政治決着で介入実施も、円最高値の突破不可避か-日銀は非不胎化も

円高抑止を狙った円売り介入に慎 重とされた菅直人内閣が民主党代表選の翌朝、日本単独での介入に踏み 切った。市場関係者は、介入実施は大方の予想よりやや早いタイミング で一定の効果があったと評価。ただ、円安誘導までは難しく、戦後最高 値の更新は避けられないとの見方が優勢だ。

日本銀行で為替介入業務に従事した経験を持つJPモルガン・チェ ース銀行の佐々木融債券為替調査部長は、介入実施には国内外での政治 的な調整も必要で「不安定な政局の下では困難だ」と指摘。次期首相を 事実上決める「民主党代表選の決着自体に意味があったことは否定しよ うがない」と語った。

佐々木氏は「主要国から最低限、黙認を得るまでの調整は進んだの だろう」と分析。「国内でも景気の失速を招きかねない円高の抑止を求 める声が高まっていた」とも指摘した。海外情勢を考慮すると、今回は 2003年から04年3月までのような大量介入は難しいと推測。円・ド ル相場が年内に戦後最高値を突破するとの予測を据え置いた。

政府は15日午前10時35分から、外国為替市場で円売り介入を実 施。野田佳彦財務相が記者会見で、日本単独での介入だと明らかにした 。介入は2004年3月以来。円・ドル相場は介入直前につけた1995年 5月以来の高値1ドル=82円88銭から85円台まで下落する場面があ った。介入直前には、5月につけた年初来安値4カ月余りで12.7%上 昇していた。戦後最高値は95年4月の79円75銭。

市場の虚をつく介入

市場では菅首相は円売り介入に慎重との見方が多く、介入実施は戦 後最高値が近づいてからとの見方が有力だった。14日午後には、民主 党代表選で菅首相の再選が決まった直後に円・ドル相場が急騰する場面 があった。東海東京証券の佐野一彦チーフ債券ストラテジストは、再選 翌朝の介入で「市場は虚をつかれた」と指摘。三井住友銀行の宇野大介 チーフストラテジストは「80円から85円の上半分に入ると、戦後最 高値が視野に入る」と、82円台後半での介入実施を解説した。

円売り介入は民主党代表選の主要な争点にもなっていた。菅首相や 野田佳彦財務相は円高進行に対し「必要な時には断固たる措置をとる」 と述べ、介入の可能性を示唆。菅首相と一騎打ちを演じた小沢一郎前幹 事長も「市場介入も腹に据えてやるべきだ」との立場だった。日本経済 団体連合会の米倉弘昌会長は13日、円高がさらに進んだ場合には「何 らかの介入はやってもらいたい。現物でも口先でも」と述べていた。

三菱東京UFJ銀行金融市場部の井野鉄兵アナリストは「円売り介 入がなければ、円・ドル相場は戦後最高値を更新する公算が大きい」と 予想。円高進行を「政府が座視するなら、日本はデフレを容認している と市場が解釈する恐れもある。べき論で言えば、介入すべきだ」と指摘 していた。

デフレ克服、非不胎化か

日銀は15日、円売り介入で市場に放出される資金を吸収しない (非不胎化)方針を固めたと、日経英語ニュースが同日報じた。白川方 明総裁は介入実施を受け「強力な金融緩和を推進する中で、今後とも金 融市場に潤沢な資金供給を行っていく」との談話を発表していた。日銀 による介入資金の「非不胎化」は、円相場の直接的な上昇抑止と資金増 加による金融緩和効果が同時に働き、円高抑止効果が強まるとされる。

日銀で為替介入業務に従事した経験を持つバークレイズ銀行の山本 雅文チーフFXストラテジストは、かねてより「政府・日銀は非不胎化 介入を実施し、円高抑止で協調すべきだ」と主張していた。

小泉純一郎内閣が03年から04年にかけて約35兆円もの円売り介 入を実施した際には、良好な日米関係の下、デフレ克服が大義名分とな った。04年4月の米財務省為替報告書は、円売り介入は長引くデフレ 克服のため、ベースマネーの急拡大といった金融政策と同時に行われた と記述。介入による円資金供給はその不胎化が部分的にとどまったため 、重要なベースマネー拡大の一要素となったと評価した。

日銀の協調

福井俊彦総裁の下、金融機関への資金供給量の目安となる当座預金 残高を誘導目標とする「量的緩和政策」を採っていた日銀は03年3月 から04年1月まで介入規模の拡大と平仄(ひょうそく)を合わせるか のように、この誘導目標を段階的に引き上げる形で金融緩和を進めた。

国際決済銀行(BIS)の中央銀行総裁会議は13日、日本以外の 先進国経済は「現時点でデフレに陥る懸念は見られない」との認識で一 致。日本の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは足元で5四半 期、全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は16カ月連続で下落して いる。

円高・ドル安が進む中でも、主要通貨に対する円の総合的な強弱を 内外の物価格差も加味して算出した実質実効為替レートは、なお過去の 平均に近い水準。ただ、政府が前回介入した03年から04年3月にか けてとほぼ同じ水準でもある。

市場関係者は、6年半ぶりとなる円売り介入が前回のように大規模 になるとは見ていない。三井住友銀の宇野氏は、米景気の減速を背景に 金融緩和観測が広がり、米議会が人民元相場の上昇圧力を強めている中 では「円安基調への転換は望めない」と指摘。介入は「円急伸を抑える スムージングにとどまるだろう。円・ドル相場が年内に戦後最高値を突 破する流れは変わらない」と見ている。

15日の介入は日本単独で実施。介入後、米国やカナダ、中国の当 局はコメントを控えた。市場では協調介入は望み薄との見方が大勢だ。 ロイター通信は13日、米議員93人が中国の為替政策に強い姿勢で臨 むための法案の採決を求める書簡に署名し、下院民主党指導者あてに送 付したと報じた。

バークレイズ銀行の山本氏は、今回の介入は円高抑止には有効だが 、円を押し下げるものではないと分析。円高が再燃した場合に「どの水 準で再び介入するか」が焦点になると指摘した。

--取材協力::赤間信行、船曳三郎、小宮弘子、関泰彦、池田祐美 Editor:Joji Mochida, Masaru Aoki

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