野村が初の訪日観光投信を運用、厳しい船出も国策に期待

日本の「観光立国」構想を株式投 資に生かそうと、運用対象を外国人旅行客の消費で恩恵を受ける国内 企業に絞った初の投資信託が運用を始めた。尖閣諸島沖の船舶衝突事 件で日中関係が緊迫するなど、新ファンドの船出に逆風も吹くが、相 場格言に「国策に売りなし」とあり、投資家の注目度と期待値は高い。

野村アセットマネジメントは30日、単位型株式投信「訪日消費関 連日本株投資1009(愛称:熱烈歓迎)」を新規設定、運用を開始し た。日本に観光で訪れる中国を中心とした旅行客が購入する製品、サ ービスを提供する銘柄に投資し、信託期間は約5年、分配金は年1回 支払う方針。基準価額が1万5000円以上となれば、繰り上げ償還する。

野村アセットの辻聡シニア・マーケティング・エグゼクティブは、 「『訪日観光』は斬新な投資テーマで、一般投資家にも分かりやすい。 政府が観光立国を目指すとうたっており、成長ストーリーも描ける」 と指摘した。東証1部の平均PBR(株価純資産倍率)が1倍近辺ま で落ち込んだ日本株に、「あらためて目を向けてもらいたい」という。

販売は野村証券が行い、30日夕に野村アセットが公表した設定金 額は43億7697万円と、募集上限(800億円)に大きく届かなかった。 野村ホールディングスグループ広報部の田口香織課長代理は「購入し た投資家は、日本株が割安水準との見方や、中長期で見たテーマの成 長性に期待していた」と話すが、円高懸念などで日本株の上値が重い 中、先行き不透明感から購入に二の足を踏む個人も多かったようだ。

22-23日に奈良市で開催されたアジア太平洋経済協力会議(AP EC)の観光担当相会合は、共同声明の「奈良宣言」で、観光は域内 経済成長のエンジンになると強調した。日本政府は2003年4月から、 日本の観光魅力の発信などを行う「ビジット・ジャパン・キャンペー ン」を展開。政府がことし6月に閣議決定した「新成長戦略」でも、 柱の一つに「観光立国」を掲げた。

戦略の具体化として、7月から中国人観光客のビザ発給要件を緩 和、その後の訪日中国人の急増につながっている。日本政府観光局(J NTO)が今月27日に公表した8月の訪日外国人数(すべての国・地 域からの総数)は前年同月比18%増の80万3000人と、同月としては 過去最高を記録。中国からの訪日数は同58%増の17万1800人だった。 10 月には羽田空港に新国際線旅客ターミナルがオープン、国際定期便 の運航も始まるなど観光立国へのインフラ整備も着々と進む。

温泉へようこそ、中国人のブランド志向

政府の姿勢を受け、旅行業界は訪日需要の取り込みへ動きを加速 させた。格安航空券販売で首位のエイチ・アイ・エスは6月に英語、 中国語、韓国語のウェブサイトを新設、アジア圏を中心とした現地発 の海外旅行販売などに注力する。KNT(近畿日本ツーリスト)は今 月8日、訪日外国人旅行者に日本の温泉旅館を案内するポータルサイ ト「日式温泉旅館」のサービスを始めた。ブランド戦略室の阿部章子 氏によると、「国内需要だけに頼っていては限界があり、アジアなどか ら訪日旅行者の需要をいかに取り込むかが課題」という。

小売業界でも、訪日観光客の存在感が高まっている。三越伊勢丹 ホールディングスでは免税販売が伸び、中国人観光客の間で「人気な のは分かりやすいブランドなどのハンカチ、雑貨、衣料品など。化粧 品では、資生堂など日本ブランドが売れている」と広報担当の清水勝 樹氏は説明。これらの商品は中国でも買えるが、「日本で買うのが人気 だと聞いている」と話す。

SBIチャイナブランディング(東京都港区)などが3月に実施 した中国人旅行者へのアンケート調査によると、約5割が1度の訪日 で2万元(約28万円)以上を買い物で消費。場所は銀座(32%)、秋 葉原(25%)、浅草(18%)が多く、購入商品は電器・電子製品(53%)、 アパレル(44%)、日用品(43%)、化粧品(41%)の順だ。

「熱烈歓迎」を運用する野村アセットの東正和シニア・ファンド マネジャーによると、投資対象の母集団に化粧品や日用品、ファッシ ョン、電気製品、大衆薬、ホテル、キャラクターグッズなどから「120 銘柄強をピックアップ」した。仮候補の約50社で構成した参考ポート フォリオの上位10社は資生堂、オリエンタルランド、三越伊勢丹、パ ナソニック、J.フロントリテイリング、キヤノン、花王、高島屋、 シチズンホールディングス、参天製薬。業種配分比率上位は小売33%、 化学17%、電機11%、サービス7%、医薬品6.2%となっている。

対日強硬、最悪数万人減少も

順風満帆に見えた日本の観光振興の動きにも、足元は急速に向か い風が吹き始めた。日中双方が領有権を主張する尖閣諸島沖で海上保 安庁巡視船と中国漁船が衝突し、日本側が中国人船長を公務執行妨害 で逮捕・こう留したことをきっかけに、政治、経済両面で中国の対日 強硬姿勢が鮮明化。中国の大手健康食品メーカー「宝健日用品公司」 は、10 月に予定していた1万人規模の訪日団体旅行を中止した。

JNTO海外プロモーション部の平田真幸氏によると、中国から の観光旅行は「10月7日に終わる国慶節までの分は、キャンセルはあ まり出ていない」が、それ以降は中国での日本旅行の申し込みが大幅 に減少。「10月以降は最悪の場合、中国人観光客が数万人減少する可 能性がある」という。

アムンディジャパン運用本部の吉野晶雄チーフエコノミストは、 「中国当局が旅行業者に対し、日本への観光旅行販売の自粛を指示す る動きがあることには注意が必要。この措置が長引けば、『観光立国』 も危うくなる」と指摘。もっとも、日中の相互依存関係を考えれば、 「外交など政治面が一時的に冷え込んでも、人的交流を含め経済活動 にまで大きな悪影響が及ぶ事態に陥る可能性は低い」と見ている。

二国間関係の風向きに加え、2003年にはイラク戦争や新型肺炎S ARSの流行をきっかけに海外渡航が一時停滞、突発的な世界の情勢 変化にも観光は敏感だ。ただ、しんきんアセットマネジメント投信の 山下智巳主任ファンドマネジャーは、国内総生産(GDP)と出国者 数の連動性は高く、「日本は地理的にも、内需主導の高成長を続けるア ジアからの観光客取り込みに有利」と分析。国策としての側面も踏ま え、訪日消費関連は長期の有望な投資テーマで、「総じて株価水準が低 い今は、投資タイミングとして良い」と話している。