行天元財務官:介入だけで相場水準の安定的な変更は困難

国際通貨研究所の行天豊雄理事長 (元財務官)は17日、都内で講演し、政府・日本銀行による円売り・ ドル買い介入について「介入だけで為替相場の水準を安定的に変えるの は、なかなか難しい」との見解を示した。

行天氏(79)は「個人的には、為替相場を介入という措置で操作 しようという政策には賛成しない」と発言。為替介入が「必要で、かつ 効果を生む」のは「市場の心理状態が一方向に偏り、ファンダメンタル ズ(経済の基礎的諸条件)を反映しない方向に、急速に動いている」場 合だと条件を列挙。そうした場合には「介入によって心理の歪みを矯正 することだ」と述べた。

菅直人内閣は15日、外国為替市場で2004年3月以来6年半ぶり に円売り介入を実施。円・ドル相場は介入直前につけた1995年5月以 来の高値1ドル=82円88銭から、一時は約1カ月ぶりに86円ちょう ど近くまで下落した。戦後最高値は95年4月の79円75銭。政府は今 後も円高が加速する場合には、介入で抑止する構えだ。

今回の為替介入について、行天氏は、内外経済の先行き不安が高ま る中で輸出産業から急速な円高進行に対する不満が強まり「政治的な観 点から放置できなくなった」と分析した。ただ、円高の悪影響を抑える には「輸出が特定の産業・企業に依存する」構造を変えるべきだと指摘 。国内需要を喚起する税制改革や規制緩和が必要だと語った。

人民元、もっと弾力的に

行天氏は人民元相場に関し、巨額の貿易黒字と外貨準備の累積にも かかわらず、中国当局が為替介入で相場変動を過度に抑制するのは「好 ましいことではない」との認識を示した。人民元の対ドル相場は「もっ と弾力的になってよい」と指摘。弾力化した場合の騰落は「分からない 」が、もし元高・ドル安が進めば「ドル建てで見た中国の国内総生産 (GDP)は大きくなる」と指摘した。

ガイトナー米財務長官は16日、米議会の公聴会で「人民元の上昇 ペースはあまりにも遅く、上昇の幅はあまりにも小さい」と証言。「大 幅かつ持続的な」上昇を中国は容認する必要があると述べた。米議員ら は中国の為替政策に対し、強い姿勢で臨むよう米政府に求めている。

中国は2005年7月、人民元相場の対ドル連動(ペッグ)制を廃止。 緩やかな元高の容認に転じたが、08年7月以降は1ドル=6.8元台に 抑制。世界的な金融危機の中で事実上、対ドル相場を固定していた。

今年6月19日には、人民元相場の弾力性を高めると発表したが 「大規模な切り上げ」の根拠は存在しないとも強調。対ドルで小幅な上 昇にとどまっていた。9月に入ると元高・ドル安が進行。17日には一 時6.7170元に上昇し、中国人民銀行(中央銀行)が市場レートと公定 レートを一本化した1993年末以来の高値をつけた。

基軸通貨の条件

行天氏は、人民元が将来ドルに代わる基軸通貨になり得るかが人々 の関心を集めていると指摘した上で、基軸通貨は①発行国が経済・軍 事・外交・技術・文化・イデオロギーなど総合的な強い国力を保持して いること②国際的に自由な使用と十分な供給量、価値の安定が確保され ること③発行国が国際的な金融取引の中心となる市場を有していること -の3条件を満たす必要があるとの見解を示した。

中国が強大な国家になったことは「万人が認めるところ」だが、世 界で指導的な国家になるためには、米国の民主主義・思想や表現の自 由・人権尊重のように「どういうイデオロギーを持つのか」を提示して いく必要があると述べた。

アジア諸国は経済成長を遂げ、世界で果たす役割も大きくなったが 、依然としてドルやユーロなど「アジア以外の通貨に依存しているとの 不満が強い」と指摘。円が将来「アジアで唯一の基軸通貨」になるとは 考えにくいが、人民元や韓国ウォンを含めたアジアの主要通貨が「自由 に使え、価値も安定し、国際的な供給量も十分になれば、域内の経済活 動では自然にアジアの通貨を使うようになる」と語った。

行天氏は1955年に東京大学を卒業し、大蔵省(現・財務省)に入 省。国際通貨基金(IMF)出向などを経て、85年9月の「プラザ合 意」時には国際金融局長、翌年から財務官をつとめた。89年に退官。 ハーバード大学やプリンストン大で教鞭を取り、92年から東京銀行 (現・三菱東京UFJ銀行)会長。95年12月から国際通貨研究所の 初代理事長。98年には小渕恵三内閣の特別顧問、09年9月発足した鳩 山由紀夫内閣では藤井裕久財務相の特別顧問に就任した。