デービッド・サーナ氏の「History of Greed(仮訳:強欲の歴史)」は金融の後ろ暗い部分を描く。米映画 「ウォール街」のゴードン・ゲッコーのように、感受性の強い若者た ちを悪にあこがれさせるだろうか。

そんなことを考えるだけでも著者はぞっとするだろう。元ハイテ ク企業幹部で今は経営コンサルタントの同氏は、市場の有用性とその 悪用について、今も強い考えを持っている。

「資本主義とは盗んだりだましたり、弱者から取り上げたりする ことではない」と、この便利な「詐欺と悪徳商法図鑑」の著書は説く。 資本主義とは「個人が他人の生活を良くするような価値あるものをつ くり出すことによって自身の状況を改善することだ」という。

この教科書が著者の意図しない結果をもたらさないことを祈るば かりだ。オリバー・ストーン監督の「ウォール街」の第1作は、多く の経営大学院生たちをトレーダーやインベストメントバンカーの道に 進ませた。

サーナ氏の著書はその題に反して歴史書ではない。ミシシッピ会 社事件や南海泡沫事件など過去の有名な金融スキャンダルは簡潔にま とめられているにすぎない。著者が提供するのは年代記ではなく、さ まざまな形の詐欺の事例研究だ。

著者は裁判所資料や報道、自身がだまされた苦い経験などを基に、 市場というものの汚い裏通りへと読者を導いていく。幽霊会社を操っ たり、株価をつり上げてから売ったりという良心のかけらもない連中 が登場する。巨額詐欺で有名になったバーナード・マドフを目指すな ら、本書に描かれる強欲の姿は金融の大量破壊兵器を造るための正真 正銘の指南書となるだろう。

ピンクの豚

本書には語り尽くされた話も多く出てくるが、悪徳商法の多様さ にはやはり驚かされる。所得税の申告が間違っていたから還付金があ ると偽って巨額の金をだまし取る手口。あるいは、株を売り込む人間 と空売りする人間、デートレーダーと資金洗浄係を、まるで複雑なス イス製の時計にように正確に動かすたくらみ。

表紙の図柄は詐欺師の顔をしたピンクの豚だ。クライマックスは ねずみ講の話。ねずみ講の規模や期間は住宅バブルの時代に幾何学級 数的に大きくなった。その多くは自分たちの宗教グループのメンバー を標的とし、例えば正統派ユダヤ教徒らに見られる強い信頼感に乗じ るものだ。

ねずみ講はそれぞれに、市場よりも高いリターンを上げる秘密の 方法があると言って誘う。マドフ受刑囚もそうだった。

グリーンスパン氏

ねずみ講は、投資家が償還を求めることが少ない好況期に大繁殖 し、景気悪化で償還が新規投資を上回ると崩壊する。最近の金融危機 時もそうだった。もし、アラン・グリーンスパン氏が米連邦準備制度 理事会(FRB)議長だった間にインターネットバブルと住宅バブル に針を突き刺してつぶしていたら、どれほど大勢の投資家が救われて いたことだろう。

著者はベンチャーキャピタリスト(新興企業への投資家)を「バ ルチャーキャピタリスト(ハゲタカ投資家)」と呼び換える。空売り筋 のことはペテン師と同一視しがちだ。空売りは「合法的な投資手法」 であると認めるものの、空売りの先駆者であるイサック・ルメールの ことは良く書かない。

東インド会社の設立者の1人だったルメールは1609年に同社の 株を空売りしたことで有名だ。自身が保有している以上の株を売った ことから「ネーキッド(現物の裏付けがない)空売り」の創始者だと 著者は説明する。

株主価値の破壊

取締役たちが投資家をあざむいてきた現実も暴き出す。役員たち はその立場を利用して私利を満たし、株主に配当を支払わず、財務や 業績についての情報を隠す。今の言葉で言うところの、株主価値の破 壊だ。

紹介されている汚いやり口を試してみたいと読者が思わないよう に、著者は警告を付け加えている。本書の1つの章は丸々、金融犯罪 で有罪となった人々への刑罰に割かれている。

マドフ受刑囚の150年よりもはるかに長い845年の禁固刑もある。 この詐欺師ショーラム・ワイスの釈放の日付は2754年11月23日。こ れに対し「殺人の刑罰がたった10年の所もある」と著者は書いている。 (ジェームズ・プレスリー)

(プレスリー氏はブルームバーグ・ニュースの書評家です。この 書評 の内容は同氏自身の見解です)

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