【コラム】オバマ再選を確実にする皮肉な最強兵器-S・ジョンソン

オバマ米政権は経済政策で絶体絶 命だという見方が広がっている。

米国のリセッション(景気後退)は公には1年以上前に終息した とされるものの、失業率は依然高水準で一段と上昇する可能性すらあ る。2009年に実施した財政面からの景気刺激策への大方の評価は芳 しくなく、再びそうした努力を払おうという政治的関心は高くない。 中間選挙まで、政治家は責任ある財政を標ぼうすることだろう。

オバマ政権で経済政策を担当した当初のドリームチームの3人、 ローレンス・サマーズ氏とピーター・オルザグ氏、クリスティーナ・ ローマー氏は退任、もしくは近く政権を去る。これに加え、オバマ政 権は企業に優しくない政策を取るとの見方が広く浸透しており、雇用 や投資意欲をそいでいる。

こうした見方に欠けているのは、米国が経験したのはここ数十年 にわたって中規模クラスの新興市場経済でより多く見られたタイプの 深刻な信用危機だったという点だ。米国経済は迅速に回復し、雇用が 予想を上回るペースで戻ることが可能だ。しかしそれには条件がある。 ドルが下がることだ。

好むと好まざるとにかかわらず、多くの人が現在考えている以上 に、ドル大幅下落の可能性は高い。米経済を研究している人々の多く は08年後半の危機の深刻さに驚いたが、ロシアやメキシコ、アルゼ ンチン、韓国などを見てきた人にとってその性質は極めて明白だった。 米国の回復は、そうした国々がかつて経験したのと一部類似した性質 を帯びることになるだろう。

韓国のケース

米経済に奇跡のような成長をすぐに望むべきではないだろうが、 1997-98年に経済危機に見舞われた韓国が99年にほぼ11%成長と なったことを心に留めておきたい。ロシアも98年秋に、通貨や銀行 システムが事実上崩壊したものの、99年には6.4%成長、2000年に は10%の成長を達成している。

米国がこうした国々ほど迅速に回復できていない主な理由は、輸 出とドルだ。韓国やロシア、ほかの新興市場は深刻な危機に見舞われ た場合、通常、自国通貨の物価調整後での大幅下落を通じて切り抜け る。自国通貨の下落で、競争力は少なくとも一時的には飛躍的に向上 する。

これに対してドルは、ここにきて主要貿易相手国の通貨に対し最 近の高値からは若干下げてきてはいるものの、今回の世界的な金融危 機では「ヘイブン(安全な避難先)」として買われ、実際には上昇し ていた。

輸出主導型の成長

米国のような経済大国が輸出主導型の景気回復を目指すには時間 がかかる。07年と08年を例にとると、米国の国内総生産(GDP) に輸出が占める割合はそれぞれ12%と13%にすぎない。一方、両年 の輸入はそれぞれ対GDP比で17%、18%だった。

現在の経済でドルを押し下げ輸出を拡大させるという論理は、同 時に輸入品との競争にさらされている企業を支援することにもつなが る。以下のように3つの力が働くとみられる。

1つ目は、米政府と議会の対立につながり、当然のことながら投 資家の懸念を誘うということ。共和党は30年余りにわたり、財政面 での責任という点で芳しい評価を得ていない。一方の民主党も、財政 面からの刺激策が今回の金融危機への対応でどう役立ったか自らにも 説明ができないような状況だ。

米国は財政赤字という深刻な問題を抱えているが、予見し得る将 来に対処できる見通しは立っていない。米国政治は機能不全との見方 が、次第に国際投資家の間で広がりつつある。

量的緩和

2つ目は、失業率が高止まりし財政は薄氷を踏む状態であるなか、 連邦準備制度理事会(FRB)は引き続き長期金利の抑制を図ること になるということ。追加の量的緩和はドル安につながるだろう。金融 当局者がドル相場について頓着しないと語るにしても、量的緩和は他 のいかなる為替市場介入よりドル相場を動かす上で効果的だ。

3つ目は、新興市場経済はすでに再びブームの様相を呈しており、 米国が輸出できる高水準の物・サービスへの需要が高まっていくこと だ。新興市場経済は自国通貨高には抵抗する可能性がある。中国に倣 って、自国通貨を低位に抑制することで経常収支の黒字を維持するこ とを好む傾向にある。こうした動きが当面みられ、新興市場の国・地 域は一段と外貨準備を積み増すかもしれないが、米国の政策スタンス を考慮すれば、ドル以外の資産により多くの資金を分散することにな るのは間違いないだろう。

世界の貯蓄は一段と欧州に投資されることになる。それゆえ、欧 州諸国の財政健全性が鍵になる。アイルランドを中心に、先行きは平 たんではない。欧州全体はブームとはならないかもしれないが、恐ら くソブリン債のデフォルト(債務不履行)はないだろう。

ドルは従って、完全に変動為替相場制を採用しているすべての通 貨に対して下落する可能性が高い。これが現実となっても、米金融当 局が緩和政策を継続するから、同国の金利に与える影響は極めて小さ い。インフレ率は若干上昇するだろうが、高失業率を背景にその影響 は抑制され、最近の中央銀行が暗黙で選好する水準の2%にも恐らく 達しないだろう。

オバマ大統領は、政権発足のはるか以前に一部の金融マニアが引 き起こした災禍の結果である高失業の責任を負わされている。12年 の大統領選挙を控え、今回もまた政権の功績とは無関係に米国の雇用 が予想よりも急速に回復するとしたら、それは素敵な皮肉というもの だろう。(サイモン・ジョンソン)

(サイモン・ジョンソン氏は米マサチューセッツ工科大学=MI T=スローン・スクール・オブ・マネジメントの教授で、「13バンカ ーズ」の共同執筆者です。このコラムの内容は同氏自身の見解です)