【コラム】SMAPとパンダで済まされぬ、日中の覇権争い-ペセック

外交問題が人気アイドルグル ープとパンダを巻き込むようになると、事態が本当に悪化しているこ とが実感される。

最初は海でのちょっとした接触事故だった。中国の漁船が日本の 海上保安庁の巡視船2隻と衝突した。それが外交危機に発展したこと は、恐ろしい将来を浮き彫りにした。アジアの2大経済国が信じられ ないほど些細な問題の数々で対立を深め、市場がその流れ弾に怯える という未来だ。

日本が9月7日に中国漁船の船長を拘束して以来、中国政府は閣 僚級以上の日中間往来を停止、同国内では船長の身柄引き渡しを求め るデモが頻発した。さらに、電子部品などに用いられるレアアース (希土類)の対日輸出を中国が禁止したとの報道まで飛び出した。

奇妙な話だが、最も反響を呼んだ行為はコンサートをめぐるもの だった。中国の主催者は上海で予定されていた人気グループSMAP のコンサートを延期した。SMAPの人気ぶりは、東京で彼らの姿を テレビや看板で見たり、曲をカラオケボックスで聞いたりせずに1時 間を過ごすことが難しいほどだ。日中関係の冷え込みは、SMAPコ ンサート延期のニュースを受け一挙に日本国民に感染した。

さらに異様なのはパンダ事件だ。中国側は日本が同国から借りて いたパンダが死んだ原因を究明するため、神戸の動物園に調査団を派 遣した。パンダ「興興(コウコウ)」の9日の麻酔中の死について、 漁船衝突事件と結びつける陰謀説を持ち出す者も現れた。いずれも、 13億の中国国民を怒らせることが目的だとみられる。

弱腰

日本は中国船の船長を処分保留のまま釈放し、菅直人首相は弱腰 と見なされた。中国に屈した同首相に日本国民の怒りが集中した。中 国はさらに、謝罪と補償まで求めた。日本は逆に海上保安庁の巡視船 の修理代支払いを中国に求め対抗した。この応酬はまだまだ続くだろ う。

衝突事件は中国が日本を抜きアジア一の経済大国となってから最 初の大きなもめ事だ。中国の過剰反応は外交の未熟さを露呈し、アジ アでの人気取りキャンペーンを台無しにした。アジアの盟主交代がス ムーズに行くと考えるのは夢物語に過ぎない。そして、これは投資家 にとって悪いニュースだ。

それにしても、両国にはちょっと深呼吸して落ち着いてもらいた い。アジアの域内関係ばかりでなく、世界経済の将来がかかっている のだ。

アジアのパワーバランスの変化は旧来の争いに新たな緊張を加え る。ありがたいことに、与党の民主党は政権の座について以来、靖国 神社参拝はしていない。戦争犯罪者を他の戦没者とともに祭る同神社 への参拝は、日本の戦時の残虐行為を肯定するものとしてアジア諸国 からの非難が根強い。

避けられない地政学的流れ

今回の日中対立の背景には、避けられない地政学的流れがある。 中国は主役の座を着々と日本から奪いつつあり、日本政府はこれを快 く思わない。しかし経済の追い風を受け、アジアでのリーダーという 魅力的な目標に近づきつつある中国は、後に引く気など全くない。

近隣諸国を米国の影響力が及ぶ範囲から引き寄せようとする中国 の取り組みは大きな打撃を被った。中国は対北朝鮮を意識した米・韓 国の合同軍事演習に異を唱えた。領土問題を調停しようとする地域的 取り組みも拒否した。いずれもアジアで快く受け入れられる事ではな い。

これでアジア太平洋経済協力会議(APEC)と東南アジア諸国 連合(ASEAN)の会合も普段以上に意味のないものになる。会合 は状況が良い時でも実質的成果はほとんどない。中国と日本が互いを 批判し貿易制裁を検討しているような状況では望みがない。

尖閣諸島

日中の今回の争いは台湾の北東沖322キロの地点にある尖閣諸 島の領有権をめぐるものということになるが、両国間の緊張関係には 過去の戦争と、第二次世界大戦中の侵略行為を取り繕いたがる日本の 傾向という2本の導火線がある。しかし両国関係は実際、アジアの将 来に結びついている。

対立がさらに悪化するわずかな可能性ですら、アジアの将来を台 無しにしかねない。中国は日本にとって最大の貿易相手国であり、日 本は中国の成長の10%を担う同国への直接投資の最大の源だ。アジ アの2大経済国がにらみ合っている状況は誰の利益にもならない。

中国による日本国債購入も懸念を呼びつつある。当初、日本は新 しい国債の買い手登場に大喜びだったのもつかの間、中国が日本経済 に対して金融による影響力を得ることに気付き、喜びは疑いに変わっ た。中国による日本国債買いは円上昇も招く。

中国が伸ばす触手は、ドルや円建ての債券にとどまらない。米国 がイラクとアフガニスタンで戦争を仕掛け景気が悪化するのを尻目に、 中国は21世紀を原油やガス、金属などの資源の確保に費やした。欧 米の大国が悠長に構えている間に、中国はたくみに燃料タンクをいっ ぱいにした。

ともかく、中国と日本は全体像を見失ってはならない。国力を誇 示しても中国の国民一人当たり国内総生産(GDP)は増大しない。 日本も、中国が自国の将来の鍵を握る成長の原動力となったことを忘 れてはいけない。最大の顧客の機嫌を損じて良い事は決してない。

アジア経済という岩だらけの海で、波はさらに荒くなった。SM APとパンダにだって証明できる荒れ具合だ。(ウィリアム・ペセッ ク)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラ ムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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