【書評】リーマンは近代米国を映す鏡-ファルド氏は「くず売り」

リーマン・ブラザーズ(リーマ ン兄弟)の中の最初の1人は、ルートビッヒ1世時代のバイエルン からやってきたユダヤ系移民だった。

1844年に新大陸にわたったハイアム・リーマンは、ヘンリー・ リーマンと名前を変え、南北戦争前のアラバマ州で行商をしていた。 誇り高く正直な商売人で、埋没してしまう「その他大勢」ではなか ったと、リーマン・ブラザーズ・ホールディングスの浮き沈みを描 いた 「ザ・ラスト・オブ・ジ・インペリアス・リッチ(仮訳:最 後の専制富豪)」の著者、ピーター・チャップマン氏は言う。

単純で役に立つ道具を農家に売り歩いていたリーマンの家業 が傾いたのは、1世紀半のちにリチャード・S・ファルド氏が「く ずを売り歩いた」時だと、同氏は書いている。

商売は成功し一族は繁栄した。南北戦争時の南部連合の債券を 売り、百貨店チェーンのシアーズ・ローバックの株式を公開し、「ボ ーイング747」機を資金面で支え、米国の歴史になくてはならない 投資銀行になった。ファルド氏のような近視眼的な経営者がやって きて、創業の精神を捨てるまでは-。チャップマン氏はこう辛口に 論じる。

ファルド氏は今週、リーマン破たんは「不適切な情報」に基づ いて行動していた規制当局のせいだと主張した。「またリーマン本 か」、と読者は言うかもしれない。わたしも本書を手にしたときた め息をついた。既に出ている何冊もに、これ以上何を付け加えられ るというのか。

もう一つの歴史

答えは「文脈」だ。新しい事実はほとんどないが、ある意味で それは問題ではない。本著はリーマンというプリズムを通した米企 業と政治、経済のもう一つの歴史だからだ。

英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)向けに記事を書くチャ ップマン氏は、自身の広範な読書の結果を大学の米企業史の教科書 にも適するような本著にまとめた。リーマン家が奴隷を所有してい たことやアラバマ州モンゴメリーの綿花取引の起源、1925-69年 にかけて リーマンを率いたロバート(ボビー)・リーマンの黄金時 代へと舞台は 広い。

大恐慌がやってきた時、リーマン一族は金融と同時に政治の世 界でも活躍する。ボビーのいとこのハーバートは20年代末にフラ ンクリン・ルーズベルトがニューヨーク州知事に選出された時に副 知事としてその右腕となった。ルーズベルトが大統領となった後、 ハーバートは自ら知事になり、「リトル・ニューディール」と呼ば れることになる政策で不況と闘った。

ボビーはチャールズ・リンドバーグやジョゼフ・ケネディ(ケ ネディ大統領の父)と交友があり、RCAやフィリップ・モリス、 パンナムなどの名門企業を顧客に持った。69年のボビーの死が、 リーマンの迷走の始まりだったとチャップマン氏は説いている。同 年はファルド氏がリーマンの一員となった年でもあった。

悲しい教訓劇

チャップマン氏の著書は歴代最高経営責任者(CEO)の時代 を駆け抜け、ルイス・グラックスマンCEOの時代にたどり着く。 機関銃のように罵詈(ばり)雑言を放つ太り過ぎたトレーダーの同 CEOから、巨大なレバレッジを効かせて賭けをし、賭けに敗れる とリーマンの破たんを仕組まれたと誰も彼もに憤怒をぶつけるフ ァルド氏までは、ほんの一歩だった。

リーマンの最終章は企業統治を学ぶ学生にはおなじみの悲し い教訓劇となる。偉大な同族経営企業が、社会に貢献しながらゆっ くりと富を蓄積することよりも手っ取り早くもうけることに熱心 な外様の手で破壊される物語だ。ここでもリーマンは、投資家から 企業へのスムーズな資本の流れを助けるという基本的な存在理由 から遠ざかっていったウォール街全体の変ぼうを反映している。

直に取材した内容やデータから掘り出した新情報を欲しがる 読者もいるだろうが、チャップマン氏はむしろ、米国の過去の前に 鏡を据え、将来に起こり得ることを映してみせることに成功した。

著者は言う。「リーマン・ブラザーズは米国近代史のゼリグ(ウ ディ・アレン監督の映画カメレオンマンの主人公の名前で、至る所 に居合わせるカメレオンのような人物の意味)だ。重大な事件の場 には常に居合わせた。この事件の場に居合わせたことが実に悲しい」 (ジェームズ・プレスリー)

(プレスリー氏はブルームバーグ・ニュースの書評家です。こ の書評の内容は同氏自身の見解です)

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE