「日銀サーベイ」金利予想、経済物価情勢、金融政策の展望コメント

【記者:日高正裕】

9月3日(ブルームバーグ):ブルームバーグ・ニュースは6、7 日開かれる日銀の金融政策決定会合を前に、有力「日銀ウオッチャー」 15人に内外の経済・物価情勢、金融政策の展望を聞いた。質問内容は 以下の通り。アンケート回答期限は2日午前8時。エコノミスト予想 のまとめ記事は「日銀会合は現状維持へ、次の一手で思惑高まる-そ ろそろ限界との声も」をご覧ください。

1)今回の会合で予想される政策、2)日銀が政策金利を「引き 下げる」時期、3)日銀が政策金利を「引き上げる」時期、4)~11) 政策金利の予想水準(氏名50音順、カッコは前回回答)、12)経済、 物価情勢の見通し、13)金融政策の展望、次の一手

●三菱UFJモルガン・スタンレー証券の石井純チーフ債券ストラテジスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2013年4-6月以降(2013年1-3月以降) 4)10年9月末 :0.10%(同) 5)10年12月末 :0.10%(同) 6)11年3月末 :0.10%(同) 7)11年6月末 :0.10%(同) 8)11年9月末 :0.10%(同) 9)11年12月末 :0.10%(同) 10)12年3月末 :0.10%(同) 11)12年6月末 :0.10%(同)

12)米欧の景気は減速へ。物価は大幅なデフレギャップを背景にディ スインフレが続き、日本型デフレ懸念もくすぶる。米景気は製造業が 低い在庫水準と輸出(ドル安)のおかげで底堅さを保つ半面、家計が 雇用低迷と債務デフレにより力強さを欠く。住宅価格が市場低迷で再 調整に転じると、商業用不動産の下落基調とあいまって負の連鎖(= 信用収縮と景気低迷の悪循環)の再発リスクを高めかねない。

ユーロ圏景気は独仏がユーロ安を奇貨(きか)として堅調だが、 他国が低迷している。一部ではソブリンリスクが再燃しつつあり、負 の連鎖に足を引っ張られている。一方、新興国の景気は相対的な高成 長を維持するものの、引き締め(バブル抑制)政策の影響が徐々に表 れるので加速は期待薄。米欧景気が減速すると輸出の鈍化により減速 も。

わが国景気は今年度下期、踊り場に入る。円高と海外景気の減速 を受けた輸出の鈍化、および政策効果の一巡による。国内民需は自律 拡大軌道になかなか乗れない。設備投資は国内空洞化を背景とした成 長期待の低迷が、個人消費は雇用・所得環境の低迷と将来不安が足を 引っ張り続ける

日銀は10月末の展望リポートで、命綱である海外経済の不透明感 がそのとき今よりも強まっていれば、円高が多少是正されていても、 現在「上振れ≒下振れ」としているリスクバランスを「上振れ<下振 れ」へと修正する必要に迫られるだろう

13)日銀は政府がデフレ宣言(昨年11月)を撤回するまで、政府から 追加緩和要請を受け続ける。政府は今後、財源不足と「ねじれ国会」 で手詰まり感がいっそう強めるので、ストレスの矛先は日銀により向 かいやすくなる。デフレ脱却のメドが全く立たない情勢が延々続くよ うならば、民主党政権内で関心が高いインフレ目標政策の導入を公式 に要請したり、日銀法改正が俎上(そじょう)に乗せる場面が来るか もしれない。

政府の追加緩和要請があからさまになるのは、①経済のデフレス パイラル(=マイナス成長+物価下落)入りが明白になったとき②市 場がショック症状(歯止めのかからない円高、株安、悪い金利上昇な ど)に襲われたとき③国際協調(米連邦準備制度理事会=FRBへの 追随)の必要性が高まったとき④金融システム不安や流動性不安が再 発したとき-など。

9月会合時にもこうした状況が発生していれば、日銀は今週初の 新型オペ拡充と同様、先取り的な追加緩和に追い込まれる可能性が浮 上する。選択肢は日銀が受け入れやすいと思われる順番に①新型オペ のさらなる拡充②成長基盤強化支援オペの拡充③時間軸の強化④政策 金利の引き下げ(0.05%あるいは「ゼロ~0.10%」)⑤量的緩和政策+ 長期国債買い入れ拡大⑥インフレ目標政策。どれも一長一短がある。

特に⑤について、日銀は前回の“実験”を効果薄と総括している。 また、長国購入拡大は政府の財政規律や銀行券ルールといったハード ルが高い。ただ、FRBが米国債購入拡大を視野に踏み出すと、そう した抗弁も分が悪くなる。⑥については、日銀は現行の「物価安定の 理解(の明確化)」を擬似的なインフレ目標政策と説明しているので、 すでに導入済みという認識だ。

政府・日銀は低成長、デフレ長期化の責任の押し付け合いを直ち にやめ、企業・家計の成長期待に働きかける政策を、それこそ先制攻 撃的に実施してゆくべき。そうすれば、仮に実体的な効果は乏しくと も、アナウンスメント効果だけでも最大化することができれば、突破 口を開く可能性が出てくる

●日興コーディアル証券の岩下真理チーフマーケットエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2012年4-6月以降(2011年10-12月以降) 4)10年9月末 :0.10%(同) 5)10年12月末 :0.10%(同) 6)11年3月末 :0.10%(同) 7)11年6月末 :0.10%(同) 8) 11年9月末 :0.10%(同) 9)11年12月末 :0.10%(0.30%) 10)12年3月末 :0.10%(0.30%) 11)12年6月末 :0.30%(同)

12)日銀は臨時会合で追加緩和を決定し、緩やかな回復シナリオは修 正せずに下振れリスクの顕在化を注意深く点検する姿勢に転じた。世 界景気減速への不透明感および足元の円高定着による企業収益への悪 影響等の下振れリスクの点検では、9月短観(9月29日発表)が最初 の重要指標となろう。

今週から短観のアンケート調査が配布されている。1ドル=83円 台(6月調査の大企業製造業の想定為替レートは90.18円)、日経平均 9000円割れを見て、6月時点では様子見で年度計画を大きく修正しな かった企業でも、下期の下方修正が見込まれる。企業マインドも足元 の改善は続いても、先行き慎重さが強まる可能性はあろう。

米国で景気弱気風が吹く中、皮肉にも7月国内指標は輸出、生産、 消費、設備と堅調な滑り出しとなった。8、9月のデータも猛暑効果 とエコカー補助金打ち切りにより強めの数字が期待できる。その代わ り10-12月の自動車生産、自動車販売の落ち込みは避けられない。エ コポイント制度の延長が視野に入り、駆け込み需要も後ずれが見込ま れ、10-12月の生産と実質国内総生産(GDP)の弱さが懸念される。

悩ましいのは、10月末の展望リポートでは、7-9月の強さだけ 見て10-12月の弱さを十分に確認できず、来年にかけての米景気回復 に自信が持てない状況で判断しなければいけない。米中の景気動向が 鍵を握ると見ているが、行き過ぎた悲観論が修正されているなら、標 準シナリオを大きく修正する必要はないと思われる。

13)円高阻止には日銀の追加緩和だけでは効果は限定的であり、政府 による為替介入が必要と考える。また米国経済の先行き不透明感から 再びドル安材料が出てくる可能性もあり、当面は安心することができ ない。政府が動かなければ、再び催促相場になる可能性も十分にある。 今は政府にボールを投げ返した状態であり、日銀の次なる一手は為替 介入後に残しておくべきだろう。

この先、日銀が限られた政策カードを使うには下振れリスクの顕 在化が必要と見る。仮に今年度後半に景気の踊り場を迎える見方が強 まり、さらなる円高進行もしくは金融市場の混乱を伴う事態となって から、日銀が次なる一手を検討する可能性は出てこよう。ただし、日 銀は長期国債買入れ増額については慎重姿勢を崩しておらず、政策金 利引き下げによる市場機能低下へのこだわりも強い。

従って、これらの政策オプションの優先順位は低いだろう。すぐ にできるのは新貸出制度の枠拡大や、期末の株価対策にもなる株式買 い取りの再開が考えられる。日銀はデフレ克服には需要不足への対応 が必要であり、新興国需要の取り込み、生産性の向上のために制度や 仕組み等の見直しを提言している。インフレターゲットは目標を掲げ ても達成できる手段がないとの立場である。

日銀が緩和的な金融環境を提供し続けても、金融面の安定による 側面支援にとどまることから、政府が需要拡大策を進めることが必要 だ。財政政策と金融政策のポリシーミックスとなれば効果は高まろう。 仮に民主党代表選挙後の政府が需要拡大策を進めずに日銀への要請を 強めるだけならば、結果的に金融政策の限界を示すことになろう。

●みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2012年4月(同) 4)10年9月末 :0.10%(同) 5)10年12月末 :0.10%(同) 6)11年3月末 :0.10%(同) 7)11年6月末 :0.10%(同) 8)11年9月末 :0.10%(同) 9)11年12月末 :0.10%(同) 10)12年3月末 :0.10%(同) 11)12年6月末 :0.30%(0.50%)

12)景気は「低空飛行」を続けつつ高度を下げる見通し。地上に激突 するほど不均衡が蓄積しているわけではないが、米景気回復の失速感 と為替の円高、エコカー補助金終了、中国などでの薄型テレビ在庫積 み上がりなどから、鉱工業生産は遅くとも10-12月には前期比マイナ スに転じる。政府・日銀の景気判断は下方修正を余儀なくされよう。

ただし、日銀は10月展望リポートで、緩やかな回復シナリオを基 本的には維持しつつ、回復感が強まる時期を先送りするという、微妙 な下方修正を行うことになるとみている。

13)8月30日に臨時会合を開催したばかりなので、今回の会合では動 かないだろう。円高の原因は米国側にあるので、日銀もしくは日本側 の政策対応だけで流れを決定的に反転させるというのは無理な話だ。 今後の追加緩和カードとしては、金融市場調節方針で「時間軸」を明 示するカードが有力とみている。カナダが行ったようなカレンダー型 も有力な選択肢になり得る。

民主党代表選後の政治情勢は不透明。日銀に厳しい姿勢の政権誕 生となる場合には、利下げや国債買い切りオペ増額など、さまざまな カードを日銀が切らざるを得なくなる場面が出てこよう。

●東短リサーチの加藤出チーフエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし 3)利上げ時期 :2012年秋以降(同) 4)10年9月末 :0.10%(同) 5)10年12月末 :0.10%(同) 6)11年3月末 :0.10%(同) 7)11年6月末 :0.10%(同) 8)11年9月末 :0.10%(同) 9)11年12月末 :0.10%(同) 10)12年3月末 :0.10%(同) 11)12年6月末 :0.10%(同)

12)日銀は臨時会合で「保険」として追加緩和を決定しており、今の ところ景気シナリオを大きく下方修正していない。FRBは米経済は 緩やかな回復が続くというメーンシナリオを維持しており、バーナン キ議長はデフレのリスクはひとまずボトムアウトしたと言い始めてい る。

日銀は展望リポートで成長率とインフレ率の見通しをやや引き下 げ、ダウンサイドリスクを前回よりも強調すると思われるが、景気シ ナリオを大きくは変更しないだろう。

13)現時点で考えられる追加緩和策は、いずれも効果は限定的である 一方、弊害も存在するため、金融政策にあまり期待をかけるべきでは ない。FRBも非常に似た状況にあり、バーナンキ議長も「中央銀行 だけで問題は解決できない」と言い始めている。

ウォールストリート・ジャーナル紙はその点を冷静に報じており、 8月31日の社説では「日本の金融の問題は、マネーに対する需要不足 であり、マネーの供給が不足しているからではない」「日本経済は改革 を必要としており、これ以上の円は必要ではない」と述べている。な お、欧州のメディアの最近の論調には、円高に苦しむ日本にやや同情 的なニュアンスが見られ始めている。スムージング介入の範囲内であ れば、日本政府が行うことは許容されるのではないかと思われる。

ただし、円高対策は短期の痛み止め療法に過ぎない。より根本的 には創造性にあふれた産業を日本国内でいかに活性化していくかにか かっている。先日ロンドンのシティでイギリス人エコノミストと議論 した際もそれが話題になり、日本の長期停滞は、創造性を発揮する動 きを育てず、現状維持を優先しようとする力の強さにあるのではない かと指摘された。

また、ロンドンの街で多くの若い人々に日本製品の印象を聞くと、 品質が高いことは知っているが、どうしても欲しいと思うもの、憧れ るものはあまりないなあという話が聞こえてくる。実際、ロンドン市 内のアップルのショールームは入場制限が行われるほどの人気だが、 日本メーカーのショールームは閑散である。

長期化している日本の低金利政策は、低採算部門を維持すること をサポートしてきたため、産業のスクラップ・アンド・ビルドが進ま ない要因になっている面もあると思われる。

●JPモルガン証券の菅野雅明調査部長 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし 3)利上げ時期 :2012年4-6月以降(同) 4)10年9月末 :0.10%(同) 5)10年12月末 :0.10%(同) 6)11年3月末 :0.10%(同) 7)11年6月末 :0.10%(同) 8)11年9月末 :0.10%(同) 9)11年12月末 :0.10%(同) 10)12年3月末 :0.10%(同) 11)12年6月末 :0.25%(同)

12)米経済の減速傾向が鮮明になってきた。雇用の回復の遅れと住宅 投資の低迷が際立ってきた。10年後半は潜在成長率(2.0%)以下の 成長の可能性が高い。これは失業率が再び上昇することを示唆してい る。設備投資もやや勢いを失いつつある。米国の景気後退リスクが意 識されるようになってきたが、2番底をメーンシナリオにするには至 っていない。弱まりながらも回復モーメンタムが持続しているからだ。

11年央までに先進国の景気が再び上向くかどうかは新興国、特に 中国経済の動向に依存する。中国が引き締め政策を年内に解除すれば、 中国の内需回復が世界経済のけん引役となり先進国の景気が上向くと いう21世紀型の世界的な景気循環メカニズムが見られる可能性が高 い。日本経済は中国経済依存度を高めつつ、踊り場を脱していこう。

13)今週発表された追加緩和策は「最後の伝統的金融政策手段の発動」 として歴史に残るのではないか。固定金利オペの期間を6カ月に延長 しても金利の低下余地は限定的だ。今後は非伝統的な金融政策に踏み 込むしかない。9月会合では、8月米国雇用統計の予想外の大幅悪化 などが見られない限り、現状維持だろう。

しかし今後年末から来年初にかけ、世界景気が悪化する中で円高 が進行する場合には、日銀としても非伝統的手段を発動せざるをえな くなる。可能性としては①国債買い切り額の増額②国債以外の資産の 直接あるいは間接的な購入③マイナス金利の導入-などが選択肢だ。

①国債買い切り増額は銀行券ルールの見直しまたは撤廃を含むが、 銀行の超過準備に付利できるので、銀行券ルールの重要性は低下して いる(将来の利上げ時に保有国債を強制的に売却する必要はない)。

②については、政府が特別目的会社(SPV)を設立し(政府がエ クイティ部分に出資)、そこに日銀が貸し出しを行うことにより、例え ばSPVが外貨資産を購入することも考えられる。日銀が直接貸し出 さなくとも、民間投資家がSPVの債券を購入し、日銀が投資家に貸 し出しを(銀行経由で)行うことも考えられる。

③のマイナス金利は、超過準備に対する付利をマイナスにすると 同時に、銀行保有の銀行券にチャージすることによって翌日物銀行間 金利をマイナスに誘導可能となる。この結果、長期金利の大幅な低下 が可能となり、円高阻止に貢献が期待できるほか、金融政策のゼロ金 利制約も消え、しかも市場機能はそのまま活かすことができるという メリットが存在する。

