【コラム】円高騒ぎの日本、「おおかみ少年」から教訓学べ-ペセック

成長鈍化とデフレ進行、8月後半の 説明の付かない円高を受けて、日本の当局は大胆な行動を約束した。 日本銀行の白川方明総裁は、米ワイオミング州ジャクソンホールから とんぼ返りし緊急対応を急いだ。

投資家は積極的な為替介入に対して身構えた。マスコミは8月30 日、菅直人首相が円高の影響を跳ね返す手厚い景気刺激策を発表する のを臨戦態勢で待ち受けた。しかし何も起こらなかった。

形ばかりの対策への失望は、まさに日本が避けたかった事態をも たらした。一段の円高だ。円は8月31日、1ドル=84円10銭とな り、同月23日の85円20銭からさらに値上がりした。スズキの鈴木 修会長兼社長は産業界を代弁し、円高を心配して「毎日落ち着かない 日々を送っている」と語った。

日本の政治家も同じ思いだろう。円高に対してなすすべのない日 本は、イソップ童話のおおかみ少年のようだ。あまりに何回も「オオ カミが来た」とうそをついたために、だれも少年を信じなくなった。

ドルとユーロが下がれば、円は押し上げられる。円高は、政策当 局者も企業幹部も一般人もが何よりも気にする国民的問題だ。円の15 年ぶり高値への上昇から、2010年の日本がどんな状況に置かれてい るかが分かる。良い状況ではない。

3つの苦労

日本の苦労は次の3つだ。

1.変化を嫌って避け続けることの代償が高くなっている。1980 年代のバブルとその破裂の後、日本にはなすべきことが多数あった。 銀行の不良債権処理に加えて、産業界の規制緩和、企業に優しい税制 への改革、生産性向上、起業促進などだ。

日本がこれらすべてを実践していたなら、今の日本経済ははるか に均衡が取れ、円高がこれほど問題になることはなかっただろう。し かし日本は巨額の財政出動や低金利、円押し下げなど、その場しのぎ の「ばんそうこう」に頼ってきた。

為替相場は2000年代に特に関心の的になった。日本政府が国際 優良企業に頼った貿易黒字の維持という一つ覚えの政策に固執したた めだ。日本の当局者は、投資家が安全を求める「危機の時代」には貿 易黒字国の通貨が買われるということを知らなかったらしい。

氷河のように遅い変化ペースのおかげで、日本の世界経済におけ る存在感は衰えつつある。中国は8月に、正式に日本を抜き世界2位 の経済大国になった。

この話の教訓は「円高を嘆くのをやめて問題を解決しなさい」だ と、三菱東京UFJ銀行のストラテジスト、ナオミ・フィンク氏は述 べた。

綱渡り

2.日本は国際社会に圧倒されている。世界の流れの力は日本の 官僚がどうこうできるレベルをはるかに超えたものだ。しかし、日本 の戦後のビジネスモデルがあまりにも素晴らしい成功を収めたため、 日本の企業エリートたちはいまだに変わることを恐れている。急速な 高齢化への対応となる移民受け入れや女性の活用に慎重であり続ける 同国政府もまたしかりだ。

しかし、このように微妙な綱渡りの状態は、日に日に継続が困難 になっていく。貿易黒字は別として、2008年9月1日から28%の円 上昇にはほとんど根拠がない。

日本は08年にリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが破た んするまでの好天の日々の間に、雨漏りのする屋根の修繕をしなかっ た。おかげで世界経済をめぐる悪いニュースという雨が降ってきた今、 日本はその代償を払っている。1億2600万人の国民に加え、日本復 活を期待して買い進んだ投資家も巻き添えだ。またしても、復活は誇 大広告だった。

危機感

3.政治の機能まひが響いている。外為市場のトレーダーたちが 日銀の円売り介入にびくつかないのも無理はない。日本の政策決定組 織の協調性は現在、最悪の状態にある。

問題の一つは、日本の首相がころころと変わることだ。9月14 日の民主党代表選挙で菅首相が負ければ、この3年で6人目の首相が 誕生することになる。

MFグローバルFXAセキュリティーズ(東京)の株式調査ディ レクター、ニコラス・スミス氏は「バブル崩壊から20年がたった今、 具体策とは言わないまでも、少なくともある種の危機感があってしか るべきだと思う」と話す。さらに、「外国人が名前を覚えられる程度に 長続きする首相も望ましい」と述べた。

このリーダーシップの欠如は実際にデフレを進行させている。7 月の生鮮食料品を除いた消費者物価は前年同月比で1年5カ月連続の マイナスとなった。消費者に貯蓄を減らし支出を促す最良の方法は、 未来が明るいと確信させることだ。企業についても同じことが言える。

そのような明るい見通しが、日本には欠けている。スズキの鈴木 会長はこのところ、より頻繁に一段と悲観的な発言を繰り返し、政策 当局に国民の叫びを聞いてほしいと訴える。当局は聞いているのだが、 自分たちも叫ぶのに忙しくて、世界が日本を置き去りにしていくのを 座視することしかできない。(ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラ ムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)