【コラム】「二日酔い」の債券市場がまた酒を欲しがる-Mギルバート

債券市場はまるで、パーティーで飲 み過ぎてテーブルにぶつかり、品のない冗談を言ったり大声で話して 飲み物をこぼす酔っぱらいのようだ。賢い客なら、この酔っぱらいが トイレに駆け込む前に退散する。

あなたは欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)が5月にま とめた緊急措置が、欧州の債務危機の解決策だと考えただろうか。銀 行間の資金調達が正常化する中で、各国中銀が資金の蛇口を閉めると 期待していたのだろうか。

財政緊縮策で独自対策をまとめ、その苦い薬をほとんどそのまま 飲むという荒療治に出たアイルランドの10年国債は今、ドイツ国債に 対する利回り上乗せ幅(スプレッド)が過去最高の380ベーシスポイ ント(bp、1bp=0.01%)というありさまだ。危機の発端となっ たギリシャの国債スプレッドも950bpと、過去最高水準をわずかに 下回る程度だ。

一方、米国とドイツはこれまでで最も低い借り入れコストを謳歌 (おうか)している。こうした状況は、今回の信用危機以前のパター ンに似ている。

まず、当初は財務内容が健全とされる銀行が明らかに不健全な銀 行と区別されていた点だ。でも結局、すべての銀行が財務の弱さで大 差ないことが分かった。もう一つは、金融システムが政府によって守 られたと受け止められたことだ。しかし厳しい目で見れば、リスクは 解消したわけではなく、移転されただけだった。

差別化

今の債券市場は、財政的に無責任な政府と表面的には危機に耐え 得る規模を備えた政府を差別化している。だがこれは見当違いだ。売 春宿が摘発されて、そこにいただけのピアノ弾きも逮捕されるような もので、リセッション(景気後退)への逆戻りで債務返済能力が損な われでもすれば、どの政府も放漫財政と債務負担で同じ穴のむじなだ。

そもそも、オバマ米政権が500億ドル(約4兆2000億円)規模の インフラ整備計画を打ち出している時に利回りが2.65%の10年物米 国債に資金を投じるのは、非常に慎重な投資とは言えないだろう。

社債市場はさらに、事故の発生を待っているような状況に見える。 投資家は今月、米工具メーカーのスタンレー・ブラック・アンド・デ ッカーによる4億ドルの30年債発行を受け入れた。ブルームバーグの データによると、表面利率は5.2%。そしてこのメーカーが負ってい る全債務は計45億ドルだ。

債券投資家の仕事はリスクとリターンの釣り合いを取ることだが、 この利率はかなり大きなリスクの見返りとしては、低過ぎるようだ。

30年債のリスク

30年後を想像してみよう。現在は、先進国の製造業務の大半を担 っている中国から、世界をまたにかける新しい企業が誕生し、その企 業がスタンレー・ブラック・アンド・デッカーで訓練された労働者を 雇い、同社より安い製品を提供することがないと言えるだろうか。

利回り低下で社債投資はギャンブルと化している。リスク算出方 法の1つに、利回りの変動で価格がどの程度下がるかを測るデュレー ションがある。バンク・オブ・アメリカ(BOA)メリルリンチの指 数によると、デュレーションは過去最高水準にある。

イタリアの電話大手テレコム・イタリアの例を見てみよう。利回 りが約7.2%だった6月に2055年償還債(表面利率5.25%)を購入し たとする。利回りが50bp上昇すれば、100ユーロの投資に対して約 4ユーロの損失を被るリスクがあった。利回りが約6.2%で推移して いる現時点で同じ債券を購入すれば、損失はさらに50%膨らむ恐れが ある。

隠された危険

格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスによると、 8月の世界のデフォルト(債務不履行)率は格付けが投機的水準(ジ ャンク級)の企業で5%と、前月の5.5%から低下し、1年前の12.3% の半分未満にとどまった。ムーディーズは今後数カ月にデフォルトに 陥る企業がさらに減るとみている。デフォルト率は2010年末までに

2.7%、今から1年後には2%に低下する見通しという。

これは朗報に聞こえる。しかし皮肉な見方をすれば、デフォルト 率の低下はジャンク級企業の財務の健全性とは無関係だ。関係してい るのは、資産が傷んだ銀行が貸出先をこれ以上破たんさせまいとする 姿勢で、このためデフォルト率のデータがゆがめられ、ゾンビ企業は 生死の境をさまよっているとみても説明がつく。

来週は、米証券会社リーマン・ブラザーズ・ホールディングスが 破たんしてちょうど2年だ。残念なことに、米史上最悪のこの破たん 劇につながったここ数年間の見込み違いの行動から投資家が何の教訓 も学んでいないことを、債券市場は示唆している。

二日酔いは困ったことに、酔いが覚めるともう一度酒を飲むこと が素敵な考えのように思い始めることだ。そんな債券市場のパーティ ーにはひどい結末が待っているだろう。 (マーク・ギルバート)

(マーク・ギルバート氏は、ブルームバーグ・ニュースのロンド ン支局長でコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解で す)