【コラム】あなたの高給が隣人の失業を長引かせる-K・ハセット

経済学の教科書では完璧な説でも、 それらが現実となれば、ひどい状況をもたらす恐れがあるため、誰も 敢えてそれに触れようとする人はいない。だが、現実を無視すればひ どい政策につながる。米失業率はなお9.6%と高水準であり、こんな 事態はもうたくさんだ。

そこで氷のように冷たい水に飛び込んで考えてみたい。今の米労 働市場で最大の問題は賃金が高過ぎることだ。米政府は失業問題の解 決策として再び財政出動に目を向けているが、それとは逆の幾つかの 策を考えてみた。

経済学では、完全雇用の達成は賃金が現在の状況を反映する水準 まで下がるよう調整された場合だと教えられる。賃金が下がれば雇用 主はもっと労働者を採用するからだ。失業問題がなかなか解消されな いのは、賃金が硬直的な状況にあり、需要の減少に伴って下落しない 場合だけだとされる。

賃金の下方硬直性を説明する幾つかの理由がある。一つは連邦政 府や州政府の最低賃金法だ。2番目の理由は労使契約が通常複数年に わたること。経済状況を踏まえた賃金の調整には再び労使交渉する必 要があり、めったに実現には至らない。3番目は賃金が人間の存在義 を規定する尺度となっているため、労働者が賃下げの受け入れをます ます嫌がるようになっている点だ。そして最後の理由は、求職者と求 人企業が地理的な面や職種面でミスマッチ状態にあることだ。求人が あるかもしれない場所に求職者が引越しを望まなかったり、そうした 地域で暮らす金銭的余裕がなかったりする場合もあるだろう。

悪いタイミング

賃下げのこうしたハードルが失業率の押し上げを招いている兆候 は随所に見られる。政策のタイミングの悪さを示す例としては、賃金 を引き下げるべきだったタイミングで民主党議員らが最低賃金を引き 上げる道を選択したことがある。

連邦最低賃金はリセッション(景気後退)が始まった2007年から 時給7.25ドルへと、従来の5.15ドルから41%高い水準に引き上げら れた。民主党議員は3段階の引き上げを提案し、当時のブッシュ大統 領はイラク戦争の財源に重点を置いた歳出措置の一環として、それを 法制化した。

どのような時期でも、最低賃金の引き上げを通じた労働コストの 上昇は失業率上昇リスクをもたらす。不況下の労働市場でそんなこと をすれば、それはまさしく政策的な過失にほかならない。

過酷な10代

多くが最低賃金の職に就いている10代の労働者は、リセッション の結果、不相応の打撃を受けている。10代の失業率は07年12月の

16.9%から26.3%に上昇した。同様に労組の組合員も就職率では、相 対的に高めの賃金によって痛手を被っている。09年の就職者全体に占 める組合員の割合は7.2%と戦後最低だった。

新天地でやり直そうとしない米国民が多いことは、失業率の州格 差で明らかになっている。ネバダ州の失業率は14.3%と最も高い一方 で、ノースダコタ州は3.6%と驚くほど低い。それなのになぜ、ネバ ダ州最大の都市ラスベガスからノースダコタ州最大の都市ファーゴに 求職者が移動する車の列で渋滞ができないのだろうか。

一つの理由は失業保険だ。州の失業保険制度は通常、26週間まで に限定されているが、リセッション時に様々な給付延長措置が州や連 邦政府レベルで採用された中で、失業手当を最長99週間にわたり受け 取ることが可能になった。このため、失業者が次の就業機会を求める 動機付けが弱くなっている。

住宅所有をめぐる米国の文化も状況を複雑する要因だ。現在の不 動産市場では、売却して転居したくてもできない人が多い。

強力洗剤

このような形で賃金の硬直性が失業率を押し上げているのなら、 しつこい汚れを落せる洗剤のグーゴーンに匹敵するような強力な公共 政策を制定できるかが課題となる。次のようなアイディアはどうだろ う。

最初の提案は、最低賃金をリセッションが始まった07年12月の 水準である5.85ドルに引き下げるというものだ。09年には最低賃金 労働者が約98万人いたが、半数は24歳以上だった。この見直しは雇 用全体に大きな影響を及ぼすだろう。

次は政府の政策を通じて労働者に賃下げを提示して受け入れるよ う説得することだ。その政策には大幅な賃下げ分を相殺する税控除と いうアメと、失業保険給付期間の短縮などを含むムチを盛り込めばい い。

そして最後に必要なのは、労組が包括的労働協約交渉の再開と賃 下げの受け入れに前向きになることだ。

これらの策は、政治家にとって口にするだけでも苦痛と危険を伴 うものだが、米経済を完全雇用に向かわせる上で大きな効果が期待で きるだろう。(ケビン・ハセット)

(アメリカン・エンタープライズ研究所で経済政策研究のディレ クターを務めるケビン・ハセット氏は、ブルームバーグ・ニュースの コラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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