日銀の利下げ観測が浮上-新型オペ拡充は効果薄く「滑稽」との声も

【記者:日高正裕】

10月1日(ブルームバーグ):日本銀行が4、5の両日開く金融政 策決定会合で新型オペを拡充するとの見方が強まっている。有力日銀 ウオッチャーの間では、金利下げ余地が少ない短期の資金供給を増や しても効果は限定的で、滑稽(こっけい)との声すら出ている。代わ りに浮上しているのが利下げ予想で、17人中2人が10月中の実施を 予想。金利下振れ容認を含めると半数近くが選択肢として挙げた。

有力日銀ウオッチャーの大半が10月1回目となる今会合で新型 オペ(固定金利方式の共通担保オペ)の拡充が行われると予想した。 もっとも、その根拠は一部新聞と、それに追随した新聞、通信の報道 によるもの。大和総研の田谷禎三顧問は「最近の一部報道の観測通り なら、とりあえずは固定金利オペのさらなる拡充によって、市場には 介入の非不胎化を連想させることが考えられる」と語る。

為替市場などでは日銀が介入資金を市場に放置する「介入の非不 胎化」を行っているとの見方が根強い。新型オペ拡充とともに短期国 債買い入れ増額を打ち出せば「非不胎化のポーズをさらに強化できる」 と、みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストはみる。

景気は踊り場に入ったとの見方が強まっている。29日発表の日銀 企業短期経済観測調査(短観)は、大企業・製造業の業況判断指数(D I)がプラス8と前回調査から7ポイント改善したものの、海外経済 の減速懸念や円高の影響で先行きの見通しはマイナス1と、リーマ ン・ブラザーズ破たん後の2008年12月調査以来の悪化に転じた。

FOMCは追加緩和へ

30日発表された8月の鉱工業生産指数は前月比0.3%低下と、予 想に反して3カ月連続のマイナスとなった。モルガン・スタンレーM UFG証券の佐藤健裕チーフエコノミストは「短観で先行きの需要の 持続性に対する企業の慎重な見方が示されたほか、国内自動車販売の 急減から、鉱工業生産なども10-12月は比較的大幅な落ち込みを示す 可能性が高い」と指摘する。

米国では景気減速を受けて追加緩和観測がくすぶり続けており、 早ければ11月3日の連邦公開市場委員会(FOMC)で追加緩和策が 打ち出されるとの見方が強い。佐藤氏は「日銀が10月中に緩和を見送 り、米国が11月のFOMCで追加緩和を行った場合、為替市場はさら に円高に振れ、株価も一段と軟調となる公算が大きい」とみる。

こうした内外の経済環境に加え観測報道が相次いだこともあり、 今会合で新型オペ拡充が行われるとの見方が強まっている。シティグ ループ証券の村嶋帰一チーフエコノミストは「会合後の7カ国財務 相・中央銀行総裁会議(G7)で日本の介入が議題になるとみられ、 その前に追加緩和をした方が批判をかわしやすいだろう」と語る。

効果は限定的の声

ただ、その効果については懐疑的な声が非常に強い。JPモルガ ン証券の菅野雅明調査部長は「8月末に決定された固定金利オペの拡 充を期間延長・増額などさらに強化しても、金利低下効果はほとんど ないだろう」と指摘する。HSBC証券の白石誠司チーフエコノミス トは「既に3年債利回りまでほぼ翌日物金利水準に収れんしている状 況下での新型オペの拡張は、滑稽(こっけい)感を伴う」と語る。

そもそも、8月30日の臨時会合で新型オペを拡充した際、白川方 明総裁は「景気の下振れリスクに対応して前倒しに追加の緩和を行っ た」と説明した。東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは「8月 30日の追加緩和は、足元の経済指標は悪化していないものの、『保険』 として決定された。短観の先行きの業況判断DIは悪化したものの、 それはその『保険』で想定した範囲内と思われる」という。

また、臨時会合では期間6カ月の新型オペ拡充が表明されたが、 目標とする10兆円に達するのは半年後だ。加藤氏は「スケジュール的 にまだ1回しか資金供給オペは実施されておらず、その効果を議論す ることはまだできない。筋論であれば、10月1回目の会合では追加緩 和策を見送り、2回目の会合でインフレ率の見通しを若干引き下げる 際に追加対策を検討するスタンスを日銀はとるだろう」と語る。

政治圧力には耐えられず

もっとも、「日銀は政治的圧力に耐えられず、10月1回目の会合 で6カ月物新型オペの10兆円追加や、国庫短期証券買い入れオペの積 極活用などを決める可能性がある」というのが加藤氏の見立てだ。

そうした中、白石氏は今会合でゼロ金利復帰を予想。野村証券の 松沢中チーフストラテジストも新型オペ拡充とともに政策金利を「当 面下回ることを許容する文言を声明文に盛り込む」とみる。また、佐 藤氏が従来通り10-12月の「0-0.1%」のレンジ移行を見込んでい るほか、田谷氏も10月2回目の28日の会合で「政策金利の微調整、 たとえば0.05%への引き下げも考えられる」と指摘する。

さらに来年1-3月まで視野に入れると、クレディ・スイス証券 の白川浩道チーフエコノミストが「0-0.1%」レンジへの移行を、東 海東京証券の佐野一彦チーフストラテジストも「ゼロ金利政策を含め た政策金利の引き下げ」を予想。バークレイズ・キャピタル証券の森 田長太郎チーフストラテジストは「メーンシナリオではないが、11年 に0.05%下げ」もあり得ると指摘するなど、利下げ予想が増えている。

ゼロ金利復帰の最大のハードル

ただ、白川総裁は先月9日の参院財政金融委員会で「金利が決定 的にゼロになると誰も市場に資金を出さなくなる。そうすると銀行間 の資金取引ができなくなり、銀行がいざというときに資金を調達する その場自体が機能しなくなってくる。かえって経済全体の安定性が阻 害される。これが一番大きな副作用だ」と言明。引き続きゼロ金利に は否定的で、ゼロ金利復帰には最大のハードルとなっている。

先月24日にはその白川総裁が辞任するとのうわさが流れ、一時円 売り材料になった。佐藤氏は「前回の新型オペ拡充が市場の期待未満 となり、かえって円高・株安を招いたとの批判を踏まえ、新たな緩和 措置はより実質的な緩和効果を狙ったものとなるだろう」としている。

============================================================= ◎利下げ予想時期は次の通り(敬称略)

【2010年10-12月】モルガン・スタンレーMUFG証券の佐藤健裕 チーフエコノミスト、HSBC証券の白石誠司チーフエコノミスト、 大和総研の田谷禎三顧問

【2011年1-3月】東海東京証券の佐野一彦チーフストラテジスト、 クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミスト ============================================================= 利上げ予想時期は次の通り(敬称略)

【2012年1-3月】信州大学真壁昭夫教授

【2012年4-6月】日興コーディアル証券の岩下真理チーフマーケッ トエコノミスト、大和総研の田谷禎三顧問

【2012年7-9月】みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミ スト、三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所の嶋中雄 二所長

【2012年10-12月】東短リサーチの加藤出チーフエコノミスト、東 海東京証券の佐野一彦チーフストラテジスト、モルガン・スタンレー MUFG証券の佐藤健裕チーフエコノミスト、野村証券松沢中チーフ ストラテジスト、シティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミスト

【2013年以降】三菱UFJモルガン・スタンレー証券の石井純チーフ 債券ストラテジスト、JPモルガン証券の菅野雅明調査部長、第一生 命経済研究所の熊野英生主席エコノミスト、BNPパリバ証券の河野 龍太郎チーフエコノミスト、HSBC証券の白石誠司チーフエコノミ スト、クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミスト、バーク レイズ・キャピタル証券の森田長太郎チーフストラテジスト ============================================================= 無担保コール翌日物金利の予想は以下の通り(敬称略50音順)*T

10 11 11 11 11 12 12 12

12末 3末 6末 9末 12末 3末 6末 9末 ------------------------------------------------------------- 調査機関 17 17 17 17 17 17 17 17

中央値 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10

最高 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.30 0.50 0.50

最低 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 ------------------------------------------------------------- 三菱UFJ・MS 石井   0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 日興コーディアル岩下 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.30 0.30 みずほ証 上野 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.30 東短リサーチ 加藤 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 JPモルガン証 菅野 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 第一生命経研 熊野 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 BNPパリバ証 河野 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 モルガン・スタンレーMUFG 佐藤 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 東海東京証券 佐野   0.10 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 三菱UFJ・MS景気研 嶋中 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.35 HSBC証 白石 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 0.00 クレディS証 白川 0.10 0.00 0.00 0.00 0.10 0.10 0.10 0.10 大和総研 田谷 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.05 0.25 0.25 信州大 真壁 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.30 0.50 0.50 野村証 松沢 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 シティG証 村嶋 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 バークレイズC証 森田 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 0.10 *T

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