点の見通し  +1.8~+2.1          -0.1~+0.3
【2012年度】     +0.5~+2.2          -0.8~+0.5

(注1)見通しはエコノミスト自身の予想、7月時点の見通しは日銀 (注2)「大勢見通し」は見通しから上下1個ずつ除いたもの ============================================================= ◎利下げ予想時期は次の通り(敬称略)

【2011年1-3月】東海東京証券の佐野一彦チーフストラテジスト、 クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミスト ============================================================= 利上げ予想時期は次の通り(敬称略)

【2012年1-3月】クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミ スト(0.00-0.05%から0.10%へ)

【2012年4-6月】日興コーディアル証券の岩下真理チーフマーケッ トエコノミスト、信州大学真壁昭夫教授

【2012年7-9月】大和総研の田谷禎三顧問

【2012年10-12月】みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノ ミスト、モルガン・スタンレーMUFG証券の佐藤健裕チーフエコノ ミスト、東海東京証券の佐野一彦チーフストラテジスト、野村証券松 沢中チーフストラテジスト

【2013年以降】三菱UFJモルガン・スタンレー証券の石井純チーフ 債券ストラテジスト、JPモルガン証券の菅野雅明調査部長、第一生 命経済研究所の熊野英生主席エコノミスト、BNPパリバ証券の河野 龍太郎チーフエコノミスト、HSBC証券の白石誠司チーフエコノミ スト、シティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミスト、バークレ イズ・キャピタル証券の森田長太郎チーフストラテジスト ============================================================= 無担保コール翌日物金利の予想は以下の通り(敬称略50音順)

                        10   11   11   11   11   12   12   12
                      12末 3末 6末 9末 12末 3末 6末 9末
-------------------------------------------------------------
調査機関                15   15   15   15   15   15   15   15
 中央値                0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10
 最高                  0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.00 0.30 0.30
 最低                  0.10 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00
-------------------------------------------------------------
三菱UFJ・MS 石井      0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10
日興コーディアル岩下        0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.30 0.30
みずほ証 上野          0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10
JPモルガン証 菅野         0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10
第一生命経研 熊野      0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10
BNPパリバ証 河野     0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10
モルガン・スタンレーMUFG 佐藤  0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10
東海東京証券 佐野   0.10 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00
HSBC証 白石        0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10
クレディS証 白川      0.10 0.05 0.05 0.05 0.05 0.10 0.10 0.10
大和総研 田谷          0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.25
信州大 真壁            0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.20 0.30
野村証 松沢            0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10
シティG証 村嶋        0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10
バークレイズC証 森田      0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10

アンケート回答期限は21日午前8時。「日銀サーベイ」金利予想、 経済・物価情勢、金融政策の展望コメントを25日朝に送信しています。

--共同取材:Min Bui、Terresa Barraclough Editor:Hitoshi Ozawa, Norihiko Kosaka

参考画面: 記事に関する記者への問い合わせ先: 東京 日高正裕 Masahiro Hidaka +81-3-3279-2894 mhidaka@bloomberg.net 記事に関するエディターへの問い合わせ先: 東京 大久保義人 Yoshito Okubo +81-3-3201-3651 yokubo1@bloomberg.net 東京 Chris Anstey +81-3-3201-7553 canstey@bloomberg.net

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