【コラム】ゴールドマン性差別訴訟で試される金融街の楽観-ウルナー

米モルガン・スタンレーを相手取 った性差別の集団訴訟で、総額5400万ドル(現行レートで約46億2500 万円)の和解案を承認したマンハッタンの連邦裁判所判事は、至って 楽観的だった。

判事はこう称賛したものだった。「ウォール街の女性の権利を擁 護・保全する分水嶺(れい)になる」。

あれから6年―。

15日、3人の女性が米ゴールドマン・サックス・グループを性差 別で提訴した。3人はそれぞれ同社でマネジングディレクター、バイ スプレジデント、アソシエートだった。ウォール街最大の資金力と影 響力を有するゴールドマンに立ち向かった3人の女性の訴えが真実な ら、彼女たちは6年前の和解によって「擁護・保全」されていなかっ たことになる。

「ゴールドマンの企業文化に染み込んだ歯止めのない性差別」に よって、女性が報酬や昇進で不利な扱いを受けているというのが、原 告の主張だ。

3人は2002年以降に同様の訴えをしてきた数百人の女性たちと 手を取り合って、集団訴訟とすることを目指している。

ゴールドマンは差別を否定。広報担当のルーカス・バンプラーグ 氏は、「当社は優秀な女性の専門職の採用、育成、保持に向けて特段の 努力をしている」と述べた。

改心

ゴールドマンはこのところ、数多くの問題を抱えている。幹部が 議会でつるし上げを食ったほか、7月には5億5000万ドルを支払って 米証券取引委員会(SEC)との和解にも合意した。今度はこの訴訟 だ。

性差別訴訟はウォール街で珍しいことではない。だからこそ驚き なのだ。ゴールドマンに対する訴えは、昔ながらの下品なセクハラの 要素は減っているものの、スミス・バーニーやメリルリンチに対する 1990年代の訴えについて書かれたスーザン・アンティラ氏の著書 「Tales from the Boom-Boom Room」を読んだ人なら、またかと思わさ れる内容だ。

ウォール街は改心したのではなかったのか。金融業界の幹部は、 とうの昔に問題を解決したつもりになっているようだ。

メリルリンチ会長だったデービッド・コマンスキー氏は2003年の 同社年次総会で、「女性や少数派の活躍を妨げるものなど何もない」と 断言したと、米紙ニューヨーク・タイムズは報じていた。「競争しよう がしまいが、前に進める時代になった」という同氏の言葉が報じられ た。

無視された証拠

にもかかわらず、次から次へとウォール街を相手取って訴訟を起 こす女性たちは、業績という競争では快勝しても上司は女性たちの成 果を示す客観的な証拠を無視し、成果が同等か劣った男性の同僚の報 酬を上げ、彼らを昇進させたと訴え続けた。

女性はどうすればよいのだろう。

今回の訴訟の原告の1人、クリスティナ・チェンオスターさんは ゴールドマンで転換社債部門のバイスプレジデントになった。営業担 当者として彼女は、階級も職種も同じ男性の同僚よりも多くの収入を ゴールドマンに稼がせたにもかかわらず、1997年度の報酬はこの男性 の方が50%多かったと主張している。

同じことが毎年繰り返され、2001年にはこの男性がチェンオスタ ー氏の上司になった。訴えによると、これは彼女にとって特に耐えが たかった。というのも、彼女は以前にこの男性から「他の社員の前で 卑劣なやり方で攻撃し侮辱された」からだという。そのような行動は 男性の昇進後も変わらなかった。

配置転換

チェンオスターさんは結局、ビジネス機会が少なく報酬も低いグ ループに配置転換になる。

一方で、ニューヨークのストリップクラブでの飲み会の後、彼女 に誘いをかけ、断られると男女関係を強要しようとした別の男性がマ ネジングディレクターになり、さらにはパートナーにまで昇進するの を彼女は目の当たりにした。彼女はくだんの一件を上司に報告したが、 会社からの待遇はその後さらに冷たくなったように感じられる一方で、 例の男性は昇進を続けた。

他の2人の原告も、ゴールドマンでの年月は期待とかけ離れたも のだったという。

リサ・パリシさんはゴールドマンのニューヨークとアトランタの オフィスで働き、勤続2年でバリュー・グループのマネジングディレ クターになった。一貫してグループの他のメンバーよりも好成績を上 げ、あらゆる目標を達成するか上回ったと主張する。

彼女が運用していた資産は01年の40億ドルから07年には400 億ドルになった。ポートフォリオが同様に拡大した男性社員の報酬は その6年で2倍になった一方で、リサさんは減俸だったという。

コピー取りと妻からの電話

シャーナ・オルリッチさんはニューヨークでアソシエートとして 1年働いた。トレーダー志望だったが、アナリストにとどめられたと いう。トレーダーになりたくてもなれない新人はウォール街に大勢い るが、一緒に研修を受けた男性たちが先へ進んでいく中で、自分だけ が先輩の男性アナリストのためにコピーを取ったり、その男性の妻か らの電話を取り次いだりさせられているのは職場での性差別のように 思われた。

会社のゴルフコンペが男性しか参加できないイベントだというの も、奇妙だったと原告は訴えている。

これらの訴えの内容の一部は古い出来事で、誇張もあるだろう。 ゴールドマンは既に改めるべき点は改めたかもしれない。しかしゴー ルドマンでの出世の階段では、上の段に昇るほど女性の割合が小さい ことは数字が示している。

もしも、これらの女性たちが集団訴訟の認定を得て、巨額の和解 金を勝ち取るか、あるいは裁判に進んで陪審が彼女たちの主張を認め たら、裁判官は再び、ウォール街の新時代到来を宣言するかもしれな い。

そんな日が来るかもしれないし、来ないかもしれない。世の中に は楽観的過ぎる期待というものもあるのだから。(アン・ウルナー)

(ウルナー氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。 このコラムの内容は同氏自身の見解です)