白川日銀総裁:日銀法を強く擁護、インフレ目標より先進的

日本銀行の白川方明総裁は26日午 後、神戸市で講演し、日銀法で定められた金融政策の目的が物価の安 定だけでなく経済の健全な発展としていることなど、同法の先見性を 訴えた。また、インフレ目標を採用していない日銀の政策運営は「よ り進化した枠組み」と述べるなど、与党内から日銀法改正やインフレ 目標導入を求める声が強まっていることを意識した内容だった。

足元の金融政策運営については「必要と判断される場合には適時 適切に行動する」とあらためて言明。講演後の質疑応答では「現在の 円高がどのような影響があるか非常に注意して見ている」と述べると もに、「海外発の下振れリスクをより注意して見ていく」と語った。

菅直人首相と民主党代表選を争った小沢一郎元幹事長は14日の 臨時党大会で、景気対策について「日銀法改正やインフレ目標も視野 にあらゆる手段を尽くす」と述べた。また、同党の「デフレから脱却 し景気回復を目指す議員連盟」(デフレ脱却議連)はインフレ目標の導 入と日銀法の改正を政府に要請している。

白川総裁はインフレーション・ターゲッティング(インフレ目標 政策)について「インフレを終息させ、さらに物価安定を定着させる プロセスでは成果を挙げた」と指摘。これが成功した最大の理由は「金 融政策の運営が、物価上昇率の目標値と実績値、あるいは予想物価上 昇率との関係で説明できる分かりやすさであった」と述べた。

分かりやすさが短所に

白川総裁は一方で、この分かりやすさが政策のアカウンタビリテ ィ(説明責任)を高める点では長所だが、「金融政策が物価以外の形で 表れる不均衡にも対処する必要が生じた場合には、説明を難しくする ことを通じて短所にもなり得る」と指摘。この問題に対処するために、 近年ではより柔軟な「フレキシブル・インフレーション・ターゲッテ ィングが強調されるようになったと述べた。

その上で「日銀は『中長期的な物価安定の理解』という形で物価 安定の数値的定義を明らかにした上で、いわゆる2つの柱による金融 政策の点検を行っているが、これはフレキシブルという要素を体系的 に行う先進的な工夫だ」と語った。

白川総裁は日銀法については「時代を先取りしている」として、 次の3つの規定を挙げた。最初に挙げたのが第2条で、金融政策の目 的を「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」 としていること。

失敗もあったが

白川総裁は「物価が安定していても、バブルの発生を許してしま うと、その後の経済の落ち込みは深刻なものとなり、最終的には物価 の安定自体が損なわれることにもなりかねない」と指摘。「日銀法の規 定は、そのような可能性も意識しながら、中長期的に持続可能な物価 安定を追求することを可能にしている」と述べた。

2つ目は、金融機関に考査を行う契約を締結できることを明示的 に規定している第1条第2項。白川総裁は「金融機関のミクロ情報な しに、中央銀行がマクロ経済の動向を迅速かつ的確に判断できるとは 思えない」と指摘。「日銀が金融システムやマクロ経済の動向をいつも 正しく迅速に認識してきたというわけではない。失敗もあった」とし ながらも、「金融機関に関するミクロ情報がなければ、正確な認識はも っと遅れていた」と語った。

3つ目は、金融危機における「最後の貸し手」機能が明確に規定 されている点。白川総裁は「政府の一方的要請でも、日銀の一方的判 断でもなく、政府と日銀のそれぞれに責任があることを明確にした上 で、両者ともが必要と判断した場合には、無担保であっても、資金を 供給することが可能となっている。責任の所在を明確にした上で、金 融危機への対応の仕方を規定するという点で、先進的だ」と述べた。

より進化した枠組みと自負

白川総裁はまた、日銀は先行き2年程度の見通しを明らかにする とともに、金融政策運営に当たって、先行きの中心的な見通しに関す る点検である「第1の柱」と、そうした標準的な見通しに関するリス クの点検である「第2の柱」による点検を行っていると指摘した。

その上で「現在の金融政策の枠組みはアカウンタビリティの向上 というインフレーション・ターゲティングの長所を最大限取り込むと 同時に、その欠点とみなされている部分に対応したものだ」と指摘。 日銀としては望ましい金融政策運営の枠組みについては今後とも検討 を行っていく方針だとしながらも、現在の枠組みは「より進化した枠 組みであると自負している」と述べた。

白川総裁は「過去の内外の政策の失敗の歴史を振り返ると、失敗 はどの国でも成長率や物価上昇率のコンマ以下の見通しの誤りで生じ ているというよりは、バブルや金融危機の例が示すように、先行きの 経済・金融情勢に関する基本的な判断を誤った時に生じている」と指 摘。「それだけに、『時代の空気』のような議論に流されることなく、 的確な情勢判断に努力したい」と語った。

また、バブルへの対応については「規制・監督が重要な役割を果 たす」としながらも、「低金利の持続予想もバブルの発生を助長した。 バブルは低金利政策だけで発生するものではないが、同時に、低金利 政策が続くという予想なしには起きないことも真実だ」と述べた。

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