●第一生命経済研究所の熊野英生主席エコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2012年7-9月以降(同) 4)10年9月末 :0.10%(同) 5)10年12月末 :0.10%(同) 6)11年3月末 :0.10%(同) 7)11年6月末 :0.10%(同) 8)11年9月末 :0.10%(同) 9)11年12月末 :0.10%(同) 10)12年3月末 :0.10%(同) 11)12年6月末 :0.10%(同)

12)7月の中間評価と比べて景気シナリオは下方修正される可能性は 高い。ただし、生産は7-9月も前期比プラスを維持できそうなので、 景気後退まではみていない。強調するのは、リスクシナリオのがい然 性が高まったという認識だろう。

13)30兆円の資金供給によって、代表選まではどうにかしのいだ印象。 日銀へのプレッシャーは、代表選のあとの体制いかん。政府の景気支 援策に出尽くし感があり、為替介入をしないと決め手にならない。日 銀の次の緩和策は、成長支援の資金供給枠の積み増しで、次の次は6 カ月物オペの拡充になるか。

●BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2013年1-3月以降(2012年1-3月以降) 4)10年9月末 :0.10%(同) 5)10年12月末 :0.10%(同) 6)11年3月末 :0.10%(同) 7)11年6月末 :0.10%(同) 8)11年9月末 :0.10%(同) 9)11年12月末 :0.10%(同) 10)12年3月末 :0.10%(0.25%) 11)12年6月末 :0.10%(0.50%)

12)円高傾向にあることは確かに収益圧迫要因となり、輸出企業にと って逆風ではあるが、価格ショックである円高は需要ショック(数量 ショック)と異なり、輸出・生産に与える影響は短期的には小さい。 実質実効ベースで見ると現在の円レートは過去20年間の平均に比べ て円安水準にある。国内には過剰が積み上がっていないため、よほど 大きなショックが海外から訪れなければ不況に陥る可能性は小さい。

以下述べるように、世界経済が2番底に陥る事態は回避されると 見られ、成長率の下方修正、デフレ脱却時期の後ずれはあるとしても、 景気回復シナリオが大きく修正される可能性は小さい。

米国については新たな外的ショックが加わったわけではないため、 景気の2番底は回避されると考える。しかしバランスシート調整は続 いており、当初の想定通り回復は今後もぜい弱。過剰債務を抱える経 済主体(特に家計部門)は債務返済を優先し、消費や投資を抑制する。 金融システムも健全性を取り戻したとは言えず、金融部門が貸し出し を増やすような状況にはない。

欧州経済はユーロ安による輸出刺激効果が表れ、やや楽観的な見 方も現れている。しかし米国同様、深刻なバランスシート問題を抱え ていることに変わりはなく、特に南欧では過剰債務を抱える企業、家 計が支出を抑制し、成長の加速は期待できない。今後は緊縮財政の悪 影響も現われる。金融システムがぜい弱であるため、経済の血液であ るカネの流れ(=金融)が滞り、持続的な成長が期待できない。

中国経済のハードランディングを懸念する見方も少なくないが、 過熱(バブル)に到る前に巡航速度に向けて減速し始めたことを考え ると、むしろソフトランディングし、持続的な回復の可能性が高まっ たと考えている。固定的な為替レート制を通じて、米国のゼロ金利政 策の効果が波及することも、中国経済をサポートする要因となる。

13)円高圧力が高まった場合、政府、日銀はどう対応すべきだろうか。 日銀にさらに金融緩和を求めるべきか。それも1つの考え方かもしれ ないが、筆者自身は金融政策のコスト(副作用)を考えると、それは 適切な対応ではないと考える。現在の実質実効円レートの水準は過去 20年間の平均に比べるとむしろ円安にあり、現在の日本経済に対して 大きな問題とは言えない。

現状程度の円高で日本経済が大きなストレスを受けているのは、 デフレ圧力が高まると言うことだけでなく、前回の景気回復局面(02 -07年)に超低金利政策の長期化・固定化が行われ、その結果生じた 「超円安」が日本経済の構造調整を遅らせたためだと考える。規制緩 和を進め、人々の創意工夫を発揮することで、内需セクターに成長分 野を作っていく必要がある。

政治的には日銀に今後も緩和圧力が続くと思われるが、理論上、 以下の選択肢が考えられる(筆者はそのいずれにも相当慎重である)。 ①新型オペのさらなる拡充(残高の拡大、期間の長期化)②ゼロ金利 政策③国債買い切り増額④外国為替や上場投資信託(ETF)など非 正統的な金融資産の購入-。円高が進展すれば対処療法として①が選 択される可能性はあるかもしれない。事実上の量的緩和政策の拡大だ。

②以降については効果だけでなくコストも相当に大きいため、深 刻な不況や経済危機が訪れなければ実施されないと考える。上述した 通り、筆者は世界経済が2番底を避けられると考えており、②以降の 政策が実施される可能性は小さいと考える。③、④の政策が実施され るハードルは相当高い。

③の国債買い切りオペ増額(日銀券ルールの撤廃)は、公的債務 の膨張が続いておりマネタイゼーションと受け止められる可能性が大 きい。このため、政府の明確な財政健全化策が打ち出されるまでは実 施されないと考えられる(実施されるべきではない)。政治情勢が相当 に不安定であり、政治的な財政膨張圧力の歯止めが他に存在しない現 在、日銀券ルールの撤廃は相当に危険な政策だと思われる。

④の外国為替やETFなど非正統的な金融資産については、頭の 体操であるが、日本経済が仮に「デフレ均衡」に陥っている場合、そ の脱却のための購入資産となり得るかもしれない。ただしその場合、 公的債務の膨張が引き起こすインフレ加速を避けるために、物価水準 ターゲットの設置と政府の財政健全化対策が不可欠だ。

ただ、「デフレ脱却」のためのアグレッシブな金融政策は、その帰 結があまりに不確実であるため、日銀の判断だけでは行えないと思わ れる。最終的に成功する場合でも、経済・物価の相当な振幅を引き起 こす可能性が高いと考えられるため、日銀法に抵触する可能性がある。 安易に選択されるべきではない。政治が不安定で、必要条件として掲 げた「財政健全化策」が決定されるかも極めて不確実である。

●モルガン・スタンレーMUFG証券の佐藤健裕チーフエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :2010年10-12月(同) 3)利上げ時期 :2012年10-12月以降(同) 4)10年9月末 :0.10%(同) 5)10年12月末 :0.05%(同) 6)11年3月末 :0.05%(同) 7)11年6月末 :0.05%(同) 8)11年9月末 :0.05%(同) 9)11年12月末 :0.05%(同) 10)12年3月末 :0.05%(同) 11)12年6月末 :0.05%(同)

12)内外経済は全般に減速し見通しも悪化している。国内では輸出の 減速と政策効果の息切れがリスク。米国も政策効果息切れによる住宅 需要の減退が明確だ。日銀は標準シナリオで上振れ・下振れリスクが ともに高まっているとして、上振れリスクとして新興国経済の状況を 挙げているが、中国をはじめとする新興国も輸出の減速から高成長に 陰りが出ており、日銀シナリオのがい然性は低下している。

展望リポートでは足元の内外経済の情勢を踏まえ、10-11年度の 経済見通しが下方修正されよう。12年度については、世界的に首長選 挙が集中する政治サイクルのピークであることから、財政政策の発動 による景気テコ入れも見込まれ、経済パフォーマンス的にはむしろ良 好な年となることが期待される。日銀シナリオでも12年は潜在成長率 を大幅に上回る経済成長を期待する姿となろう。

なお、足元の円相場が日本経済に及ぼす影響について、日銀の評 価では、確かに円高は国内製造業の一段の空洞化をもたらす可能性が ある一方、製造業は海外生産比率を高めることで為替変動に打たれ強 い収益構造となっていることから、日銀は円相場の現状を意外に冷静 にみているのではないか。8月の臨時会合までの日銀の動きが鈍かっ たのも、円相場をめぐる現状認識の相違からだと思われる。

実際、実質実効円レートは95年に名目レートが79.75円の史上最 高値をつけた時点からすると、足元は依然割安だ。

13)9月会合は現状維持を予想するが、日銀は円相場の動向次第で臨 時会合を開催する前例を作ってしまったので、円相場次第で臨時会合 の可能性は常にあろう。ただし、次回アクションを起こすとすれば、 展望リポート公表時が最もがい然性が高いのではないか。展望リポー トで景気の現状認識を下方修正した上で行動を起こすというのが最も 筋が通っていると思われる。

具体的な緩和メニューとしては①利下げ(無担コール翌日物水準 を0.10%から0-0.10%のバンド制とし、補完当座預金金利を0.10% から0.05%に引き下げ)②時間軸へのコミットメント強化③(非不胎 化介入の一環としての)当座預金残高引き上げ④リスク資産の買い入 れ(株式・土地)等が考えられる。

残高が半年後に30兆円となる固定金利オペは、日銀信用残の太宗 を占めることとなるため、これ以上の増額は日々のオペレーションの 自由度を下げ、コール市場の需給の不安定化につながる点で逆効果だ ろう。最も効果的なのは①の利下げと③の非不胎化介入の一環として の当座預金残高の引き上げであり、ドル円相場のトレンドが変わるま で大量継続介入を粘り強く続けることが重要だろう。

現下の状況において日銀が真になすべきは期待インフレ率に働き かける政策だろう。期待インフレ率を引き上げることに成功すれば、 名目金利の非負制約の下でも、高止まりしている実質金利を引き下げ ることができる。その点、有効なのは株式や土地といったリスク資産 の買い入れだろう。むろん、こうした政策のハードルが非常に高いこ とは百も承知しており、現時点でがい然性は高くないだろう。

しかし、経済・市場の状況次第でデフレ脱却のためにいずれ金融 政策の1つのテーマに浮上するとみている。民主党代表選後、政府は 日銀に対し政治的圧力を再び強めることが予想される。日銀法改正も 民主党デフレ脱却議連の議題の1つに挙がっていることから、日銀と してもこうした動きを一概に無視し続けるわけにもいかないだろう。

●三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所の嶋中雄二所長 1)今回会合 :国債買い入れ増額と成長基盤強化の資金供給の拡大 2)利下げ時期 :利下げなし 3)利上げ時期 :2012年7月(同) 4)10年9月末 :0.10%(同) 5)10年12月末 :0.10%(同) 6)11年3月末 :0.10%(同) 7)11年6月末 :0.10%(同) 8)11年9月末 :0.10%(同) 9)11年12月末 :0.10%(同) 10)12年3月末 :0.10%(同) 11)12年6月末 :0.10%(同)

12)自動車の減産やITの出荷・在庫バランスの悪化をきっかけとして、 10年10-12月から11年4-6月にかけて、鉱工業生産が前期比低下 傾向になるだろう。展望リポートでは10年度については大きな修正は ないのではないか。4-6月は2次速報で上方修正必至とみられるし、 7-9月は猛暑効果で前期比年率4.5%程度の高めの成長となる可能 性があり、年度を通してみると強めの成長となるだろう。

ただし、円高の影響分だけ11年度にかけての成長率は下振れする と考えるのが妥当だろう。また中国の減速スピードが速いのか遅いの かも慎重に検討されるべき課題だ。

13)9月会合では、米国の雇用統計の強弱やそれによって誘発される ドル円の変動にもよるが、リスクシナリオにはまる可能性がやや大き くなったと判断されれば、長期国債の買い切りオペを月2000億円増額 するとみる。

次の次の一手も国債買い切り増額だろう。思い切って4000億円で も良い。とにかく国債を愚直に買い増し続けることにより、8月現在、 前年比5%台のマネタリーベースの伸びを同21%台の米国のマネタ リーベースの伸びに接近させ凌駕(りょうが)することが為替の反転 には不可欠だろう。

政府と日銀の関係は今後、今まで以上に密接になり、政策目的を 政府が決めるイングランド銀行や事実上、政府の傘下にある中国人民 銀行のような形に次第に近づいていくことになろう。デフレが解消す るまでは、インフレ抑止装置としての「日銀の独立性」の議論は一時 的に棚上げされてしかるべきかも知れない。

●クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :可能性は20%以下に低下(2011年2-3月) 3)利上げ時期 :2015年度以降(2017年ごろ) 4)10年9月末 :0.10%(同) 5)10年12月末 :0.10%(同) 6)11年3月末 :0.10%(0.05%) 7)11年6月末 :0.10%(0.05%) 8)11年9月末 :0.10%(0.05%) 9)11年12月末 :0.10%(0.05%) 10)12年3月末 :0.10%(0.05%) 11)12年6月末 :0.10%(0.05%)

12)景気は5月ころから踊り場局面であり、11年央までは一進一退。 中国の投資減速、先進国個人消費減速で在庫・生産循環は既にミニ調 整局面。米国年末商戦いかんでは年内にもう一段の生産調整圧力に発 展するリスクも。その場合、11-1月の景気はリセッション的に。緩 やかな物価下落基調に変化なし。12年度中のCPIプラス転換は期待 できない。

日銀の成長見通しは既に破たんしており、実態的には大幅下方修 正を余儀なくされているが、小幅修正・標準シナリオ維持にこだわる 可能性が高い。

13)日銀法改正の可能性が高まっており、日銀は組織防衛に出るだろ う。バーナンキFRB議長が量的緩和拡大の弊害を整理し、日銀には 強い追い風となったが、結局、国内の政治圧力に屈することに。長期 国債買い切りオペ増額(銀行券ルール見直し)の可能性に最も注目。 もっとも、量的緩和拡大でデフレ脱却は不可能。

●大和総研の田谷禎三顧問 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2012年4-6月以降(2012年1-3月以降) 4)10年9月末 :0.10%(同) 5)10年12月末 :0.10%(同) 6)11年3月末 :0.10%(同) 7)11年6月末 :0.10%(同) 8)11年9月末 :0.10%(同) 9)11年12月末 :0.10%(同) 10)12年3月末 :0.10%(0.25%) 11)12年6月末 :0.25%(同)

12)米国経済は一部の景気支援策の終了もあって減速感が強まってい る。先行き2番底の可能性やデフレに陥る恐れが語られるようになっ てきている。最近の米国経済は日本経済がたどってきた展開と似たと ころがある。日本経済のバブル崩壊後の経験を下敷きにすると、米国 経済はバブル崩壊による調整が始まったばかりで、今後少なくとも5 -10年は調整期が続く可能性がある。

その間はよほど好調な外部環境に恵まれないと比較的低い成長が 続くかもしれない。ただ、今のところ日本のようなデフレに陥る可能 性は高くはない。そうかと言ってその可能性がまったくないとも言え ない。今後の賃金、価格(特に、サービス価格)の動きを注視する必 要がある。他方、欧州経済の展望も好転したわけではないし、中国経 済にも若干減速感が出てきている。

日本経済にとって外部環境はより厳しくなってきている。外需の 拡大をテコにした緩やかな景気拡大シナリオは下振れしてきている。 ただ、経済成長率および物価変化率見通しの数字を下方修正するにし ても、今のところ修正幅は限定的だろう。

13)米国の景気、それに応じた米国の金融政策の行方によっては円高 が進み、さらなる金融緩和が求められることになるかもしれない。場 合によっては国債の買い切り増額や超過準備に対する付利の停止も検 討課題になる可能性がある。

しかし、もうそろそろ景気対策や円高対策をこれまでのような金 融財政緩和によって行う限界に気付くべきだろう。より必要なことは 企業や家計の先行きに対する不透明感を払しょくしたり、期待を高め たりすることだろう。

●信州大学の真壁昭夫経済学部教授 1)今回会合 :現状維持 3)利下げ時期 :当面利下げなし(同) 2)利上げ時期 :2012年以降(2011年年央以降) 4)10年9月末 :0.10%(同) 5)10年12月末 :0.10%(同) 6)11年3月末 :0.10%(同) 7)11年6月末 :0.10%(同) 8)11年9月末 :0.10%(0.30%) 9)11年12月末 :0.10%(0.30%) 10)12年3月末 :0.30%(0.50%) 11)12年6月末 :0.50%(同)

12)米国経済は減速している。特に住宅市場の悪化は顕著だ。新築、 中古住宅ともに販売件数は大幅な落ち込みとなっており、背景には政 府による住宅購入支援策の終了と雇用環境の回復の鈍さがある。今後 も失業率が高水準で推移する可能性が高く、家計の債務処理にも多く の時間が必要になろう。家計の消費意欲はいまだ盛り上がらない。そ のため物価上昇圧力も高まりづらい。

米国が2番底に陥る可能性は否定できない。米国政府が大規模な 経済対策を打ったとしても、低水準での成長が長期化することになる だろう。企業の設備投資やM&Aは徐々に回復基調にはあるものの、 問題はそれが雇用につながっていない点だ。低インフレ、低成長、低 収益といった経済環境が長期化する可能性は高まっている。

日本経済は円高・株安傾向が鮮明化していることもあり、景況感 が悪化している。問題は、欧米諸国が通貨安政策をとっていることも あり、円高傾向に歯止めを打つことが難しいことだ。今後も景況感悪 化が続くとみられる。雇用環境は引き続き厳しい状況にある。7月の 失業率は5.2%、有効求人倍率は0.53となっており、短期間での回復 は期待できない。CPIは-0.9%と、デフレ圧力は収まっていない。

展望リポートは弱気シナリオに基づいた内容になろう。円高によ る企業収益へのマイナスの影響は大きい。短期間での円安誘導は困難 となれば、欧米諸国の景気先行き不透明感を含めて、景気見通しには 弱気にならざるを得ない。既に日銀の対応策が限界に直面している中、 デフレ脱却に貢献できる策も少ない。成長率、物価見通しともに下方 修正され、先行きについても厳しい見方になることが考えられる。

13)新型オペ拡充だけで円高傾向に歯止めを掛けることは難しい。既 に金融政策の範ちゅうで取り得る策は限られている。日銀が追加緩和 策を行っても、市場・経済に与る効果は局所的にならざるを得ない。 日銀に対する政治的な圧力は今後も強まると考えられる。政策決定会 合の中でも、政治の存在を常に意識しなければならない状況だろう。

特に民主党の代表選の結果次第では、国債買い増しへの圧力は一 段と高まることが想定される。日銀としては、政府からの要請と市場 からの期待に対する切り札を温存したいはずだ。候補の1つが、国債 買い取りの増額であろう。日銀は切り札を切らないような政策運営を 考えよう。当面、利下げはないだろう。ただし、世界経済の下落が鮮 明化し、金融市場が混乱する場合は利下げの可能性はあるとみる。

●野村証券の松沢中チーフストラテジスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :年末までに0.1%を下回ることを容認 3)利上げ時期 :2012年10月(2012年1月) 4)10年9月末 :0.10%(同) 5)10年12月末 :0.10%(同) 6)11年3月末 :0.10%(同) 7)11年6月末 :0.10%(同) 8)11年9月末 :0.10%(同) 9)11年12月末 :0.10%(同) 10)12年3月末 :0.10%(0.25%) 11)12年6月末 :0.10%(0.25%)

12)10年度成長率は4-6月GDPの下振れを反映し、また米国FR Bが景気見通しを下方修正したことを示唆しており、下方修正を余儀 なくされよう。焦点は11年度の成長率、物価見通し。FRBも11年 度見通しを下げているわけではなさそうだ。また足元原油価格も7月 の見通し時点とさして変わっていない。よって11年度見通しはほぼ変 わらず、変化があるとすれば下方レンジが広がる程度ではないか。

13)今年末までに、為替介入に合わせ日銀が流動性供給を増額し、結 果として翌日物金利が0.1%を下回ることを容認する。次の次の一手 はメーンシナリオではないが、国債買い切り増額。菅氏であっても小 沢氏であっても、円高に断固とした措置を取る姿勢は変わらず。政府 が財政政策や為替介入で手を打つのと合わせて、日銀に協調的な政策 を求めてこよう。介入に合わせた日銀の流動性供給が現実的な妥協点。

●シティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし 3)利上げ時期 :2012年10-12月(2012年4-6月) 4)10年9月末 :0.10%(同) 5)10年12月末 :0.10%(同) 6)11年3月末 :0.10%(同) 7)11年6月末 :0.10%(同) 8)11年9月末 :0.10%(同) 9)11年12月末 :0.10%(同) 10)12年3月末 :0.10%(同) 11)12年6月末 :0.10%(0.30%)

12)米国では引き続き家計部門の弱さが目立つ。ただ、それ以上に懸 念されるのは、7月の耐久財受注統計(コア資本財受注・出荷)が設 備投資の変調を示唆したことだ。家計需要の弱さの一部を設備投資の 伸びが相殺し、年率2%程度の成長率が維持されるというシナリオに 対する下方リスクがやや高まった。

過去1カ月の国内経済指標は意外と底堅かった。もちろん猛暑や エコカー補助金終了前の需要前倒しが押し上げ要因になったことは否 定できない。ただ①7月の実質輸出(日銀算出ベース)が4-6月平 均を2.5%上回った②機械投資の一致指標である資本財出荷(輸送機 械を除く)の7月の水準が4-6月平均を3.1%上回った-点を踏ま えると、輸出、設備投資は増加基調を維持しているとみられる。

