【コラム】金融界のウルトラリッチは誰よりも始末が悪い-M・リン

富裕層向け資産管理サービスを提 供するプライベートバンカーが、顧客である富裕層の行動や性質につ いて同業者に警告したのには驚かされた。まるでフォルクスワーゲン の取締役がドライバーたちを疑いの目で見たり、マクドナルドの経営 者が自分はファストフードを食べないと言ったりするようなものだ。 プライベートバンカーの仕事はホテルのボーイと同じように、お客の 金持ちに仕えることなのだから。

先週チューリヒで開催された会議で、バークレイズ・ウェルス・ マネジメントのプライベートバンク部門トップ、ジェラード・ アクイリナ氏は、富裕層顧客の中でもトップクラスの超リッチ族につ いて警告を発した。

同氏は聴衆を前に、「ウルトラ・ハイ・ネット・ワース(超富裕 層)との取引の複雑さに用心しよう」と呼び掛けた。これら顧客から の「手が掛かり、往々にして理不尽」な要求が「組織にとっての無理 難題」になることがあると語った。

例えばどんな要求だろう。子供を望みの学校に入学させるのを手 伝ってほしい、不動産を買うので金を貸してほしい、開演間近のコン サートの切符を手に入れてしてほしいなどだ。さらに手に負えないこ とに、超富裕層というのは実はけちなのだという。要求したサービス に対して料金を全額払うのも渋るのだそうだ。

この10年間に富裕層がどう変わったかを物語るエピソードと言 えるだろう。富裕層というのは扱いにくい人たちで、それがますます 始末に終えなくなっているらしい。しかしそれは、銀行業界が自ら招 いたことだ。

厄介者

ある意味で、アクイリナ氏の警告はどの業界にもあてはまるもの だ。どんな会社の幹部も、最悪の問題はいつも顧客からもたらされる と感じており、顧客というのは多くの場合、愚かで不合理で厄介な存 在だと考えている。

マイクロソフトのソフトウエアエンジニアは、ハードディスクに パーティションを作成する方法やレジストリーファイルを再構成する 方法を知らないユーザーの愚かさにうんざりしているだろう。ばかな 観光客とその生意気な子供たちを相手にせず、彼らの重量オーバーの 荷物を積まなくてよかったら、航空機がどれほど世界の空をスムーズ に運航できるだろうと夢見る航空会社幹部は数知れないに違いない。

人はサービスをしなければならない相手にいらいらさせられるも のだ。極めて人当たりのいいスーパープライベートバンカーだって例 外ではない。とはいえ、アクイリナ氏の発言には興味深い点がある。

数々の証拠

金持ちがたちの悪い人種だという証拠は積み上がっている。カリ フォルニア大学バークレー校の昨年の調査では、裕福な人は他の人々 よりも礼儀知らずだということが分かった。また、同じ大学の別の研 究によれば、富裕層はそうでない人に比べて慈善事業に寄付をする確 率が低い。さらに、ベルリンのフンボルト大学で行われたもう1つの 研究では、金持ちは他人を罰したがるという意味で普通の人よりも 「意地が悪い」という結果が出た。

これらは何も驚くようなことではない。扱いにくくて要求が多い くらいでなかったら、金持ちになどなれない。ひじ鉄を食わせて相手 を押しのけるための強いひじがなければ頂点には立てないし、その道 すがら、何人かの足を踏み付けないよう遠慮などしていられない。裕 福になれば、守らなければならないものも多くなる。手に入れた富を 絶対に失わぬよう、凶暴になることも必要だ。

金持ちという人種は、石器時代の原始人の1人が他人より大きな こん棒を使って、付近で一番大きい洞窟を支配したその日以来ずっと、 恐らく凶暴だったのだろう。

変容した金持ち

昔は、たいていの富は普通の人とのかかわりの中で築かれた。工 場主は物を売ってくれる商店の販売員のことを意識していた。自動車 を作ったヘンリー・フォードは1913年に、工場の働き手の平均賃金を 2倍に引き上げて1日5ドルにすると同時に、労働時間も短縮した。 英国のチョコレートメーカーのキャドベリー一族は19世紀に、従業員 のために町を作った。

これらを変えたのは、金融サービス業界とボーナス文化の台頭だ。 新しい富裕エリート層の大半を占める投資銀行バンカーやヘッジファ ンド運用者は、普通の人との接点があまりない。自分の富はすべて、 自分の明晰(めいせき)な頭脳によって得られたと考えている。そし て、普通の人の生活から自らを遮断する。

金融業界は億万長者たちを大量に「鋳造」していく。その工程 で傲慢(ごうまん)と利己主義、お高くとまった俗物根性も作り出す。

アクイリナ氏の発言は、自らを責めるしかない業界に光を当てた。 だからこそ、同業者に警告を発したのだろう。(マシュー・リン)

(リン氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。こ のコラムの内容は同氏自身の見解です)

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE