【書評】女子大生の誘拐・監禁が題材、意外にも心温まるスリラー

19歳の女子大生が誘拐され、3.3 メートル四方の部屋に7年間監禁された。エマ・ドノヒュー氏の「ル ーム」は耐えられないほど緊迫したスリラーだ。驚いたのは、本書が それだけではなかったことだ。確かにページをめくる手を止められな いが、同時に感動的で、信じ難いかもしれないが心温まる物語になっ ている。

著者が題材を得たのは、父親によって24年間地下室に監禁されて いたオーストリアのエリザベス・フリッツルさんの実話だ。エリザベ スさんは2008年に脱出するまでに父親の子供7人を生んでいた。

「ルーム」の誘拐者は父親ではなく、恐ろしい見知らぬ他人だ。 生まれる子供は1人で、この子供のジャックが物語の語り手となり、 ヒーローとなる。この舞台装置が、「ルーム」を驚くほど温かい物語に している。

ジャックの母親にとって、彼女がルームと呼ぶその部屋は、覚め ることのない悪夢だ。しかし、5歳の誕生日から物語を語り始めるジ ャックにとっては、ルームは世界そのものだ。そして、その世界は驚 きに満ちている。敷物とゆり椅子と時計と棚、床とベッドと屋根とド アがある。ドアを出入りできるのは、ジャックが「オールド・ニック」 と呼ぶ邪悪な人物だけだ。ジャックの明るい世界の中で唯一の恐怖と 悪を体現する影だ。

こんな環境の中でジャックを満足させ、好奇心を持ち続けさせる のが母親の仕事だ。母親は学校の教師でもあり、スポーツジムのコー チでもある。テレビの番人になって、ジャックに外の世界を理解させ ながら、彼らが囚人であることを気付かせないように全力を尽くす。

絶叫ごっこ

ジャックを育てるという難しい仕事が、母親を孤独の地獄から救 い正気を保たせる。しかし虫歯の痛みが彼女を苦しめ続ける。オール ド・ニックはあらゆることに対してそうであるように、鎮痛剤も少量 しかよこさない。

やがて、ニックは母親をさらに震え上がらせるような行動を取り 始める。彼女はニックの毎晩の訪れを恐れ始めるが、ニックが来なく なった時はルームがそのまま自分たちの墓場になると分かっている。

ジャックの子供っぽい言葉が、彼が理解していない複雑な状況を 伝える。「お昼寝をした後、僕たちは『絶叫』ごっこをする。でも土曜 と日曜はしない。天窓に近づくためにテーブルの上に立ち、落っこち ないために手をつなぐ。そして『位置について、用意、スタート!』 と言ってから、口を大きく開けて声を限りに叫ぶ。今日は僕の声が一 番大きかった。5歳になったことが僕の肺を大きくしたからだ」とジ ャックは言う。

「それから、僕たちは口を閉じて指を唇の前に立てる。何に耳を すましているのと一度ママに聞いたら、分からないけどもしかしたら 何か聞こえるかもしれないよとママが言った」

詳しい筋書きには触れない。読者のハラハラ、ドキドキの邪魔を したくない。これだけ言っておこう。わたしはこの本を読むのを無理 やり途中でやめようと思って午前2時に電気を消したが、3時間後に はあきらめてまた本を取り上げた。(クレーグ・セリグマン)

(クレーグ・セリグマン氏はブルームバーグ・ニュースの書評家 です。この評論の内容は同氏自身の見解です)