7-9月のGDP成長率は前期比年率2%を上回る可能性が高い。 ただ、10-12月はエコカー補助金終了に伴う反動やたばこ税引き上げ 前の買いだめの反動により、個人消費は前期比ではっきりと減少、G DPもゼロ成長に近いものとなろう。鉱工業生産も前期比マイナスが 予想される。ただ、これは政策措置の終了によるかく乱であり、景気 が後退局面に入ることは想定しない。

4-6月GDPの改定次第という面はあるが、展望リポートで10 年度の成長率見通し(直近2.6%)が下方修正される可能性が高い。 11年度についても、この間の円高や米国経済指標の下振れを受けて成 長率見通し(直近1.9%)がやや下方修正されるとみるのが自然だろ う(標準的なマクロモデルによると、対ドルで10円の円高はその後1 年間の成長率を約0.3%ポイント押し下げ)。

ただ、修正幅は比較的小さく、「定性的」には、従来の景気シナリ オが維持されるとみられる。標準シナリオに大幅な修正はないだろう。 12年度の成長率予想は2%程度が見込まれる。一方、リスク評価につ いては既に8月30日の臨時決定会合で下振れ重視に判断が変更され た。展望リポートも下振れリスクをより重視した書きぶりとなろう。

13)8000億円の6カ月物資金を月1、2回供給する今回の措置は、緩 和措置としてはささやかなものに見受けられる(残高が10兆円に達す るのには最低で半年を要する)。ターム物金利は時間をかけながら徐々 に低下すると予想される一方、円高圧力を緩和する効果は見込みにく い。

米国では来年、増税を中心とする財政引き締めが始まると予想さ れ(その規模は政治情勢もあり不透明)、景気下支えに向けてFRBの 金融政策への負荷が続く、あるいは強まる可能性が高い。追加措置が とられる場合、バーナンキ議長のジャクソンホール講演でも示された 通り、長期金利の低下を促進するため、長期債の追加的な買い入れが 実施される公算が大きく、これは円高ドル安圧力を強めかねない。

政府・与党が円高に極めて神経質な中で、日銀が日米金融当局間 の政策競争の構図に引きずり込まれ、長期国債の買い切りオペ増額に 追い込まれる可能性は否定できない。一方、①景気が一定の底堅さを 維持すると予想される②日銀は引き続き市場機能を重視する立場を強 調している-2点から、利下げの可能性は低いだろう。政府与党と日 銀の協調・連携がないことが大きな問題のように思われる。

民主党代表選後も、ねじれ国会で政策遂行能力を欠く政府与党が 日銀に圧力を加え、日銀がそれに消極的に応じるという構図が続くと すれば非生産的だ。ただ、当面こうした状況が変化する可能性は低い。 政府は8月30日、追加経済対策の基本方針を発表した。ただ、内容は 短期的な景気刺激、中長期的な成長力強化のいずれの観点からも生煮 えの感が否めない。

金融市場にポジティブサプライズを与える意味では、例えば、「経 済危機対応・地域活性化予備費」の9200億円を利用して、本年度中に 法人税引き下げを前倒し実施、日銀は「成長基盤強化のための資金供 給」の枠組みで、資金供給の上限を大幅に増やすといった「演出」が 可能だったのではないか。

●バークレイズ・キャピタル証券森田長太郎チーフストラテジスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2012年度以降(同) 4)10年9月末 :0.10%(同) 5)10年12月末 :0.10%(同) 6)11年3月末 :0.10%(同) 7)11年6月末 :0.10%(同) 8)11年9月末 :0.10%(同) 9)11年12月末 :0.10%(同) 10)12年3月末 :0.10%(同) 11)12年6月末 :0.10%(同)

12)足元の景気サイクルを見ると、輸出が7月まではまだかなり強く、 生産のトレンドが完全に崩れる感じまではしない。海外の先行的指標 との関連では、8、9月に輸出も鈍化してくる可能性もあるが、今回 の会合での判断にはまだ反映されない。春先以降の中国経済のペース ダウンが、それ以上下振れる形になっていないことも含めて、日銀と しては景気判断を大きく修正する必要は感じないだろう。

10月の展望リポートでは、11年度の成長見通しをどこまで下方修 正するかがポイントになるが、成長見通し次第では、整合性を考える と、CPIの2011年度プラス転換の見通しも後退させざるを得なくな るだろう。

13)日銀としては今回の臨時会合での決定を受けて、残すカードとし ては、新型オペのさらなる増額、0.05%の政策金利と付利金利引き下 げ、国債買い入れ増額のうち、新型オペ増額の可能性がある程度低下 した。次に円高や株安で追加緩和を迫られる事態となった場合には、 利下げを実施せざるを得なくなるのではないか。

次の緩和のタイミングは、現在の踊り場的な景気状況が一段と下 方に振れる時だが、世界的な財政政策の方向も重要な要因になり得る。 景気重視の方向に各国が軌道修正をしてくれば、日銀にも協調的な緩 和策への圧力が強まる可能性もある。日銀は通貨政策に金融政策をあ てがうことへの抵抗感が強いと思われるが、実際に金融政策が為替水 準に影響を与え得るのであれば、それも致し方がない面もある。

しかし、先進国がほとんどゼロ金利で、金利面から為替が一方的 に円高になる必然性は後退している。過剰な通貨高には介入により国 家としての明確な意思表示も必要だろう。日銀は為替政策に対応する ことを政策の主目標とすることで、流動性バブルのような状況を引き 起こすことには注意を払う必要がある。ただ、短期的にはそのリスク はないと見られるため、実質的な弊害もないだろう。

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