介入の非不胎化は日銀のリップサービス-効果は疑問、一段の圧力も

政府が6年半ぶりの円売り・ドル 買い介入に踏み切ったのに伴い、日本銀行が介入で市場に放出された 資金をあえて吸収せず、事実上放置する方針を固めたとの報道が相次 いでいる。市場に対する日銀の“リップサービス”と評価する声も出 ているが、その効果が長続きせず為替相場が再び円高に向かえば、日 銀に対する金融緩和圧力がかえって高まる可能性もある。

政府は15日午前、円が一時1ドル=82円88銭と15年ぶりの高 値を付けたことを受け、円売り介入を実施。午後に入ると、日本経済 新聞をはじめとするメディアが、日銀が介入資金を放置する非不胎化 を同時に行うことで円高阻止の姿勢を鮮明にする、と伝えた。

三井住友アセットマネジメントの武藤弘明シニアエコノミストは こうした報道が「市場に対しては最高のリップサービスになっている」 と指摘。「要するに美人投票だから、皆がそう思えば市場はそう動く。 それを承知で日銀が『非不胎化』みたいなニュアンスのイメージを意 図的に流しているとすれば、一応それで日銀は臨時の金融政策決定会 合を開かずに済み、得点を稼いだことになる」と評価する。

ただ、介入の非不胎化か不胎化かという議論には、懐疑的な向き も多い。東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは「お金に色はな いので、日銀当座預金残高のどの部分が介入資金かという議論をして も意味はない」と指摘。「非不胎化介入に効果があるという見解は、 現在の環境においては迷信に近いのではないか」と語る。

1999年の非不胎化論争の亡霊

実際、白川方明総裁は著書「現代の金融政策」で「不胎化と非不 胎化の区別に意味はない」と繰り返し説明している。介入の原資とな る円資金は日銀がいったん国庫短期証券(TB)を引き受けて供給す るが、政府はその後TBを新たに市中で発行し、日銀が引き受けた分 は速やかに償還されるため、日銀の「当座預金に対する影響は中立的 であり、介入は自動的に『不胎化介入』となる」という。

重要なのは、非不胎化かどうかの区別ではなく、日銀が金融緩和 を行うかどうかであり、白川総裁もこう述べている。「そもそも『不胎 化介入』と『非不胎化介入』を区別する基準自体がはっきりしないた め、為替市場介入の『不胎化介入』と『非不胎化介入』を議論するこ とは、金融政策の運営方針の変更を議論することと同義になる」。

日銀は1999年9月21日の声明で非不胎化に言及し、「実体的な効 果がなくとも、市場が追加的資金供給に何らかの期待を持っていれば、 それを利用してみてはどうかとの考え方もある」が、そうした方法は 効果があっても一回限りで長続きしないし、「目的と政策効果につい てきちんと説明できない政策をとることはできない」と表明した。

外国人投資家向けのメッセージ

こうした頑な姿勢に批判が集まったことを受け、日銀は同年12 月1日の総裁談話で「介入資金も利用して豊富で弾力的な資金供給」 を行っていると表明した。野田忠男審議委員が15日の会見で「日銀と しては、この介入の資金も視野に入れながら潤沢な資金供給を行って いくことになるのではないか」と述べたのも、これを踏襲している。

今回、介入の非不胎化をめぐる報道が相次いだ背景について、み ずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは次のように推測 する。03年から04年にかけて大量介入と日銀の量的緩和が同時並行 的に行われていた際、「介入の効果を少しでも増幅するため、介入資 金の非不胎化が行われているかのようなメッセージを、もっぱら外国 人投資家を意識して発信していたことの再現を狙ったものだろう」。

もっとも、日銀が当初主張していたように、こうした手法は効果 があっても、一回限りで長続きしない可能性もある。武藤氏は「今回 の介入の賞味期限が切れ、継続的な円安トレンドが形成されておらず、 日銀当座預金残高もさして増えていないような状況が明らかになるに つれて、再び日銀には追加緩和圧力がかかってくる」とみる。

早くも政府・与党から圧力が

政府・与党からは早くも圧力がかかり始めている。民主党の大久 保勉参院財政金融委員会筆頭理事は15日、ブルームバーグ・ニュース のインタビューで「為替介入はどの程度、長期的に影響が出るか分か らない。金利を動かすとかいろいろな方法があり、サプライズは演出 していってほしい」と述べ、追加的な金融緩和を促した。

日銀は先月30日の臨時の金融政策決定会合で、政策金利(0.1%) で資金を供給する新型オペ(固定金利方式の共通担保資金供給)を20 兆円から30兆円に引き上げ、うち10兆円の供給期間を6カ月とする ことを決めた。10月は4、5日に1回目の会合、28日に2回目の会合 があり、半年に1度の経済・物価情勢の展望(展望リポート)を作成 する。日銀にとってはここが正念場になりそうだ。

--共同取材:広川高史 Editor:Hitoshi Ozawa,Norihiko Kosaka

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