ジョブズ氏騒動は一例、プライベート機配慮を-ビジネス航空

「アップルのスティーブ・ジョブズ 氏が関空でもめた話は聞いている」――。日本ビジネス航空協会の佐藤 和信副会長兼事務局長はブルームバーグ・ニュースのインタビューに対 し、ジョブズ氏のようにプライベートジェット機で世界を飛び回る企 業経営者の入国手続きなどには配慮が必要だとの考えを強調した。

今週発売の週刊誌「SPA!」(9月21日/28日合併号)は、アッ プルの創業者兼最高経営責任者(CEO)のジョブズ氏一家が7月に来 日、帰国の際に関西国際空港の手荷物検査で、土産の手裏剣の機内持ち 込みなどをめぐりトラブルになったと伝えた。米アップルの広報部はジ ョブ氏訪日の事実は認めたものの、空港でのやり取りはフィクションだ としていた。

佐藤氏は、報道された事実関係を把握していることを認めた上で、 「ただ珍しい話ではない。日本訪問では頻繁に起こっている話だ」と述 べた。佐藤氏によると、海外ではビジネスジェットでのCIQ(税関、 出入国管理、検疫)の出入国手続きは一般旅客と別扱いでスムーズなの が一般的だが、日本では原則として一般客と同じ扱いとなっている。

佐藤氏は、「日本に来たら、下手すれば空港の端に追いやられて一 般旅客以下の悪い扱いになる可能性もある。世界を飛び回る大企業の経 営者にとっては、日本は融通の利かない国と思われても仕方がない」と 指摘、「300人の団体客に匹敵、それ以上の影響力を持つ1人の企業経 営者などに入国での配慮がもう少しあってもいいはずだ」と述べた。

日本では普及進まず

日本ビジネス航空協会によると、一部プロペラ機も含めた日本籍の ビジネス航空機の保有は昨年で55機、日本の空港での総着陸回数は5661 回、外国籍は740機で1980回。世界のビジネス機の総数は約2万9000 機。うち北米が約2万機、欧州が約4000機、中国、インド、中東など でも急速に伸びており、シンガポールや香港では受け入れ態勢を急ぎ整 えている。

日本政府も対応に動き始めている。国土交通省は、10月31日の羽 田空港の第4滑走路共用開始に伴う国際定期便就航に合わせ、ビジネス ジェットの利便性向上を目的とした措置を講じると発表。国際ビジネス ジェットの昼間時間帯(6時台から22時台)の利用を新たに可能とし、 発着回数も従来の最大4回を国内線と国際線で最大8回まで拡大、発着 枠割り当て期限も、7日前までの手続期限を撤廃し、乗り入れ当日の手 続きも可能とする。

前原誠司国交相は8月の会見で、すでに成田国際空港社長にも「プ ライベートジェットの専用ターミナルを造っていただくということを お願いした」と表明している。佐藤氏によると現在、日本の空港でビジ ネス機を受け入れる専用施設とCIQの設備を有しているのは、県営 名古屋空港、中部のセントレア空港、神戸空港の3つだという。日本に は現在98の空港がある。

協会は4月に、国交省に対し発着枠の拡大や規制緩和、専用施設の 整備の拡充などを柱とする要望書を提出済みだ。ただ、佐藤氏はCIQ に関しては、日本の複雑な役所の事情も絡んでいると指摘する。「税関 は財務省、出入国管理は法務省、検疫は厚生労働省と主管省庁が分かれ ており、そこに国交省も絡んでいる」として、調整は難しいのが現状だ という。諸外国では、短時間で済むような工夫や、機内での一括代行が 実施されておりその差は大きいと語る。

ビジネスジェット機販売と運航事業を手掛ける国内最大手の丸紅エ アロスペースの民間航空機ビジネスユニットの松岡千恵担当課長は「日 本のみならず海外のビジネスジェットのオーナーから日本の空港の使い 勝手の不満を聞くことが多い」と述べる。その上で、「CIQの改善だ けではなく、ビジネスジェット利用環境全体の改善のペースが遅すぎ て、既に中国にも抜かれてしまった。きょう発足する菅新政権にはこの 分野でのリーダーシップを期待したい」と語った。

「黎明期」

ビジネスジェット事業の運営会社アスクミーの苅屋敏朗社長は、 「空港の数は多くても、日本はまだまだ利用環境など総合的にはビジネ スジェットの後進国。今度の制度改正もやや遅いともいえるが、ようや く黎明期を迎えたようだ」と話している。

また、関連企業もビジネスチャンスに期待している。ビジネスエグ ゼクティブ向けに、都心の赤坂アークヒルズから成田空港まで30分程 度のヘリコプター送迎サービスの事業を展開する森ビルシティエアサー ビスも、ビジネスジェット利用環境改善には敏感に対応する。

同社の上野浩一常務は、新たな航空事業として、アジア各国と米国 間で給油や整備などの中継地点として利用されてきた仙台や三重の空港 に一度入国した海外のビジネスジェット利用者を、東京の都心までヘリ で運ぶサービスを本格させる方針。

上野常務は「ヘリなら短時間かつセキュアな空間で都心までアクセ ス可能。日本の素通り、いわゆる日本パッシングを防ぐことができる。 きちんとしたサービスを準備すれば、ヘリコプター需要はこれまで以上 に高まるはずだ。これが東京の世界的な地位向上にもつながる」と自信 を見せる。

時間価値重視の経営へ

佐藤氏は、海外からくる経営者の多くは、ほぼ都心にアクセスする ことを望んでいるという。そのため、ビジネス航空協会の当面の目標と して、総発着数は羽田空港で3%、成田空港で1%をビジネス機が占め るように要望している。現状では、羽田が0.3%、成田が0.7%と低水 準にとどまっている。協会が08年11月にまとめた資料によると、米J FK空港で2.5%、英ヒースロー空港では1.3%がそれぞれ割り当てら れている。

世界で活躍する企業経営幹部にとっては、「時間が一番大切なは ず。ただ時間価値に重きを置いた動きを日本の経営者はまだできていな い」という。そして、日本でビジネス機をうまく活用できている少ない 企業例としては、トヨタ自動車、日産自動車、セイコーエプソンを挙げ る。「欧米の経営者にとってビジネス機はパソコンなようなもの」とし て、国際競争で日本は現状のスピードで勝てるのかとの懸念を示した。

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