覚醒には程遠い欧州の悪夢-ギリシャ危機拡大で銀行連鎖破たん

【記者:Richard Tomlinson and Andrew MacAskill】

9月7日(ブルームバーグ):欧州連合(EU)がユーロ圏内の脆 弱(ぜいじゃく)な諸国の救済に備えて、7500億ユーロ(約81兆4000 億円)の包括的金融支援策を取りまとめた後も、欧州のソブリン債と、 それを保有する金融機関に対する投資家の警戒心は消えていない。

ミュンヘンのメルク・フィンクの金融アナリスト、コンラッド・ ベッカー氏は、ギリシャがデフォルト(債務不履行)に陥れば、ソブ リン債を大量に抱える複数の金融機関の破たんを誘発しかねないと警 告する。同氏は「EU加盟国の一つがデフォルトになれば、銀行への 信頼は煙のように消えてしまう。投資家が銀行に投資する意欲を失え ば、数年というスパンではなく、数カ月以内に多くの銀行が破たんす るだろう」と指摘した。

金融危機の発生から約2年がたち、国際金融システムの修復が順 調に進展していると政治家や監督当局者が懸命に主張する傍らで、欧 州の金融機関の脆弱さをめぐる新たな懸念が台頭している。ブルーム バーグ・マーケッツ誌10月号が報じた。

EUの銀行ストレステスト(健全性審査)は91の金融機関を対象 に実施され、そのうち84行が合格。オバマ米大統領は7月、大恐慌以 後で最も大掛かりな金融規制改革法を成立させた。国際決済銀行(B IS)のバーゼル銀行監督委員会は、11月にソウルで開かれる20カ 国・地域(G20)首脳会議(サミット)での合意を目指し、新たな資 本・流動性規制の策定を進めている。

欧州の事情

しかし、銀行セクターを正常化する上で、欧州には特別な障害が ある。ソブリン債危機だ。聞き取り調査や会社発表資料を基にブルー ムバーグ・ニュースが5月時点でまとめた数字では、欧州の大手金融 機関が保有するギリシャとポルトガル、スペインの国債は合計で1340 億ユーロ相当を上回る。

EUと国際通貨基金(IMF)が5月に包括支援策を発表した後 も、ギリシャ国債のドイツ国債に対する上乗せ利回り(プレミアム) は高止まりしたままだ。8月13日のドイツ10年国債利回りが2.39% だったのに対し、ギリシャの10年国債利回りは10.48%。利回り格差 はEU首脳が支援策で合意する直前の5月のピーク以来で最大だった。

投資家の警戒心は、銀行が発行する社債のスプレッド(国債との 利回り格差)にも表れている。バンク・オブ・アメリカ(BOA)メ リルリンチの指数によれば、フランスのBNPパリバの5-10年物社 債のスプレッドは8月9日時点で368ベーシスポイント(bp、1bp =0.01%)と、米シティグループの256bp、JPモルガン・チェー スの194bpを上回っていた。

傷んだシステム

イングランド銀行(英中央銀行)のキング総裁は8月11日の記者 会見で、「銀行システムは依然としてひどく傷んだ状態にあり、バラン スシートの修復を図っている段階だ。銀行は非常に高いコストでの資 金調達を強いられ、それが貸し出しを難しくしている」と語った。

金利の上昇は社債発行高にも響いている。8月の英国を含む欧州 の金融機関による調達額は約180億ユーロと、8月としては2004年以 後で最も少なくなった。こうした状況の下で、欧州の多くの金融機関 がなお、資金確保を欧州中央銀行(ECB)に頼っている。

ECBは7月、3カ月物の資金供給オペレーション(公開市場操 作)を通じて171の金融機関に合わせて1320億ユーロを供給した。ま た、相互の資金融通に慎重になっている銀行の姿勢を反映し、ユーロ 圏の市中金融機関がECBの翌日物中銀預け入れ制度を利用して預け 入れた資金量は6月9日に、過去最高の3690億ユーロに達した。これ は信用危機の最悪期だった08年10月さえも上回る水準だ。

健全性審査

ECBのトリシェ総裁は8月5日の記者会見で、7月23日に 公表されたストレステスト結果が、欧州の金融業界に対する投資家の 信認を回復するのに役立つはずだと述べた。だが、先の健全性審査は、 ユーロ圏の一国が債務不履行に陥る可能性に対し十分に備えるもので はなかった。

EUの健全性審査は、金融機関のバランスシート内の満期保有を 前提とする国債を査定せず、売買目的で保有する国債だけがリスク評 価の対象となった。欧州の金融機関は、ある国の債務完済や利払いの 能力に重大な疑念が生じた場合に限って、バランスシートのソブリン 債について評価損を計上する必要が生じる。モルガン・スタンレーの 調査によれば、欧州の銀行はギリシャ国債の約9割を銀行勘定のバラ ンスシート内に保有しているという。

ロンドンの金融業界向け助言会社、バラトロのクリス・スキナ ー最高経営責任者(CEO)は、欧州各国政府は自分たちが金融機関 に売った国債の質に疑問を呈するわけにはいかないと指摘。「欧州各国 政府はバンカーの意のままだ。銀行のビジネス手法を変えさせようと すれば、どうしてもソブリン債に対する信頼を損なうことになるから だ」と話す。

残る不良資産

ユーロ圏の金融機関は国債だけでなく、08年の金融危機時に保有 していた不良資産の多くを今なお抱えている。信用危機のピーク から今年末までの間で、資産の約3%に相当する評価損を計上するこ とになるとIMFは4月に試算した。

米銀の7%を下回る理由の一つは、問題となる証券の保有比率が 米銀よりも低かったためだとIMFは分析しているが、バランスシー ト上の売却できない資産について正直に認めない、欧州の多くの銀行 の姿勢を正当化するものではないとIMFの元調査局長(チーフエコ ノミスト)、シカゴ大学のラグラム・ラジャン教授は批判する。

ロンドンの投資会社、ラスボーン・ブラザーズで210億ドル相当 の資産運用に携わるジュリアン・チリングワース氏は「ストレステス トには十分な厳しさが欠けていた。債券投資家の多くはギリシャが難 局を切り抜けたと納得してはいない」と指摘する。ギリシャが危機を 脱していないならば、ギリシャ国債を保有する欧州の金融機関にとっ ても、危機は終わっていない。