円高で中小企業の不安が鮮明-追加緩和観測、短観で高まる

日本銀行が29日発表した企業短 期経済観測調査(短観)では、戦後最高値も視野に入る円高・ドル安が 長引く下で、大企業に比べ円高対応力が乏しい中小企業が先行き不安を 一段と強めている姿が鮮明となった。海外経済の減速懸念や政府・与党 からの圧力もあり、市場では日銀が追加的な金融緩和に踏み込むとの観 測が高まっている。

製造業の景況感を示す業況判断DIは大企業・中小企業とも、前回 6月調査から改善。3カ月後の見通しは、ほぼ同程度、悪化した。ただ 、先行きの悪化幅を業種別にみると、輸出の影響が大きい一般機械と電 気機械、造船・重機等、自動車のうち、業務用機械を除く5業種で、中 小企業が大企業より大きかった。生産用機械では7ポイント、造船・重 機等は10ポイントの差がついた。

中小の製造業は今後、国内・海外で需給が悪化に転じ、販売価格が 下落すると警戒。今年度下期は売上高の伸び率が上期の5分の1以下に 鈍化すると予想した。上期の経常利益見通しは前年同期比2.8倍とし たが、下期は同12.2%増に下方修正。生産・営業用設備と雇用は 2009年6月調査以来、初めて余剰方向に転じるとの見通しだ。日銀が 8月30日に追加緩和したにもかかわらず、中小企業の資金繰り判断は 1ポイントの改善にとどまり、「苦しい」が「楽」を10ポイント上回 った。

中小企業、円高の悪影響

三井住友銀行の宇野大介チーフストラテジストは、先行き景況感の 悪化で「円高が製造業のマインドを冷やす構図だ。特に、中小企業は円 高の悪影響を受けやすい」と指摘。輸出をけん引してきた中国との関係 悪化もあり、中小は「設備投資を手控え、手元資金を確保する動きが広 がりかねない。資金繰り判断などでも苦境が目立つ」と語った。

三菱東京UFJ銀行円貨資金証券部の関浩之次長は、短観は「日銀 の追加緩和期待を高める内容で、債券売りが手控えられる数字だ」と分 析した。

円・ドル相場は28日に一時、1ドル=83円69銭に上昇。政府に よる15日の円売り介入直前につけた1995年5月以来の高値82円88 銭まで約80銭に迫った。戦後最高値は同年4月の79円75銭。今回の 短観では、大企業・製造業の想定為替レートは今年度下期に89円44 銭。前回調査からの上昇は72銭にとどまり、足元の円高・ドル安とは 5円以上の差がある。

ダメージ非常に大きい

日本商工会議所の岡村正会頭は、共同通信が17日報じたインタビ ューで、円高が中小企業に及ぼす影響について「大企業なら海外に生産 を移すなどの対策ができるが、中小企業には難しい。ダメージは非常に 大きい」と述べた。今回の短観では調査対象企業の51.7%、5832社 が中小企業だった。

経済産業省が8月に輸出企業など102社と下請企業を含む中小企 業98社を対象に実施した緊急調査によると、円高・ドル安で製造業の 6割強が減益になると回答。85円程度の円高が続くと、中小企業の約 7割、下請企業は8割強が減益に陥ると答えた。下請企業からは「大手 メーカーからのコストダウン要請が川下に来ている」といった声が上が った。

しかも、輸出産業は足元で、円高による価格競争力の低下や収益の 目減りに加え、世界経済の減速を背景とした販売数量面での逆風にも直 面している。経済協力開発機構(OECD)の景気先行指数は7月に2 カ月連続で低下。OECDは13日、加盟33カ国の経済成長が7月に ピークに達した可能性があるとの見解を示した。

輸出環境、厳しく

日本の実質輸出指数は8月に前月比3.9%低下。2009年1月以来 の大幅なマイナスとなった。前年同月比では23.9%上昇したが、伸び 率は3月をピークに鈍化。商工中金の中小企業月次景況観測調査では、 製造業の景況指数が10月に5カ月ぶりの水準に低下するとの予想だ。

菅直人首相は27日の政府・民主党首脳会議で、円高対応とデフレ 克服に向けた2010年度補正予算案の編成を指示。5項目の柱には、中 小企業対策が含まれる。

桜井充財務副大臣は同日の会見で、日銀の金融緩和策を評価した上 で、なお「様々な手立て」があり得ると述べた。民主党が28日開いた 成長戦略・経済対策に関する会合では、日銀の金融政策は不十分との意 見が続出。座長の直嶋正行前経済産業相は冒頭の挨拶で「円高の進展も あり、足元の経済の実態は数字に比べると悪くなっている」と語った。

日銀の白川方明総裁は27日の講演で、円高は「輸出企業の収益や 採算を圧迫する」だけでなく、世界経済の不確実性が高まっている中で は「企業マインドや日本経済の先行きに大きな影響を与えかねない」と 指摘。2004年3月以来6年半ぶりに円売り介入を実施した政府ととも に「為替相場の動向とその影響について重大な関心を持って注視してい く」と強調した。

25日付の毎日新聞朝刊は、日銀が円高再燃への懸念などから、10 月に追加緩和する方向だと報じた。28日には日本経済新聞朝刊も、日 銀が10月4、5日の金融政策決定会合で資金供給の拡充などの追加緩 和を協議すると伝えた。

追加緩和観測を背景に、国債相場は上昇(金利は低下)。長期金利 の指標とされる新発10年物国債利回りは29日に一時、約1カ月ぶり に0.935%に低下した。金融政策見通しを映す2年債利回りは0.13% と、政策金利0.1%に迫る水準で推移している。

シティグループ証券の道家映二チーフJGBストラテジストは、日 銀は来週の決定会合で追加緩和を実施すると予想。さらに、米連邦準備 制度理事会(FRB)が11月にも金融緩和に踏み切ると見られるため、 年内に「あと1、2回」の追加緩和を余儀なくされると読んでいる。

--共同取材:池田祐美--Editors:Joji Mochida, Masaru Aoki, Hidenori Yamanaka

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